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9話 ウサギ帝国の城へ

そして当日。


ガタガタと揺れる馬車の中、良子は目を覚ました。

「おはようリョウコ」

「おはようございます聖女様」

第三王子のルドガーと、侍女のアレクサンドラが目覚めた良子を見て優しく微笑む。

「お…おはようございます…計画は順調ですか?」

起き上がろうとする彼女の背をそっと支えながら、ルドガーは視線を明るいほうに向けた。

「窓の外を見てごらん。ここはウサギ帝国の王城だよ」

「わぁ…」

黒色のレンガで作られている威圧的な城門をくぐると、これまた黒とグレーな城が迎えてくれた。

10人はいる従者や近衛が降り立ち、アレクサンドラも馬車から出て、ルドガーが手を取りながら聖女である良子が一番最後に馬車から降りた。


――――――――――


すぐさま城内に案内された良子はルドガーにささやく。

「(わずらわしい…おっと失礼、大仰おおぎょうな出迎えの行事を省略しておいてもらって正解でしたね。城の入り口からこんなに長い距離を歩かないと皇帝の間に着かないだなんて)」

「(普通なら歓迎行事をすっ飛ばしてほしいなんてお願い、怪しまれると思うんだけど、やっぱり聖女が2時間しかこの世界にいられない事がバレちゃってるみたいだね)」

アレクサンドラが小さくため息をついてヒソヒソ話に参加する。

「(砂漠では一生懸命に聖女様がテントの中にいらっしゃるように振舞ったのに…私のひとり芝居の苦労も水の泡ですね)」


鉄で出来た扉はわずか1人分が通れるだけ開かれており、扉の”隙間”を通らされる。

「(なんか…welcomeな雰囲気じゃじゃないなぁ…)」

不満を感じた良子の頬を叩くような大声が、正面から聞こえた。

「そなたが聖女か!確かに見慣れぬ生き物だな!」


顔を上げると、階段状になった場所の、さらに高い玉座に座った人物が見えた。

ラッパの演奏が一斉にはじまる。

「(あ、あのウサギが新皇帝…!)」

やせ細った先代の老ウサギとは違い、若い。

全身を紫と金の装飾で固めており、遠くにいる良子の目にもキラキラとした輝きが刺さる。

「(先代とは別ベクトルで暴君っぽい…い、いやいや!人とウサギを見た目で判断するのはやめよう…)」


歓迎の演奏が終わると、ルドガーは一歩前に出て、何度も兄たちと練習してきた挨拶を披露した。

「お目に書かれて光栄です、新皇帝陛下。ネコ王国の第三王子、ルドガーと申します。この度は我々の訪問希望をご快諾くださり誠に…」

「堅苦しい挨拶は抜きにしようではないか!」

よく通る声で皇帝はルドガーの挨拶を遮った。

「私の皇帝就任を祝うためによく来てくれた、ルドガー王子。そして…聖女!」

良子は内心めちゃくちゃビビりながらも挨拶する。

「お目にかかれて光栄です、皇帝陛下。私は…」

再び挨拶の途中で遮られる。

「ガハハハ!聖女、よくぞ我が国の砂漠を再び緑の大地へ戻してくれた。なんでも褒美をとらせよう。小国では叶わない望みも、ここウサギ帝国では思いのままだぞ!」

隣りでルドガーがピクッと動いたが、流石に言い返したりはしない。

良子は冷や汗をかきながら予定通りの懇願をした。

「それでは皇帝陛下、失礼して。お手紙で書きましたように、ネコ王国は罪人への処罰が甘いように思うのです。故郷に返したり、国外追放にしたり、長くても数年の投獄だったりと、どうも同族への情けが感じられるというか…私にはそれが不安の種なのです。どうか、ウサギ帝国の牢獄の見学をお許しいただき、厳しい処罰の仕方を学ばせていただけないでしょうか?」

礼儀知らずの皇帝も、自分にとって愉快な内容なら話を遮らないらしい。

ひとしきり笑った後、前のめりになって話し出した。

「ああ、手紙は読ませてもらった。確かにそのような内容だったなぁ…ガハハ!我が国はどこぞのネコ共とは違って国民の人数も多いからな。罰は厳しく、しっかりと罪人を断罪することが国の規律を守り、ひいては国を維持することに繋がる。グハハハハッ!それにしても…ルドガー王子!」

ルドガーは表情を変えずに顔を上げた。

隣りでは良子が心の中で『ごめんね』を100回ぐらい言っている。

「異世界より招いた聖女に、内政の心配をされるとはな!王族として恥とは思わないのか?」

嫌らしい笑みを浮かべる新皇帝をルドガーはじっと見ながら話した。

「残念ですが、事実は受け入れなければなりません。人口数万人程度のネコ王国と、ウサギ帝国では、国の治め方のノウハウに天地ほどの差があり…ボクは、より進んだ統治を学ぶべく参上しました。勉強させていただきたく存じます、皇帝陛下」

その言葉を聞いた皇帝の大きな笑い声が、大広間いっぱいにこだました。


「(…!!!!)」

良子は激しく後悔していた。

確かにウサギ達の無事を確かめたいとは思ったが、ルドガーをこんな屈辱的な気持ちにさせるつもりはなかったのだ。

国を愛している従者や兵士たち、そしてアレクサンドラも眉間にしわを寄せる。

「(そんな…私のやり方は間違っていたのかも…みんなをこんな気持ちにさせちゃうなんて…本当になんて謝ったらいいのかわからない…ごめん、本当にごめん!!)」

ぎゅっと握ったこぶしの爪が、手のひらに刺さる。


「座を持て!牢へ案内するぞ!」

皇帝の一言で従者が8人もやってきて、高い玉座を持ち上げる。

「(あっ、そこは先代と一緒なんだ…)」


牢は普通、王城の一番良い場所から離れた所に作られるものだが…趣味の悪い事に、大広間のすぐ隣に地下牢獄への階段があった。

地面の下から誰かのすすり泣きが聞こえる。

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