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episode セダ③

【モデオ共和国編サイドストーリー】episode セダ

一日一話投稿していきます

うちの子、名前はカイルというの

歳はもうすぐ十四歳

背はもう私に並んでる

この前カイルが徴兵で村を出るって言うから、私カイルのために代わりにエンペス村の防衛を頑張ったの

残った兵士の数は三十人

今回、森林魔物討伐班の八人が居なくなってしまったから、私はそこに入ることにしたの

何人かの兵士が私を心配して、班に名乗りをあげてくれたんだけど、多分私一人の方が自由に動けるし、強いと思うの

ごめんなさいね

そうこうして、私は森林に入って魔物を狩り続けた

たまに森林開拓班の人達を見に行くんだけど、順調に木を切り倒してる

カイルのために頑張って欲しいわ


夜になると楽しみが一つ増えたの

それは蒸し風呂で汗をたくさんかくこと

冒険者時代はしょっちゅう汗をかいてたんだけど、母になってからはそこまで汗をかかなくなっちゃった

この蒸し風呂、カイルが発案したっていうじゃない?

やっぱりエイルムの血をひいてるだけあるわ、うふふ

それでたっぷり汗をかくと、喉が渇くのよね

だから隣にお茶を飲める所があれば良いんだけど、今度カイルに会ったらお願いしておくことにするわ


またしばらく経つと村の方が騒がしくなったの


「おい

僕を誰だと思っているんだ

マルス公爵家の親戚の息子の子供だぞ?

僕が歩く道に居たお前が悪い」

「いえ、でも…

ここは荷馬車優先ですし…」

「無礼者!

この僕に言い訳なぞするな!

万死に値する!」


何やら騒がしくなって来たため、兵士が集まってくる


「おい、そこの田舎兵士ども

こいつを引っ捕えろ

僕の通行を邪魔した罪だ!」

「んだとこのキノコ頭!」

「おい、やめとけ!

あの格好は、前の子爵とおんなじ格好をしている…」

「貴族か…」

「分かればいいんだ

早く捕えろ」

「おい、誰かセダさんを呼んでこい」


一人の兵士が屋敷に居るセダの所へ走って行く


扉を叩く兵士

(ドンドンドン)

「セダさんいらっしゃいますか!?」

「はーい、居るわよ

何事かしら」

「それが…」


兵士は事の詳細をセダに説明した


「あら、仕方ないわね

私が何とか収めるわ」


セダが現場に着くと、今度は村の人と言い合いになっている


「こんのキノコ頭!

誰の村でデカい顔してんだ!

さっさと村から出て行け!」

「は?

誰の村ってマルス公爵家の土地だ

それは僕の土地ってことだろ?

僕の土地でお前は何を言っているんだ」


村人が今にも殴り掛かりそうになったところで…


「はいはいはい

話は聞いたわよ?

私はセダ

今はこの村の防衛を任されているわ」

「こんなおばさんがか?

さすが田舎村だな、はっはっは」

「そんなおばさんからお願いよ

貴方は海沿いに並ぶレンガの家に遊びに来たのでしょ?

ここは塩田の関係者が仕事で使う道だから、そちらに行って貰えるかしら?」

「何を言ってるんだ

あそこを見ろ

僕の別荘が建ってるだろ?」


セダが視線をやると

塩田が広がってる海沿いに、ポツンと家が一つ建っている

先ほど喧嘩をしていた漁業関係者の男が話し出す


「セダさん見てくれ

あいつあんなところに家を建てちまいやがったんだ」

「あの素晴らしい景色を僕は独り占めしているんだ

最高の別荘さ!」


うーん、この子…

何を言っても無駄ね


「まぁ

今日の所は許してやろう

僕もリフレッシュに来たからな」

「それはありがとうございます♪

さぁみんな道を開けて!」

「セダさん…」

(良いから、後は私に任せて♪)


「ふんっ

分かれば良いんだ」


次の日別荘にて

(コンコン)

「なんだ、昨日のおばさんじゃないか

何の用だ?」

「せっかくこの村に来て下さったので、森林にも案内したいと思いまして♪」

「森林だと?

ま、魔物も出るんじゃないか?」

「出てもゴブリンくらいですから大丈夫ですよ?

ああ

もしかして魔物倒したことありませんでした?」

「ば、ばかな!

そんなのとっくの昔から討伐してる!

森林とやらに行こうではないか」

「はい♪」


セダとキノコ頭は森林まで歩いて行く

途中森林開拓班に会い、薪や木炭を生産している所を見せて回った


「それで私の仕事なんですけど、あの人達を守る仕事をしてて、この辺を魔物が居ないか警戒してるんです

せっかくなので、少し見回りしてから帰りましょうか」

「か、かまわん」


セダはどんどん森林の中を進む

その時


「しーっ

ゴブリンよ!」

「なっ

ゴブリンだと?」

「身を隠して!

私は右から行くから、あなたは左からお願いね」

「い、いや僕は…」


キノコ頭が何かを喋る前にセダは移動してしまう

そしてセダの悲鳴が聞こえた


「キャー

キノコ君逃げてー」


(こわいこわいこわい)

キノコ頭は必死で逃げる

途中コケて泥だらけになりながら

そして気付くと森林の中で、右も左も分からなくなっていた


「ここはどこなんだ

村はどこだ

あのおばさんはどうなったんだ

ゴブリンは?」


独り言が森の中に虚しく響く

その後何時間も森林を彷徨う


(カサッ)


物音がしてキノコ頭は身を隠す

よく見るとゴブリンが歩いている

キノコ頭は恐怖に怯え、震えながら息を押し殺しやり過ごす


そのまま恐怖で動けず数時間は経った頃、日が落ちて来て辺りは暗くなり始める


「このままだと夜になってしまい何も見えなくなってしまう

そうだ

火だ」


キノコ頭は枝葉を集め出す

そこいら中にあったため、すぐに集め終わる


「よし

集めたぞ

・・・・・

火種がない…」


(カサカサッ)


キノコ頭は身を隠し、再び怯えて息を殺す

もう辺りは暗くなっており、何が居るか確認出来ない

キノコ頭はあまりの恐怖に、落ち葉で自身を覆い身を隠し、そのまま一睡もせず、涙を流しながら一夜を明かした

喉も渇いたし、腹も減った

ふかふかの布団で寝たい

きっと誰もが自分の事を心配して探しに来てくれる、そう思っている


しかしそれから次の日も森林を彷徨う

なぜか魔物には出くわさないまま

二日目の夜がやってくる

もうきっと自分のことなんて誰も探してないんだ、そう思い始めた

キノコ頭は今まで人の威光とお金だけで生きて来た

友達も出来ず、学校ではマルス公爵の名前を出して、いじめられずには済んだ

ただ成績はいつも後ろの方

お金だけはあったから、大抵の事はお金で解決出来た

しかしこの森林では威光もお金も関係ない

初めて自分の弱さに気付き涙した

そして今日も落ち葉を集めて身を隠し、息を潜めて一夜を明かす


もう限界だ

いっそ死んでしまった方が楽のような気がしてくる

二日も寝てないし、お風呂にも入っていない

足は靴がぐちょぐちょで気持ちが悪い

もう限界だ


(カサカサッ)


(ああゴブリンだ)

笑いながらこっちに向かって来る

(もういいや)

目を瞑りゴブリンの前に姿を晒すキノコ頭


(バシュッ

ザシュッ

ドサッ)


(あれ、生きている)


「キノコ君

大丈夫?」


そこには女神が立っていた


「女神…様?」

「だいぶ追い詰められたようね

助けに来たわよ」

「あ、ありがとう…ございます」


キノコ頭は安心したからか、膝から崩れ落ち

セダの脚に抱き付いて涙を流す

そこにセダはそっと水袋を渡す


「こんなに美味しい水を飲んだのは初めて…です…

美味い…」


それからセダはキノコ頭と村へ帰って来る

すると見張りの兵士が何人か走って来た


「セダさん!

二日も居なくなって心配したんですよ!」

「ごめんなさいね

ちょっとこの子を教育してたのよ、へへへ

そこを開けてちょうだい

あと何か胃に優しい食べ物を、この子の別荘まで持って来て貰えるかしら」


二人はキノコ頭の別荘に着く

キノコ頭は服を脱いで体を水で洗い流す

するとさっきの兵士が、塩で味付けしただけのお粥を持って来る


「美味い…

食べ物を食べられるってこんなに幸せなことなのか…」


お腹が膨れると急に睡魔が襲って来て、人形のように布団に倒れて眠り、次の朝まで目を覚ますことはなかった

そして次の日セダが訪ねてくる


「よく寝れたかしら?」

「女神様おはようございます

よく寝れました」

「ところでこの家なんだけど、塩田の仕事をしてる方達の邪魔になってるみたいなのね」

「それは申し訳ございません!

すぐに家を解体して引っ越します!

この前喧嘩してしまった皆さんにも謝ってきます!」


キノコ頭はそう言い、走って行ってしまった


そして今日に至るの

後日聞いた所によると、喧嘩した人達全員に土下座をして謝ったらしいの

教育し過ぎちゃったかしらね

実は森林でワザと迷子にさせたの

一応キノコ君に危険が及ばないように、近くの魔物は全部狩っておいたの

でもたまには見逃して、緊張感を持たせてあげた

そしたら彼、落ち葉に身を隠して一日中泣いてるじゃない

ちょっと同情しちゃったけど教育のために、仕方なく見守ってあげたの

二日もすると顔付きが変わったわ

何かを悟ったように

試しにゴブリンを目の前に連れて行ったら、あの子逃げるでも怯えるでもなく、死ぬつもりだったみたい

ちょうど良い頃合いだったから助けてあげたら、女神様って

それで村に帰ったら何でも言うことを聞いてくれるようになってね

人生を変えてくれてありがとうって、逆にお礼をされて、街の方に帰って行ったわ

それからこの村は塩田の商業地域と保養地を分けるようになったの

彼は素晴らしい保養地だって、街で自慢してくれたみたいで、他の貴族が保養地に遊びに来るようになったの

彼、いつかとんでもない大物になりそうな気がするわ

私カイルのために仕事したわ、うふふ

【風景紹介】

保養地

挿絵(By みてみん)

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