パージの秘密兵器
【第四部】モデオ共和国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
エルは早速徴兵で行く兵士を選んだ
全員独身だそうだ
出発の日、港に行くと既にエル達兵士は揃っていた
「すみません、お待たせしました」
「いや、俺達も今来たところだから大丈夫だ」
全員お揃いの軍服にリュックを背負っている
兵士の家族も見送りに来ており、涙でお別れを告げているようだ
「エルさん
おれは誰も死なせるつもりはありませんよ」
「ああ、俺もそのつもりだが、みんな心配なんだよ、黙って見守ってあげてくれ」
「後方支援なので戦うことはないと思いますが、全ておれが責任を取りますので、おれの指示には従って下さい」
「そこは立場的にも子爵だし、構わない
ただ俺の方が多少軍隊の習わしみたいなのは弁えてるつもりだ
助言はさせて貰うぞ」
「その辺はぜひ助言をお願いします」
「ところであのおっきい船は…」
パージが船に乗って港に入ってくる
「おーい
おーーい」
「パージさん!」
船が桟橋に接舷する
「待たせたか!?
今回馬を乗せるからよ、小さい馬の厩舎を船の上に造っておいた」
「いえ、全員待ってませんよ
しかし、この船…
大きい!!」
「見てくれ!
おっきいだろう!!
マストは船首と船中の二本マストだ
漕ぎ手は船の中に入って、この窓からオールを出して漕ぐんだ
今まで六人で漕いでいたのを十人で漕げる
それで積荷は二倍だから輸送効率が格段に上がるんだ
さらに甲板には小さい厩舎を造った
馬五頭は繋げるから馬一頭に二人づつ乗ってくれ
まぁ厩舎造っちまったから物資に関しては必要量しか積めなくなったまったがな、はっはっは」
「パージさん!
この船カッコ良過ぎです!
男の浪漫です!
本当にありがとうございます!」
カイル達一団は馬や物資を積み込み、最後に乗り込む
「乗っただけでも気持ちが上がりますね!」
「そんなに喜んでくれて良かったぜ」
「カイル、せっかく村のみんなも来てくれてるし、ここは士気を高めるためにも一言頼む」
「ええーと
今日は見送りに来てくれてありがとうございます!
必ず全員無事に帰還してみせます!
・・・カイル兵団!出発!!」
船と桟橋のロープが開放され、船がゆっくり動き出す
その後船頭の掛け声により、漕ぎ手が一斉にオールで漕ぎ始める
数分経つと見送りの人々は、既に遥か遠くとなっていた
「カイル、ふふふ
カイル兵団だって、ふふふ
カッコいいね、僕気に入ったよ」
「いや、なんて呼んだら良いかなって考えたんだけど、自然と出てしまったんだ…」
「いずれこの国で誰も知らない人が居ないくらいになろうね」
「ああ、恥ずかしいけどな
ところでパージさんはなぜ付いて来ているんですか?」
「いや、この船の発案者としてはな…
ちゃんと目的地まで行けるか見届けないといけないしな」
「デールには連れて行きませんからね?」
「お、おう
その辺はちゃんと弁えてるぜ…」
その後は海岸伝いに西に進んでから川に入る
夜は岸に繋いで野営をする
「パージさんおはようございます
順調に来てますかね?」
「ああ、船頭が言うには予定通りだそうだ
あと数日もすれば、ウィンブルに続く街道と交差する場所に着くだろう」
「一ヶ月後で良かったんですが、三週間で着いてしまいそうですね」
「そうだな
まぁなかなかデールに行く機会もないだろうから、色々観たら良いんじゃねぇか?」
「そうですね
デールから最前線の村までは三日程度掛かるんですよね」
「馬だと三日程度だが、徒歩となると一週間くらい掛かると思うぜ」
「戦場に行く兵士の皆さんは大半が徒歩ですもんね」
「立場が上の人間や資金に余裕がある貴族の兵士は馬車もあるようだが、大半はただ連れて来られてるだけだ」
「連れて来られて一週間の移動後に生死を賭ける戦いをする
無事生き残ったとしても、また一週間掛けてデールまで戻って、そこからまた自分の家まで数日から数週間掛けて帰るなんて、たまったもんじゃないですね」
「だから戦ではいかに捕虜を捕らえられるかが大切なんだ」
「殺すことより捕虜なんですか…」
「そうだ
戦に勝ったって褒賞があるのは上の人間で、下の方の人間には気持ち程度のお金が支払われるだけだ
だから捕虜にして身代金を要求するんだ
殺しちまったら何も取れないだろ?」
「なんか複雑ですね
良いのか悪いのか…」
「ただ捕虜にされるのはそれなりの身分があるやつだけだ
下っ端は金も取れないし、捕虜にしても逆に手間と金が掛かっちまうからよ、殺されるか強制労働をさせるかだな」
「勉強になります」
「よし、そろそろみんな起きてきたようだし行くか」
それから数日掛けてウィンブルへ続く街道と交差する場所に当たる
「着いたぞ!
船を寄せるから降りる準備をしとけ!」
「パージさんここまでありがとうございました」
「いや、こいつの処女航海だったし、無事ここまで来れて良かったぜ
絶対ぇ死ぬなよ!
俺達の村にはお前が必要だ」
「はい、絶対みんな無事帰還します!」
カイル兵団は船を降りて、移動の準備をする
馬五頭に三台の荷馬車は現地で組み立てる
そしてその荷馬車いっぱいに食料を積み込んだ
「じゃあ俺達は一旦帰るからよ
また船が必要なら手紙を書いてくれ」
「はい、パージさん達も帰り道気を付けて!」
パージ達を全員で見送る
数分もすると遥か遠くに行ってしまった
「カイル、デールに行くかい?」
「いや、だいぶ時間があるからちょっと行きたいところがある」
「僕はカイルに任せるよ」
「エルさん、ちょっと行きたいところがあるんです」
「どこに行きたいんだ?」
「前線の村までここから半日のようなので、下見しておきたいんです」
「勉強熱心なことだが、一応俺達は後方支援の予定だぞ?」
「はい、なので前線の村までの道の状態を確かめておきたいんです
もし舗装されていないようなら、あちこち凸凹があると思うんです、そうなると補修用の資材とか荷馬車に乗せる重量なんかは軽くしないといけないですし」
「なるほどな、さすが商人だ
その目線は俺にはなかったぜ」
「なのでおれ達四人だけは、馬二頭を借りて下見に行きます
精鋭の六人には残りの馬で荷馬車をひいて、先にデールに入って貰いたいんです」
「分かった
カイルの指示通りにしよう」
【開発兵器紹介】
ボレロ船
この世界ではボレロ船と呼ばれる船が主力となっていて、船型は細長く平たく一本マストが多い
基本的に人力のオールの推進と、帆走を併用出来る船で、積み荷を載せる能力は低い
穏やかな内湾や河川での使用に限られ、一般的なボレロ船では居住スペースがないため、夜が訪れる度に上陸せざるを得ない
また波の影響を受けるとオールで漕げなくなるため、外洋には使えない
戦での使用については、船首に衝角を装備しており、オールの推進力による突撃攻撃が一般的である