戦の匂い
【第四部】モデオ共和国編
後書きもお楽しみ下さい
一日一話投稿していきます
五人は屋敷のリビングに集まった
「えーと、支部長がバルボンへ商業ギルドの定期集会で行っててな、今日帰って来たんだ
うちの国は人口が増えてるのは知ってるだろう?
そんで近い将来に鉄や食料やらが足りなくなるってんで、東のユリアス公爵が功を焦ってな
隣の国との緩衝地帯にある田舎村を一つ接収しようとしたらしいんだ
そうしたらあちらの国も見過ごす訳もなく、争いになっちまったらしいんだ」
この国カンタラス王国は大きな大陸の中央に位置しており、領地は正方形に近い形で南側は海に面していて、その一角がエンペス村となっている
他の東西北は他国と隣接していて、今回東側のモデオ共和国との戦いになってしまったらしい
「それでうちの村にも何かしらの影響が出そうということでしょうか?」
「ああ、間違いなく何かしらの影響は出そうだ」
「大体の検討はつきますか?」
「そうだなー
まず最初に考えられるのは徴兵だ
王から公爵へ徴兵の命が出される、次に公爵から伯爵に、そして伯爵が子爵に徴兵を命じるんだ
この村の規模からすると二十人程度になるはずだ
これが国を防衛するような戦だと、五人に一人は徴兵されるから、この村だと八十人も徴兵されることになる
まぁ今回はそこまでじゃないから、おそらく前者となるだろうな」
「二十人ですか
うちの村の兵士の数は四十人ですから、半分も連れて行かなければいけないんですね」
「最前線に送り込まれるかは公爵の力関係によって決まるんだ
ちなみにうちの南側を治めるマルス公爵は王派だ
だから比較的安全な後方支援に回される可能性が高い」
「最前線に送られるのは、普段王の言うことをあまり聞かない連中だな
普段言うことを聞かなくて、税の納税も少ない分、こういう所では前線で戦わなければならない
王もそれを分かっていて黙認している
まぁ一枚岩じゃないってことは確かだな」
「分かりました、ひとまず安心しました」
「他には何かありますか?」
「ああ、物資の提供や船の接収も考えられる」
「その辺は国のためですから致し方ないですね
ただ物を提供する代わりに、少し徴兵の数を減らして貰いたいところです」
「それは伯爵との関係性次第だろうな
カイルは伯爵から一目置かれているようだから交渉は出来るだろう」
「分かりました、ひとまず静観するしかないですね
一応ローズ村には伝えさせて貰いますよ?」
「ああ、それくらいは構わねぇ」
それからカイルはローズ村に使者を送り、今回の内容を伝え、一ヶ月が経過した
(ガラガラ、ゴトゴト
ヒヒーン)
エンペス村に、トール伯爵の紋章の付いた馬車が到着した
カイル達は村の外に居たが、村から煙が上げられたため急いで戻って来る
そして見張りの兵士からトール伯爵の馬車が到着したことが、カイル達に伝えられた
屋敷には既にパージとエルも集まっている
「お待たせしました
私が村長のカイルです
今回はどのような用件でしょうか?」
「はい、私はトール伯爵様の遣いで来ましたドウェインと申します
本来は先に手紙を送るのが礼儀ですが、早急で重要な話でしたので、直接お話したく参りました」
「はい、その辺は気にしないでください」
「ありがとうございます
それで話というのがですね
実はカンタラス王国は、現在東にあるモデオ共和国と戦をすることになってしまいました
ついては、マルス公爵様から徴兵の依頼があり、こちらの村も徴兵に応じて頂きたく、お願いに参った次第です」
「ええ、戦の噂は聞いておりました
国のために戦うことは光栄なことです
ただ徴兵の人数がどれくらいなのかというのが気になります」
「はい、単刀直入に言いますと二十人
と言いたいところですが、こちらの村の発展も凄まじく、トール伯爵様もいずれ税収で貢献してくれることを願っておりまして、十人と塩と魚介類の提供をお願いします」
「塩と魚介類だけですか
必要量は?」
「こちらの手紙に書いてあります」
「こんなもので宜しいのでしょうか?
実は船も接収されると想定しておりました」
「ええ、これはトール伯爵様からの伝言で、セダとエイルムには昔世話になった、そのよしみだ、とのことです」
「あはは、父さんと母さんにはほんと頭が上がらないな」
「それで兵の配置ですが、おそらく後方支援になるだろうとのことです」
「そうであると願いたいですね」
「では二ヵ月後に、国の東側を任されているユリアス公爵様が治める、デールという四大都市の一つに集まって下さい」
「分かりました」
全員で使者を見送ったあと屋敷に戻り、話し合いを再開する
「パージさん
物資の運搬はこの手紙通りに手配お願いします」
「ああ、大した量じゃないから大丈夫だ
任せてくれ」
「徴兵で行くメンバーはどうするか…
十人ってなると…」
「俺が行こう」
「いや、エルさんが行ってしまうと、ただでさえ兵士の人数が減ってしまうのに、村の防衛が疎かになってしまいます」
「いや、前回のゴブリンの時もそうだった
カイル達はまだ危なっかしい
今回は押し通させて貰うぞ!」
「エルさん、そう言って貰えるのはホントに嬉しいですが、村のみんなの安全も大切なんです」
「それならカイル達が残ってくれれば大丈夫だ
俺と兵士の中から独身の者を選抜して行く」
「いや、それは!」
「待って!二人もとちょっと落ち着いてよ
一回お茶を飲んで落ち着こう
エリサ、悪いけどみんなにヤムの茶を出してくれるかい?」
「任せてちょうだい」
それからエリサは火魔法で火をつけて、湯を沸かしヤムのお茶を淹れる
その間、全員無言で各々思い悩んでいる
ボーズが口を開く
「さぁお茶を淹れたから飲みましょう」
お茶を啜る音が部屋に響く
カイルが何かを切り出そうとしたその時
(ヒヒヒーン)
外に馬が止まる
(コンコン)
ドアをノックする音が聞こえ、カイルが出てみるとそこにはセダが立っていた
「カイル〜!
久しぶり♪
全然村に帰って来ないから来ちゃった♪」
「母さん
どうしたの!?」
「どうしたって失礼ね!
母親が息子に会いに来て何が変なのよ!」
「そ、そうだね
ただ今ちょっと立て込んでて…
ごめん忙しいんだ…」
「あれでしょ?
徴兵の事でしょ?」
「母さんなんで分かるの?」
「トールの使者がうちの村にも来てね
徴兵の依頼があったわ
多分免除でも良かったんだろうけど、周りの目もあるし、うちの村からは穀物の提供だけで良くなったのよ」
「あはは、母さん達ホントにどんだけ伯爵をお世話したのさ」
「それでね、あなた達のところは徴兵は免れないだろうし、戦の間だけでも手伝いに来たのよ」
「あ、パージさんとエルさんは初めてだよね
こちらうちの母さんのセダ
今はローズ村でしがない主婦をしてるんだ」
「ははは、しがない主婦のセダです♪」
「エルです、初めまして
この村で兵士長を任されています」
「商業ギルドの副支部長のパージだ
もしかしてセダってあの疾風の…」
セダがパージの横に一瞬で移動し、肩から手を回して口を塞ぐ
「オホホホホ
私はしがない主婦よね?パージさん?」
(い、息が出来ない…)
セダが解放する
「ブッハァハァ、そ、そうそう
何かの勘違いだった
しがない主婦のセダさん宜しくお願いします」
「母さんは昔冒険者だったらしいんだよね
母さんならこの村の事を任せられる」
「うん、その辺の魔物相手なら一人で倒せるから、安心してちょうだい♪」
「カイル!
そうと決まったら俺も行くぞ、良いな!」
「分かりました
それじゃあメンバーは、俺達三人とエルさん、それと他の六人はエルさんに任せます」
「よーし、こうしちゃいれない
早速準備に取り掛かるぞ!」
「あーと、すまん
俺パージから提案がある
実は一年くらい前から動いてて秘密にしていたんだがな、形になったんで発表させて貰うわ
今の船の二倍の大きさの船を造ったんだ
今までのうちの規模だと、造船用の材木不足と漕ぎ手が足りなくなっちまうから造らなかったんだがな、こうして人が増えたから運用可能になった
しかも漕ぎ手が今までより多少多く必要になるが、物資の輸送は倍出来るようになる
これには東のとある国でもやっているそうなんだが、馬や荷馬車も乗せられるようになっててな、今まで港があるところじゃないと荷を運べなかったんだが、どこへでも運んで行けるようなるんだ
だから今回は川である程度東に行って、そこから馬で行けばかなりの時間短縮になるはずだ」
「パージさん
そんなこと考えてくれてたんですね!
ホント凄いです!」
「ああ、まだもう一つ秘密にしてることがあるんだが、それはまた形になったら発表する」
「楽しみにしてますね」
【施設紹介】
蒸し風呂
構造はレンガ造りのパン焼きかまどの燃焼室の一部をくり抜き、そこに鉄釜を設置し、その蒸気を室に入れる
室は高さ二メートル奥行き五メートル横幅七メートルで大人約十五人は入れる
入口付近には木造りの更衣室兼湯上がり場が設置されている
壁はレンガ造りで中は木材で、座れる階段のようになっている、座る場所には水と塩を含ませた藁を敷くことで更に蒸気を発生させている
この世界ではお風呂に入る文化はない
お湯に浸かる共同浴場は、病気が移るや水循環機能がないため不潔とされていた
蒸し風呂であればその心配がないというで、村では大変人気が出た
このエンペス村では全て混浴で、当初は皆恥ずかしがったが、次第に恥ずかしがる方がヤラシイ人として白い目で見られた