【第五部】修行の始まり
【第五部】修行の始まり編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
カイル達が戦に出て帰って来てから半年が過ぎた
エンペス村の人口は、四百人から千人に増え、もはや街の規模となっている
村民が増えた一つ目の要因として、無税がまだ一年半続き、さらに好景気に沸いているとの噂を聞きつけた人々がやってきた
二つ目の要因として、子爵に任命されたタルト村だが、実際には村というレベルではなく集落に近かった
村民はどこに居るかというと、あちらこちらに点在しており、各々自給自足の生活がほとんどであった
そのためにカイルがしたことは、村民の移住を勧めた
移住先はもちろんエンペス村だ
タルト村とウィンブルの間の街道まで船便を出すことにしたため、移住が簡単になった
集落や点在している各家に触れ回ったところ、若者を中心に約二百人が移住に応募してくれた
応じない家も多々あったが、基本的に自給自足で生活しているためこちらも無理強いはしない
タルト村は納税の必要がある
徴税はあまり通貨が出回っていないことから、獲物や野菜等の食料でも可能とした
元々大した税を納めていなかったこともあり、さほど影響はなかった
逆にタルト村とウィンブルとの間の街道に交易所を設立したため、ちょっとした村が出来てしまった
ここで取引した物をタルト村の納税分として申告すれば、王様も直轄地にしたことを少しは喜んでくれるだろう
ここまでで増えた村民の約五百人
残りの百人はというと
「エルさん今日も訓練ですか」
「ああ、なんたってこいつらの大半は戦いの素人なんだぞ
デールでの活躍でカイル兵団の名が上がり、至る所から入団希望者がこの村にやってきたんだ」
「嬉しい限りですね
ついにうちも人財不足の解消です」
「たしかに不足は解消したが、まだ何の戦力にもなっていない
まずはゴブリンと戦っても負けないレベルには鍛えるつもりだ
しかも俺一人では見切れなくなったから、精鋭兵士達にも指導して貰うことにしたぞ」
カイル兵団のトップは兵団長をカイル、兵士長にエルと精鋭兵士のタイラーとテイラーとし、統轄はエルで村の中はタイラー、外はテイラーに任せることとした
他に各班の班長には生え抜きの精鋭兵士を任命した
兵士の数は四十人から百四十人にまで一気に膨れ上がった
また村民が増えたため、村の規模も大きくなり、それに伴い見張りや村の警戒に人が必要になったが、そこまでの人数は必要としない
それを除いて残った兵士は約六十人で、それらは魔物討伐班に二十人、残り四十人は森林開拓班とした
魔物討伐班が増えると警戒や狩りが出来るエリアが広がった、それにより森林開拓も広範囲に広がり生産力を上げた
すると薪は村民で消費するとして、木炭は余り始めた
余り始めた木炭はバルボンへ販売をすることにした
木炭は薪と違い煙が出にくく長持ちするため、火炉やパン屋など商用で使用される
さらにエンペス村での蒸し風呂のノウハウを生かし、バルボンでもパン屋の熱源を貰う形で、蒸し風呂の営業を始めた
これが人気が出ることとなり、木炭と合わせて儲かったお金はエンペス村の財政として算入し、より豊かになってきている
豊かになった財政を生かし、病人が薬草を無料で貰える建物も作った
この村には教会はないが、大きな街では教会があり、本来寄付をしなければならない
これには村民も大喜びであったが、森林で薬草を採取したり、ローズ村から調達しても薬草が足りず、慢性的な薬草不足に陥っている
またパン屋と蒸し風呂の数も増やした
さらに増兵により、森林からビッグシーパーの糸が安定的に入ってくるようになったことで、縫製屋も立ち上げた
軍服と村民の衣服を作って貰う
住居に関しては、村民の急増により住む家が足りない状態になってしまった
今まで兵士や村民の協力によって木造平屋を建てていたが、建築屋を立ち上げ任せることにした
建築屋にはタルト村の村民が応募に応じてくれた
自給自足で何でもやっていた経験を活かせるとのことだった
ついでに村内の道も石や余ったレンガで舗装してくれるらしいので助かっている
今後更に人財が増えれば、村と街や村と村の道も舗装して貰おうと考えている
海沿いでは塩田が広がっているが、お金に余裕が出た村民が塩田地域でもレンガ造りの家を建設し始めてしまったらしく
塩田で仕事をしている村民とゆっくり静かに暮らしたい人との対立に発展してしまい、塩田等の商業地域と保養地エリアとを分けることに、おれ達が帰る頃にはなっていた
今の保養地エリアでは、綺麗なレンガ造りの家が立ち並ぶことで、保養地として有名になり、バルボンからも貴族が遊びに来るようになった
そしてその貴族達がデールから輸入してきた衣服や宝石を買ってくれたため、さらに村は潤った
漁業関係に関しては、村民が増えたことにより塩田を拡大、また船の漕ぎ手も確保出来た
それでも人が余ることがあり、造船に専念して貰う船大工の人数を増やした
森林から安定的に船用の材木が確保出来ることにより、他の街や村の依頼主からの要望に沿った船を、多少ではあるが販売するようになり、造船のノウハウを積むことが出来ている
今後は塩田の拡大もいずれ限界を迎えることから、造船業に力を入れていく方向のようだ
エンペス村の全てが好循環で回り始めた
そしてある日、カイルが商業ギルドの副支部長パージと士団長のエルを屋敷に集めた
「今日は皆さん集まって頂きありがとうございます
今日集まって貰ったのは、おれ達三人と村のことです」
「なんだカイル改まっちまってよ」
「おれは半年前に戦に出て、自分の力不足を痛いほど感じたんです
エルさんの左腕を失い、一歩間違えば全員命の危険がありました
セラスという怪物のように強い存在が居て、コビーさんという化け物級の魔導士と出会うことが出来ました
俺はもっと強くなりたい、強くならなければいけないんだと強く想ったんです」
「あれは俺の力不足だ
現にセラスに勝ったじゃないか」
「いえ
あれはセラスは別の目的で来ていて、本気でおれを殺す目的だったらやられていたかもしれません
なので、おれ達三人はコビーさんの勧めで、ジル魔導士団長の下で修行をした後に、タルト村の大森林の攻略をしたいと考えています」
「そうか、俺もと言いたいところだが
今の俺が行っても足手まといになってしまうからな」
「商業ギルドもカイル達のおかげでかなり儲けさせて貰った
手紙のやりとりは出来るだろうし、大森林の攻略が終わればまた戻ってくるんだろう…」
「はい
ここはもうおれの第二の故郷です
必ず戻って来ます」
「それならこの村のことは任せて、カイルのしたいようにすれば良い」
「そうなると誰か代理の子爵を選ばないとだな」
「それならパージさんにお願いしたいと思っています」
「お、俺!?」
「はい、お金の事が多く絡んできますからね
適任だと思ってます」
村の防衛などはエルさんにお願い出来れば」
「ああ
村の防衛は人数だけは居るからな
カイル達が居なくとも回るだろう」
「そんな感じになっちまったらもう断れねぇな
あくまで代理ということで受けるぜ
商業ギルドにもそう報告をしておく」
「ありがとうございます」
「それでいつ頃発つんだ?」
「引継ぎなどがあるので、一週間後くらいと考えています」
「分かった、皆で盛大に見送ろう」
一週間後、村の出入り口には人だかりが出来ている
その先にはカイル達三人
「では行ってきます
帰って来るのはいつになるか分かりませんが、手紙はたくさん書きます
なので、皆さんは何かあれば村長代理のパージさんとエル士団長に頼って下さい
遠くから出来ることは何でもします」
「じゃあな、カイル」
「元気でな、カイル」
「はい、お二人も…」
(カイル村長バンザーイ、カイル兵士団バンザーイ)
村民から叫ぶ声が聞こえる
そしてカイル達の姿が見えなくなるまで手を振る村民であった
第五部開始です!
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