子爵
【第二部】エンペス村編
カイルは手足が震えてながらも剣を構える
エリサはボーズの横に座っている
(ぐぁ)
(うわぁ)
突如として兵士達が次々と倒される
「カイル
待たせたわね!」
そこには冒険者の格好をしたセダが立っていた
「あはは
母さん、会えて嬉しいよ…」
「もう大丈夫よ
トール達と一緒に来たわ」
「セダ!それが息子か!
なんとも、、、ボロボロだな
いや、よく戦ったと言うべきか…
さて私は私の仕事をしなければな
そこの者達を全員捕えよ!
あとで話を聞く!」
エリサがボーズに向かって叫ぶ
「ボーズ!ボーズ!起きて!!」
エリサは涙を流す
ボーズは目を覚さない
そして、カイルが近付いてきてボーズの顔を覗き込み
蹴飛ばした
「え?カイル何するの!」
「おい、いい加減起きたらどうだ」
ボーズの片目が開き、周りの様子を見る
「え?生き…てる」
「ごめんエリサ…水の塊を受けた後に意識を失ったんだと思うけど、さっき意識が戻ったんだ
そしたらカイルが戦ってて、目の覚め時を逃してしまって…」
「もう、、、心配したんだから!」
「ボーズ、色々良かったな?」
「ああ、少しはかっこいいところを見せられたかな、ははは」
その後は伯爵兵によって、子爵とその私兵達は捕縛され、エイルムや支部長を始め捕まった人達の無事が確認される
商業ギルドの支部も、伯爵兵によって即座に制圧され一幕を閉じた
「セダ!」
「エイルム!」
二人は抱き合う
「心配したんだから!」
「ごめん、いや、ありがとうと言うべきか
心配したと思うけど、案外俺は大丈夫だと思ってたんだ
そして、ほぼ俺の読み通りの結末となったしな
カイル!ありがとうな!
そんでボーズとエリサもな!」
「エイルムさん、カイル凄かったんだよ!
剣でズバーッとウォーターボールを斬っちゃってさ」
「なに!?…セダ…」
「ウォーターボールは物理的な攻撃だけじゃ、斬ることは難しいのよ?」
「ってことはおれは魔法を使えたってこと?」
「まぁ父さんは良く分からないが、母さんはお前がいつか魔法を使いこなすだろうって予言してたな」
「母さん…そうならそうと言ってくれても良かったんじゃない?
減るもんじゃないしさ…」
「カイルは賢い子だから、自分で考えて使えるようになるって信じてたから
そっちの方があなたの為になるって」
「まぁ…母さんがそう言うなら…」
その日はエンペス村に泊まっていくことになり、おれは父さんと母さんにおやじの宿を紹介した
ケイさんを見た父さんがちょっとデレデレしたけど、瞬時に母さんが父さんの足をグリグリ踏ん付けていたのには微笑ましいというのか苦笑いしか出なかった
翌朝、伯爵から子爵の屋敷に来るよう連絡があった
ボーズとエリサを残し、三人で宿を出て子爵の屋敷の前に着く
「また戻ってくるとはなぁ
あの西側の塔が俺が捕まってたところだ」
「あなたそんな呑気に…」
「おれも昨日は分からなかったけど、改めて見ると、とっても良い屋敷だと思うよ
元々は丁寧に手入れされてたんだろうね」
すぐに伯爵兵に案内され、あの執務室に通される
中には何人か兵士がいて、調度品を取り外して丁寧に袋に入れている
「おはよう、昨日はよく寝れたか?」
「それはもう燃え上がったよ!」
母さんが父さんの足を踏む
「おれは、あ、いや、私めは部屋に入ったらベッドに倒れ込みました」
「ああカイル
そんなに畏まらなくて良い
私とそちらの熱々の二人との仲だ
いつもの村長と話すくらいで良い」
「では以後そうさせて貰います」
「それで今日来て貰った理由だが、一応この一連の顛末を報告しておく必要があると思ってだな」
伯爵から報告を受ける
まず子爵は打首
その私兵達も全員打首
またその子爵の一族もみな追放
商業ギルドへは、損害賠償兼口止め料としてかなりのお金を支払うことに
村民への補償として三年間無税
そしてエイルムやカイル達の話となる
「エイルム、改めて久しぶりだな
あの頃が遠い昔のようだよ」
「そりゃ伯爵様は忙しいだろうしねぇ」
「皮肉か?まぁいい
今回の件はすまなかった、お詫びする
あの子爵を任命した私の責任だ」
「いや、トールは悪くない
悪さを起こす前に子爵を代える訳にはいかないしな」
「ああ、そう言ってくれるといくらか心が救われるよ」
「とりあえず俺たちは全員無事だったし、お金も要らないし、めでたしめでたしだ」
「いや、そうもいかん
これは補償というよりお願いがある
子爵一族をみな追放することになってな
今このエンペス村の子爵が空席となってしまったんだ
そこでだ、エイルム
この村の子爵になってみないか?」
「いや、なんとなくそんなことを言われる気がしてたけどな、しかし俺より適任はバルボンにいくらでも居るだろうに」
「それがな、そうもいかんのだよ
今回のあのバカ子爵も王都で育ってここの村に来たしな
商業ギルドや村民からも、村の事を何も知らないやつを子爵にするのだけはやめてくれって言われてしまってな…」
「ああ、そういうことならみんなの言いたいことは俺も分かる
受けてあげたいが、俺にはローズ村の店もあるし、案外あそこは気に入ってんだ」
「私もあの村でやっと幸せを見つけたの
これ以上何も望まないわ」
「そうなるとだな…
いや、しかし、まだ早いか…
いや、そうも言ってられんか…」
全員の視線がカイルに向く
「おれ!?ですか?
ムリムリムリムリムリムリムリ
無理ですって!
父さんと母さんからも言ってよ
こいつには無理だって!」
「カイル、お前には全てを叩き込んできたし、文句言いながらだがしっかりついて来てくれた
寂しいのは間違いない
しかし、いつかきっと、お前には人の役に立つ仕事をして欲しいって思ってたんだ」
「私は反対よ
まだカイルと離れたくない
だってまだあの子は十二よ?
あの子にはまだ私達が必要だし、私達もあの子が必要なはずだわ!」
「セダよ、あいつはもう一人前だ
今までずっと見てきて薄々感じてはいただろう?
それに今回はあいつにここに来させたじゃないか、それは一人前として認めたってことだ
ほんとはセダがここに来て、あいつをトールのところに行かせても良かったんだから」
「で、でも!
それはあなたが…」
エイルムがセダの手を握る
「もう何も言うな…」
「うぅっ」
セダの涙が頬をつたう
「おいおい勝手に決めるなって!
おれの気持ちは聞かないのかよ!
おれだってあの村が大好きなんだぜ?
あの村でこれからも働いて、そのままのんびりと老いていくのがおれの夢なんだから!」
「カイル、お前の気持ちも分かる
しかしエイルムとセダの気持ちも汲んでやれ
きっと今回が良い機会だったんだ
親離れが少し早まっただけさ」
「そんなこと…
・・・たよ
分かったよ!
ただし、条件がある!」
「なんだ、何でも言ってみろ」
「ボーズとエリサがこっちについて来てくれるなら受けよう!」
「そんなの聞かなくても決まってるだろ」
一時間後、執務室にて
「ボーズ、エリサ、そういうことだ
どうする?」
「僕はカイルとこの村で働くよ
エイルムさん達のお願いってのもあるけど、僕の大親友だからね、近くで支えてあげたい」
「私は二人が嫌じゃなければ…
元々この村出身ですし…」
「よし、決まりだ!
そうと決まれば叙爵式を行うぞ
そうだな…私もここに長く居る訳にもいかない
今日、今からやってしまおう」
「い、今からですか!?」
「ああ、その後に色々用意もあるだろうし、一旦村に帰るのありだ」
「商業ギルドや村民には?」
「今から報告するが大丈夫だろう
何せ商業ギルドの副支部長からは、お前も候補としてあげてくれてたからな」
「パージさんがですか!
まぁパージさんが推薦してくれてるなら、とても頼りになります」
「あと村民も大丈夫だ
お前が交渉して三年間無税にしたって言えば、みんなお前を国王より敬うだろうよ」
屋敷の前に急造の壇場が備えられ
その下には椅子が何脚も並べられている
エイルムやセダ、ボーズにエリサ、伯爵や商業ギルドの方々や多数の村民が集まる
「それでは始める
汝このカンタラス王国に忠誠を誓い
職務を全うすることを誓えるか」
「はい!」
「汝を今日この時からエンペス村の子爵に任命する」
「ははー
ありがたきお言葉」
会場は元より屋敷に入れなかった人々からも、盛大な拍手を送られ、それはしばらく鳴り止むことはなかった
これにて第二部完結です
第三部以降は内政も入ってきます
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