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6話 甘く冷たいバニラアイス

「あっ、目が覚めたみたい!リョウコ!!」

「起きたか、聖女」

「すまない、オレが不甲斐ないせいでお前を守れなかった…ケガはないか?」

パチッと目を開けると、ポインテッド、白黒ハチワレ、オレンジの茶トラの3匹のネコに顔を覗かれている。

「あっ、この目線、ジャケットのカバーとかでよく見る構図…こういう状況だったんだ(?」


聖女様ぁ~っ!とアレクサンドラの鳴き声が聞こえたが、ラウルが彼女に飛びつくのを止めた。


――――――――――


「それで。さらわれた後どうなったんだ?ゆっくりでいい。話してくれ」

良子は考えてきた通りに喋る。

「はい…彼は遠い場所から来たと話しました。具体的な地名を聞いても、教えるわけがないだろうと返され、会話はそれ以上応じてもらえずで。しかし私が1日のうち2時間しかこの世界に居られない事は知らなかったみたいで、運ばれている最中に腕の中で寝てしまい…記憶はそこまでです。もちろんケガなどはなく、無事に私が暮らす世界のベッドの上に戻っていました。この通り、元気いっぱいです!ご心配おかけしました」

アレクサンドラがワッ!と泣いた。

安心の涙だろうと皆に放っておかれる。


ルドガーがイライラした様子で喋った。

「そっか…単独犯かな?組織的な犯行かな?」

ラウルは冷静ながらも、怒りのこもった声だ。

「国の企みなら戦争を起こしていたところだ。悔しいが、犯人を突き止められるだけの証拠も残っていない」

ゴクッと息を飲む。

「(戦争?!本当の事を言わなくてよかった…)

 そ、それで。今日はどこで祈りましょうか?」

3人同時に彼女の顔を見た。

「誘拐されたんだよ!?しばらくは城から…いや部屋から出ないほうがいい!でしょ?」

ルドガーの発言にラウルもリッチもコクコクコクと必死に頷く。


「(こうなることまでは想定済み…)

 わかりました…では…この世界についてもっと詳しくなりたいので、地理を教えていただけないでしょうか?」


――――――――――


テーブルの上に地理の本が並べられている。

「なるほど、ドラゴンの国についてよくわかりました。では次に、ウサギの国について教えてください。例えば国土が豊かで、ニンジンをたくさん作っているとか?」

ルドガーが笑う。

「『豊かな国土』の反対語を探してるなら『ウサギ帝国』がピッタリだよ!」

ラウルがたしなめる。

「そんな言い方はないだろう。ウサギ帝国は…国土の半分が砂漠なんだ」

「ええっ!?異世界って緑あふれる大地のイメージなのに…」

「昔はそうだったんだよ?でも森を切り開きまくって、焼畑農業を繰り返し、たった30年ぐらいで砂漠になっちゃったんだよね…」

「ああ。さらに愚かなことに、土地を求めて隣国への侵攻を繰り返したのだ。残った緑の大地も戦火のために砂漠になり、踏んだり蹴ったりだな」

「か、かわいそう…もちろん戦争を起こされた側が一番可愛そうだけど、国民だってそんなこと望んでいなかったでしょうね」

「うむ。しかし皇帝の選出方法は国民投票らしいからな。自分たちが望んだも同じだろう」

「(いいえ!大抵そういう国の投票は見張りがついてて自由に自分たちのリーダーを選べないんですよーっ!)」

「何を口ごもっている?」

「え?あ、いえ!その…ネコ王国が戦争の舞台にならなくてよかったな、と」

ラウルは気まずそうに咳払いをした。

「まあそのなんだ…我々は他国から見れば…小国だからな。畑にできない山々が連なっているし…モンスターは湧きまくるし…どうせ奪うなら広大な土地がいいだろう?」

「あっ、ごめんなさい…」

「もちろん攻め込まれなかったのは、普段からの外交努力の成果でもある!隣国を味方につけるネコ式外交が生きたのだ。というか我々の顔はありえんほどカワイイからな。天からの贈り物だ、活用しない手はない」

「あっ、顔がカワイイ自覚があったんですね。…えっと、話は変わりますが。私がここ以外で目覚めることは可能ですか?例えば、ベッドに改造した馬車の中で目覚めることは…」

「できるぞ。聖女適合生物異世界転移魔法陣ベッドの上に君が呼び出されてるわけだから、聖女適合生物異世界転移魔法陣ベッドを馬車に改造すればいいだけだ」

「私って聖女適合生物扱いだったんですね。人間って言います。以後よろしく」

「これは国家秘密だから、誰にも口外するなよ?」


部屋のドアが開き、アレクサンドラが小皿を運んできた。

「みなさん、『バニラアイス』ですよ!」


――――――――――


「甘い!」

「冷たいな!」

「…これは…『バニラ』の風味か」

「そうですリッチ王子。私やシェフさんが作っているところをバッチリ見てましたもんね」

4人はバニラアイスをスプーンですくって食べる。

少し離れたテーブルで、アレクサンドラもパクパク食べている。

「とても美味しいです、聖女様!」

「それは良かった!… … …」


覚悟を決めたように良子の顔からほほえみが消える。

「私って、この国をちゃんと豊かにできましたよね?いただいたアクセサリーは全部お返ししますから、わがままを聞いてもらえませんか?」


彼女の真面目な顔に、3人の王子の顔も引き締まる。

「装飾品は返さなくていい。全力で聞こう」


「ウサギ帝国で目覚めたいんです。具体的には、砂漠化してしまった場所で。外交の難しい国だとは思うのですが、話を通してもらえませんか?」

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