18話 お城の中庭
「え!?薬の原料って結局、植物なの!?」
家に帰った良子はスマホで薬について調べていた。
確かに現代では科学的に調合した化合物が薬の原材料のようだが、その化合物の中にも植物から得られる成分を真似て作られたものがあるらしい。
「今でも植物から抽出した成分を利用することがあるんだ…発酵、分離…ふーん…」
さらに、新しい薬を発見するため未だに植物が研究対象になっているという記事を見つけた。
未発見の植物はもちろん、既存の植物の成分も我々が気付いていないだけで、病気に抵抗する材料になる可能性があるのだ。
「…っていうか、漢方薬って中国とかアジアだけのものかと思ってた。世界中で薬草が使われてるんだ…」
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「おはようございます、ラウル王子」
「おはよう聖女、異世界のベラドンナ」
そう言いラウルは横になったままの良子の手を取った。
手の甲にチュッと音を立ててキスをする。
今日もラウルは見た目の良いシャムネコだ。
だが聖女はベラドンナと比喩されて照れるのではなく、眠る前に読んでいた薬草のサイトを思い出していた。
「ベラドンナは花の美しさで有名ですが、アルカロイドの原料としても重宝されてきました…」
「ど、どうした聖女?」
手を繋いだままむくりと上半身を起こす。
「アルカロイドといえば、これまた美しい花を咲かせるケシから抽出されたモルヒネですよね…」
「ハハ、寝ぼけているようだな?」
「いいえ!」
良子はシャキッと立ち上がり、ラウルを驚かせた。
「薬草は国外から輸入されているのでしょうか?もし国内で薬草を栽培している場所があるなら、連れて行ってもらえませんか?馬車で2時間以上かかる場所なら、ベッド馬車を利用して明日見学させていただきたいんです!」
ラウルは剣幕に押されて一歩二歩と後ずさりした。
「や、薬草植物園は城の真ん中にある!もちろん郊外にも規模の大きい薬草農園はあるが…」
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鉢に植えられて成長を制限されている木。
ボサボサの背の高い草。
普通の庭と少し雰囲気が違うここは、確かに薬草植物園という雰囲気だ。
紐でくくられ、干すために逆さに吊るされた植物が聖女たちを出迎えてくれた。
「気付きませんでした。外にも内にも立派なお庭があるなぁ~ぐらいに思ってて…」
「うむ。中庭のように誰でも出入りできるが、まぁ手入れをする必要がある医師ぐらいしか立ち入らないな。ここの管理は庭師ではない」
ネコの医師がやってきてラウルと聖女に頭を下げた。
前日会ったばかりのレオ王子の侍医が前に出る。
「聖女様。昨日の説明不足をどうかお許しください。時間があればこの薬草園も見ていただくつもりだったのです…」
「いえいえ!実は色々調べたのですが、謝りたくて…」
「?」
「私の世界の”薬”も、草や木を原料にしていたり、参考にして作られていたんです。ですからネコ王国の薬草食と薬は、ほぼ同じものかもしれません」
「そうだったんですか」
「そして、私の聖女の力は生きている食べ物に奇跡を起こせる力。ここに生えているのは植物。植物に祈れば、より病気に効く薬が作れるかもしれないと考えました」
「!!!!」
ネコ達の顔が明るくなった。
ラウルも嬉しそうだ。
「すばらしいぞ聖女!もしかしたらレオの病気を治す薬草も…」
「ですが!」
良子はラウルの発言を遮った。
「…懸念があるんです」
レオの侍医を顔を見た。
「薬草食とは、具体的にどのように体に取り入れるのでしょうか」
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「またお会いできて嬉しいです、聖女様」
第四王子のレオは今日も淡いゴールドに輝いている。
長毛が高級感を演出し、イイトコのネコオーラが凄い。
「私もお会いできて嬉しいです。レオ王子」
心の中で『美人!!!!何度見ても神々しい!!!!』と叫ぶ。
侍医が粉末状になった薬草と、水に成分を抽出した液体を運ばせる。
「本日の薬草です」
「はい…」
レオは上を向き、使用人が粉末を流しいれる。
素早く水を飲む。
「…ゴクッ」
飲み辛いのか苦いのか、かなり苦しそうな顔をしている。
良子は銀色のトレーを見た。
「(あと9種類も薬がある…それにいかにも苦そうな、真っ黒なお茶…お茶だよね?)」
ゆっくり30分ほどかけて薬を飲み終えたレオの顔は青ざめている。
ラウルも驚いたようた。
「レオがこんなに薬草を飲んでいるとは知らなかった!辛いだろう?」
「いえ、皆が私のためを思って用意してくれているので、ありがたいです」
レオは口角を上げたが、誰が見ても作り笑いだとわかる表情だった。
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「優しい弟なんだ」
離れから出て、聖女の部屋へ戻ったラウルがうつ向きがちに話した。
「はい、レオ王子の優しさと頑張りは…見ていて辛い程です」
あれだけの薬草を毎日飲むとイメージしただけで、良子は自分のノドがぐっと苦しくなるのを感じた。
「私、先ほど懸念があると言いましたよね」
「ああ」
「…私には、あの薬草が食べ物だとは思えないんです」
「そんな!じゃあ祈りの力が届かないじゃあないか!」
「ここへ来る前も自分をだまそうと挑戦してみたんですが、やっぱり薬は薬。食べ物とは違うと脳が認識してしまっているので、どうにもなりません。レオ王子が実際に薬草をお飲みになっているのを見て、さらにその考えが強まりました」
「そうか…なら仕方ないな…」
ラウルはシッポをしゅんと床に降ろした。
「いえ、まだを諦めたわけではありません!試したいアイディアがあるんです。レオ王子の侍医へお願いしたいのですが…」
ペンと紙を持ちながら、良子は心の中で同僚の結菜に感謝した。
彼女がいなければアイディアを閃くこともなかっただろう。
本来なら使用許可申請書をいちいち出さないと借りられない一眼カメラを3年も借りっぱなしで自分の机に置いているだらしなさを許してあげよう、と聖女は思った。




