週末
【第一部】ローズ村編
後書きもお楽しみ下さい
翌朝
「昨日も良く寝たなぁ
今日は週末でお店も休みだ
勉強するぞ」
エイルムのお店は週末を休むようにしている
普通の村民に休みなどないが、父さんは必ず週末は休みにしていて、母さんとの時間を大切にしている
きっとこういう優しさが、母さんが父さんを好きになったところでもあると勝手に推測する
そしておれはというと
この村には街にあるような学校はない
村で読み書きは必要なく、勉強が出来る人間は一握りだ
「村長、カイルです
またいつも通り勉強教えて下さい」
「村長、僕もお願いします」
「二人とも熱心なこったな
もう読み書きは教えることもないしのぅ
よし、今日は魔法について勉強するかのぅ」
その後、村長から午前中いっぱい魔法のことを教えて貰った
この世界の人間には、大なり小なりみんな魔力を持っており、魔力が強いものは火を出したり水を出したり出来るのだそう
属性は大きく分けて火・水・風・土の四属性で他にも光や闇、身体強化魔法の存在が確認されている
魔力は遺伝が影響されているとされ、ゆえに諸侯や騎士に魔導士が多く存在している
さらに魔力が強いものは、王の直属の魔導士となり、魔物討伐は元より隣国や諸侯、騎士に睨みを効かせる存在となっている
「まぁそんな話聞いても、村にいる連中で魔法が使えるのはほとんど居ないし、使えたとしても火を起こしたり、僅かな水を出したりする程度であまり役に立たないしな」
「ひょっひょっひょ
カイルよ、知っておくのと知らないのじゃ大きな差があるでな
まぁセダが教えぬのなら、ワシが知識以外教えることもないがのぅ」
「母さんが?
スタイル抜群で強くて優しいあの母さんが、何か魔法を使えるの?」
「それはいずれ時が来たら話すこともあるでな
今は学び、鍛錬に励むと良いだろうて」
気にならないと言えば嘘になるけど、いずれ機会があれば聞いてみても良いかもしれない
それから午後になり、カイルとボーズは村の外に出て、薬草採取の小遣い稼ぎに出掛けた
「カイル、この辺で良いか?
村からギリギリ見える森のところだし、これ以上先に行くと魔物が出るしね」
「ああボーズ、この辺りにして
さっさと薬草を採取して帰ろう」
カイルとボーズは手際良く薬草を採取する
「薬草は安定した値段で売れるからありがたい、うちのお店の主力商品の一つだし
まぁ、薬草ってもヒール草やキュア草にバーサク草なんて身体能力を上げる薬草もあるってんだから凄いよな」
「まぁボーズにはバーサク草なんて要らないけどなっ
馬鹿力だし、馬鹿力だし、馬鹿力だしな!」
「おい、僕には力しかないっていうのか、まさにその通りだ否定はしない!」
うん
そこが好き
「といってもこの辺じゃ、ヒール草かキュア草しか生えてないけどね」
そのまま夕暮れまで薬草を採取し、お店に戻る
「ニ人共お帰り
今週も薬草採取に行って来たようだな
どれどれ、ヒール草とキュア草か、ふむふむ
まぁたたくさん採ってきたね、しかも採取の仕方も完璧だな
ほれ、小遣いだ」
(ジャリッ)
カイルの手のひらに十数枚の銅貨が置かれる
「まぁ採取の仕方は父さんにしつこいくらい教わったからね
採取する時は葉っぱに触らず、茎を持って根っこごと抜くんでしょ
刈ったら鮮度がすぐ落ちて上手く乾燥しないし、葉っぱを掴んでも手の温度で鮮度が落ちてしまうんだよね」
「よし!さすがおれの息子だッッ!」
「小遣いはよく食卓に出る固いパン18個分か
毎度多いのか少ないのかよく分からないな」
「僕は固いパンも大好きだから嬉しいけどね」
そうして今夜も母さんの手料理を食べ尽くす
父さんと母さんの肌がやけにテカテカしてることは毎週末の恒例だ
翌日
週末といえども毎朝の鍛錬は欠かさないカイル
「ふー、今日も朝から良い汗かいたなぁ
さて今日も午前中は勉強することにしよう」
今日も村長のところでボーズと魔力について学ぶ
魔力とは何か、人は魔力総量の多い少ないがあり、それは持って生まれた遺伝という説があるため、血液が関係しているのではと考えられている
血液の中に魔力を創り出す何かがあり、それが魔力となる
また魔力総量は産まれた時から決まってるという説もあるが、鍛錬を積むことで増えるという説もある
いずれ解明される時がくるだろうとのことだった
そんなこんなで週末が終わり、またいつもの日々がやってくる
「カイル、今日は東側の畑の大麦収穫を手伝って来てくれ」
村には共同で管理している畑がある
村の大半がここで働いており、百人を食べていかせる必要があるため、見渡す限りの広大な土地だ
栽培方法はニホン式と言い、畑を二つに分けて片方で穀物や野菜を栽培し、もう片方は一年間土地を休ませている
なんでも土地を休ませないと育ちが悪くなったり、病気にかかり易いらしい
「なぁボーズ、こんな広大な土地があるのに、半分もただ土地を休ませるなんてもったいないと思わないか?」
「僕も確かにそう思うけど、先人達が考えて辿り着いた方法だし、これが一番なんだよきっと」
この地域は一年を通じて温暖な土地であるため、大麦やライ麦や大豆を育てており、年二回も収穫できる
野菜はキャベッジやブロリーやカーブ、保存がきくトウモコロシも多く育てている
基本的に村民で消費してしまうが、麦やトウモコロシの余ったものについては、伯爵様の住むバルボンという大きな街へ売るか、ここからさらに南にある海沿いのエンペス村で、塩や魚と物々交換か通貨で取引をしている
「いやー今回も大豊作だな
これでまた今年も食べることに困ることはなさそうだね」
数人の村人と刈った大麦を束にして並べていく
並べられた大麦の束は、ズラーっと向こうの方まで続いていた
「しかしこれを脱穀しなきゃならんと思うと億劫だね
まぁ脱穀自体は村人がやってくれるし、うちはそれで余ったものを売るだけだけど」
そして気付くと夕暮れになっており帰路についた
カイルが家の前に着くと荷馬車があり、エイルムが積み荷をお店の中に運んでいる
「カイル!良いところに来たな
今日エンペス村に行ってきて、古い大麦とラビットの肉と薬草を売って来たんだ
引き換えに大量の塩と魚を仕入れてきたから、後で塩漬けにしておこう」
カイルとボーズが積み荷の搬入を手伝うと、あっという間に倉庫へ運ばれた
エイルムは不定期でエンペス村に交易に行っている
塩はこの村では作れないし、魚も川魚は獲れるが、海の魚は生臭さもなく村人には好評だ
夕飯を食べ、カイルはいつもの魔物を解体するテーブルの前に立ち、エプロンを羽織り、慣れた手付きで魚の内蔵を取っていく
捌いた魚は木の樽の中に放り込む
その上から塩をまぶし、さらに魚を放り込み塩をまぶす、というのを繰り返して積み重ねていく
合計三樽ほど作る事が出来た
村民約百人のほとんどが海魚を好んで食べるため、これで一ヶ月ほど村民の食卓を飾る事が出来る
【人物紹介】
レアード子爵
年齢:七十二歳
生い立ち:生まれも育ちもローズ村
家族構成:父親は元子爵で元村長、母親は父親と幼馴染
兄弟はおらず一人っ子で甘やかされて育つ
妻はキャサリーン、子供三人は皆独立して村に住んでいる
孫は六人おり、今は孫の顔を見るのが毎日の楽しみとなっている
特技:リュート(年一回の豊作祭で毎年披露している)、元冒険者ランクD
Episode:小さい頃からやんちゃ坊主で父親に何度も暗い部屋に閉じ込められる
十五歳の頃、何でも燃やすのが無性に面白くて、収穫した麦の束を燃やしてみたら火が燃え移り、家一軒を全焼させる
その家に住んでいたのが、妻であるキャサリーンで責任を取った形となった




