一番乗り
【第四部】モデオ共和国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
「カイル、他の食料輸送班と仲良くなったんだがよ、どうやらうちの国が接収した村は、既にモデオ共和国によって取り返されてしまったらしいんだ」
「なら帰れるわね」
「エリサ、そうもいかないな
この国にはこの国の面子がある
簡単には引き下がらないさ
しかもうちの国の方が大所帯だからな
上の方達も予想はしてたと思う」
「残念ね
ただこの国の面子とやらのために、多くの犠牲が発生するってことをちゃんと理解してるのかしらね」
「全くその通りだと思うが、エリサ声は少し小さく頼む、反逆と見なされてもつまらん」
「それは失礼」
「そうなるとこれからは持久戦が始まるぞ
いよいよおれ達の仕事が重要になってくるんだ
相手は基本的に亀の子になって防衛するからな
それを切り崩せるか、あるいは…」
ウィンブルではほとんどの兵士が外で野営をしている
翌日には大半が出発するため、特に不満は出ることはなかった
「カイル、積み荷はどうする?
そのままで良い?」
「いや、これから先は道幅も狭くてぬかるみも多い
ここは手間は掛かるが積み荷を減らして、往復して対応しよう
幸いなことに塩はある程度あれば事足りるからな」
「分かった、じゃあみんな積み荷を減らそう」
カイル達は三台の荷馬車いっぱいの積み荷を三分の一にし、残した積み荷はここで精鋭兵士達に見張って貰うことになった
兵団の中の貴族の男が叫ぶ
「武器輸送隊の後に続け!
順調に行けばここから最前線の村まで三日から四日で着く
前が遅れると後ろへも波及するからな!
遅れないように全力で輸送せよ!」
続々と荷馬車が出発する
カイル達もそれに続いて動き出す
しかし問題はすぐに起きる
「おい、カイル
全然進まなくなったな
さっきから少し進んでは止まってはの繰り返しだぞ」
「どうやら前の方が早速ぬかるみにハマってるようですね」
「このままじゃ一週間以上掛かっちまうな」
「仕方ありません
横から迂回して進みましょうか」
カイル達はぬかるみから抜け出そうと必死になって荷馬車を押す兵士達を横目にスイスイ進む
「あれ?ねぇ
あそこ、前に居るの武器輸送隊じゃないかしら?」
「ああ、俺達は食料輸送隊の一番先頭になってしまったようだ」
「ええっと
武器輸送隊も前がどん詰まりしてるようだけど…」
「うーん
このまま待っても抜いた意味ないし、おれ達は荷物を軽くしてる分往復しなきゃならない
とっとと最前線の村まで積み荷を降ろしてしまおう」
カイル達は、武器輸送隊もぬかるみにハマって苦労しているのを横目に迂回して進む
すると予定通り三日で着き、先遣隊に受付をする
先遣隊の男が話す
「お前達が一番だ
どうなってるんだ?」
隣にいるもう一人の先遣隊の男が話す
「そりゃその辺の村から来たんだろうよ
積み荷は受け付けておくから、あそこの倉庫の中に入れておいてくれ」
「分かりました」
カイル達はすぐさま折り返す
その姿を先遣隊の中で一際上等なローブを着る男が見ていた
一ヶ月前のカンタラス王国の宮殿にて
「なに!?
ユリウスがモデオ共和国と戦になったと!?
あのバカはほんとどこまでいっても…」
「王陛下
そのようなことを言ってはなりません
あのバカのことは私共にお任せ下さい」
「ジャイロ
お前もバカって言ってしまっているぞ」
「失礼しました
つい心の声が出てしまいました
それで今回ですが、ユリウス公を見捨てる訳にはいきませんので、相手に負けない兵数で一万から一万五千程度の編成で良いかと
戦費に関してはユリウス公からふんだくって、弱体化させるのが吉かと」
「分かった、その辺はお前に任せる
宮廷魔導士も少し連れて行くのを許可する」
「ありがとうございます、ではそのように」
ジャイロは王室を後にする
そして宮殿内にある、宮廷魔導士の士団長の居る部屋へやってきた
(コンコン)
「入ってよいぞジャイロ」
「私だと分かりましたか
さすが小さい国家一国の戦力に匹敵すると言われてるだけはありますね、ジルは」
「ほっほっほ
まぁ遠い昔のことじゃ
してどのような用件じゃ?」
「ええ、実はユリウス公がモデオ共和国と戦を始めてしまったらしいのです
それで陛下から宮廷魔導士の派遣のお許しを頂いたので、お願いに参った次第です」
「ユリウスがか…
すまぬ、わしの教育が足りなかった責任もある
今回はわし自ら赴こう」
「それは有難い
ユリウス公の幼少期の元教育担当でしたもんね」
「ああ、あやつはわしが何人か育てたうちの中でも、魔法のセンスはかなりもんがあったのじゃが、人格に大きな問題があってな
わしの力では直すことは出来なかった」
「いえ、ジルのせいではありませんよ
教育途中でもうジルから教わることはないって、実家に帰ってしまったのですから」
「そうかのぅ
まぁ今回はわしの右腕を連れて行くことにする」
(コンコン)
「コビーか、入れ」
「なにかご用でしょうか?
忙しいのですが」
「ほっほっほ
昼寝するのがそんなに忙しいか?」
「え?」
「後の髪に寝癖がついとるぞ」
「あ、いや!
これは…オシャレです!」
「まぁ良い
今日呼んだのがユリウス公がモデオ共和国と戦を始めたらしい
そこでわしが行くことになってな、お前も付いて来い」
「いえ、お断りします!
死んじゃうかもしれないじゃないですか?
死んで国のために散ったとか英雄扱いされても僕には何のメリットもないじゃないですか?死んじゃってるし」
「ほっほっほ
まぁそう言うな
相手にはあのセラスも出てくるという噂があるぞ?」
「ジル
それを先に言って下さい
行きますよ、行くに決まってるじゃないですか!」
「お前にもまだ人の血が流れていて安心したぞ
では用意出来次第わしらも行くぞ」
「ええ
待ってろよセラス…」
【人物紹介】
ジャイロ
年齢:五十七歳
生い立ち:マルス公爵領で生まれ育つ
家族構成:両親は他界しているが、マルス公爵領の上級貴族
妻は現国王の妹、子供は二人、長男はマルス公爵領の実家を継いでいる
次男は王直轄の徴税官として働いている
特技:計算、調略
Episode:上級貴族の家の生まれのため、幼少期から英才教育を受ける
王都の最難関学校に自力で合格し、そこで現国王と出会う
王とは学校で一緒にいたずらしたり、女子をひっかけたりして唯一無二の友となる