【第三部】エンペス村開拓とゴブリン
【第三部】エンペス村開拓とゴブリン編
後書きもお楽しみ下さい
エンペス村の子爵に任命されて約一ヶ月
おれは一度ローズ村に帰り、身支度とお世話になった人へ、事の成り行きを報告して回った
「村長
そんな訳でエンペス村に行って来ます」
「それは寂しくなるのぅ、特にエイルムとセダはさぞ寂しかろうて」
「はい、でも一生会えなくなる訳ではないですし、いざとなったらまたこちらの村でお世話になります」
「そんな逃げ出す子ではないのは良く知っているわい、最後にわしからアドバイスじゃ
村長となると、時に厳しい決断に迫られる時もある
その時は逃げずに恐怖に向かっていくのじゃ
今はこの意味が分からないかもしれんが、いずれ分かる時がくるじゃろう」
「村長ありがとうございます
そんな時が来て欲しくないですが、自分なりに頑張ってもがいてみますよ」
村長に別れを告げ、商店に帰る
「父さん、仕事はどうしようか…
誰か新しい人を探さないとだよね」
「ああ、その事だがな、実はエンペス村から来た一団があっただろう?
エンペス村に帰っても食べるのもギリギリだし、この村なら食うに困ることはないから、この村に居させてくれってことで、どうやら手伝ってくれるようなんだ」
「それは仕事も作らなきゃいけなかったし、ちょうど良かったね!」
「お前らが優秀過ぎて、二人で回してた仕事は数人でやることになって、うちの利益は減っちまうけどな、ははは」
「カイル、私のカイル
ああーもうクンクンさせて!
スゥーハァースゥーハァー
無理だと思ったらうちに帰って来て良いからね!
あと定期的にエンペス村に遊びに行っちゃうんだから」
「あはは、母さん今生の別れじゃないし、そんないつでも会いに来るよ!」
セダが心配そうに見つめる中、カイルは荷物を荷馬車に積み込み旅立つ
村から離れ荷馬車に揺られながら話す三人
「さて、家はどうするかなぁ
なんか子爵の屋敷に住むのもなんだかなぁ」
「子爵になったんだし、誰も文句は言わないと思うよ」
「ええ、私もそう思うわ
まして村のトップであるあなたが宿暮らしじゃ、他の村に面目が立たないわよ」
「まぁ、そんなもんかぁ
ちょっと修復が必要だけど、住むしかないか
あんだけ広いんだ、ボーズは屋敷に住むだろ?
エリサはどうする?」
「私は元々住んでた家があるし、屋敷に住むなんてお互い気を使うでしょ」
「そんなことないよ!
エリサが一緒に住んでくれた方が心強いし、これから村のこととかカイルが聞きたい時に、近くに居た方が良いと僕は思うよ!」
「そうだな
エリサさえ良ければ部屋も余ってるし、どうかな?」
「二人がそこまで言うなら…
でも変な気起こさないでよね!
私はか弱いレディなんだから!」
「レディ様、おれとボーズであなた様を守る事をここに誓います」
「エリサ、カイルは頼りになるし大丈夫だよ!」
「頼りになるようなならないような…
まぁご厄介になるわね、宜しく」
こうしてカイル達は、一つ屋根の下で暮らすこととなった
「それでカイル
この後村はどうするつもりなの?」
「ああ、それだがな
とりあえず税率も元に戻したし、塩と魚介類の取引に関しては商業ギルドに任せるよ
喫緊の課題は防衛だ
兵士が全員打首になってしまったし、魔物や野盗から村を守らなければならない
まずは兵士集めから始めようと思う」
「そうよね
私の聞いたところによると、あの坊ちゃん子爵が来てからさ、どうやら反発したりして辞めさせられた人も多いみたいなの」
「そうなんだ
正義感が強い人も居たんだな
よし、エリサ
その人達に声を掛けてくれないか?
元の雇用条件で働いて貰いたい」
「ええ、とりあえず声を掛けてみるわ」
それからエリサは伝手を辿って、元兵士に声を掛けて回る
税を元に戻した評判もあって、すぐに元兵士の大半は要請に応じ集まった
「カイル
意外とすぐに集まってくれたわ」
「だいたい何人くらいだ」
「ええ、そうね
十人くらいかしら」
「十人だと厳しいな」
「どれくらいの人数が必要なの?」
「うーん
おおよそだかこんな感じだ」
カイルはおおよその必要な兵数を、エリサに提示した
最低でも三十人ほど
領主兵は村を守ることは何より、塩田や畑を魔物から守らなければならない
見張りも日中と夜間の二交代制
そうなると十人は夜間の見張りが欲しい
さらに領主内で揉め事が起こった場合、現場に駆け付ける必要がある
ローズ村ではいざこざがほとんどないため必要なかったが、それでも解決しない場合は、子爵自らが判決を下さなければならない
他に食料目的での獲物や魔物の狩り、村民が森で色々採取するための同行など多岐に渡る
「そうなるとあと二十人は必要ってことね」
「ああ、当面はおれとボーズがフォローに入るが何とか人数を確保しないとな」
ここでこの村について再度整理しておこう
村民は約三百人で、そのうちの八割が漁業関係者、塩や魚介類は船で川を上ってバルボンへ運んでいる、残りの二割が半農半職で生産牧場や野菜栽培をしてるのがほとんどで、ほんの一握りだが、領主管理の下でパン屋をやったり鍛冶屋をやったりしている
そしてどこから人を持ってくるかといえば、漁業はうちの村の特産物だから人を減らしたくない、そうなると必然的に半農半職の方々になるだろう
「カイル、半農半職の人はなぜ専門職にならないの?」
「ああ、ここは海に近いから塩害で何かと商売が難しいんだ
だから他の職もやりながら生活してるのさ」
「例えばだけど、その人達に給金を渡して兵士になって貰うことは?」
「可能だろうけど、野菜の栽培やヤグの世話は出来なくなる」
「ならカイル、いっその事、野菜の栽培は辞めてしまえば良くない?
野菜ならローズ村から買えるし、その分の土地も小さくなるし見張りも必要なくなる」
「ボーズ、確かに良い案かもしれない
おれが村長だからこそのパイプだし、父さんにこことローズ村の定期便を出して貰おう」
カイルは早速野菜を栽培している村民に、説明をして回った
村民からは生活もギリギリだし、危険を伴わなければやりたいとの意向もあり、まずは見習い兵士として雇うことになった
「とりあえず人数は揃ったか」
「ああ、三十人なんとか揃ったね」
「エリサ、この中から一番信頼出来る人間を教えてくれ、兵士長を任せたい」
「それなら一人適任がいるわ
エルドレッドといって歳は私より少し上で、私が村に居た頃は何かと気に掛けてくれて、よく見回りに来てくれていたの、ぜひ推薦するわ!
エル、前に出て来てちょうだい」
エルドレッドは数人の兵士を掻き分けて先頭に出た
「エリサ、俺にそんな大役務まる訳ないだろ?
ましてはほとんどが農民と来てらぁ
戦闘をすることもあるだろうし俺にはそんな責任取れねぇ」
「エルドレッドさんと言いましたか、私はカイルと言います
エリサから推薦があったようなので、あなたに兵士長をお願いしたいと思っています
是非力を貸して頂きたい」
「そんな村長が頭下げるない!
俺のことはエルと呼んでくれ」
「ではエルさん、おれのことはカイルでお願いします
あとこの村は絶賛人手不足中で
なんとか力を合わせて欲しいんです」
「そこまで頼まれちゃあ、断れなねぇな
ただし、条件がある
俺の指示にあまり首を突っ込まないでくれ」
「分かりました、人員の割り振りと人選については任せます
ただ配置する場所だけは意見を聞いてくれませんか?」
「なんだ、今まで通りじゃダメなのか?」
「それが聞いた話によると、うちの国は今人口が爆発的に増えているらしいんです
その影響で塩や魚介類の需要がかなり増えています
今までの船の数じゃ需要に追い付けない
だから西側に森林がありますよね?
そこで木々を切り倒すのに人手が欲しい
船を造りたいんです
さらに端材は薪や木炭にして、うちの村の火炉やパン屋で使いたいと思っています」
「そうか、そういうことなら考えよう
ちなみにカイルとボーズは戦えるのか?」
「一応ゴブリン程度なら一対一でやられることはありません」
エルがしばらく考える
「よし、それならまず森林開拓兼森林魔物討伐班がカイルとボーズと他十人
それから昼間の見張りを五人
村の中の警戒や手伝いは五人
夜間の見張りは十人としよう
昼間はカイル達によって西側からの敵が来ないと想定して、東側へ見張りを集中させる
戦闘をしたくない兵士については、村の手伝いや見張りを中心にやって貰って、追々訓練しながら様子を見ていこう」
カイルはエルの意見を採用することにする
「ああーとエルさん
それといずれ船が増えると、護衛と漕ぎ手が必要となります
採用基準は任せますが、どんどん人を増やして欲しいです」
「分かった、その辺は任せてくれ」
【人物紹介】
エルドレッド
年齢:二十五歳
生い立ち:生まれも育ちもエンペス村
家族構成:父親は元兵士、母親は魚介類を扱う商店の一人娘
妹がいて溺愛している
特技:剣術
Episode:十三歳の頃、父親に反発してバルボンへ家出する
そこでごろつきと仲良くなり喧嘩に明け暮れるが、ある時ごろつき同士の喧嘩に仲間が巻き込まれ死んでしまう
それ以後心を改めエンペス村に戻り、仲間を死なせないことを誓い兵士に志願する