17話 薬草食
17話 薬草食
回復ポーションを作っていた場所の反対側に案内される。
机の上には瓶や木箱が置かれており、中には樹皮や乾燥した植物の根、葉があった。
乳棒と乳鉢、薬研など、それなりに見慣れた道具もある。
「ここで薬草を作っております」
「…これって!漢方みたいですね!」
粉末状になった植物は漢方薬そのものに見えた。
「漢方?聖女様の世界ではそういう呼び方をされていらっしゃるんですね。我々が薬草として重宝しているのは、特別な木や草などです。それを乾燥、発酵したものを粉末状にして食べたり、水に溶かして飲んだりです。聖女様の世界にも薬草は存在するのですね?」
「はい。同じように植物の葉や、根、茎、実、種、木の樹皮にキノコなど…もっと言えば鉱石に、動物由来の貝や牙、ツノなども漢方の材料だったはずです」
「ふむ…確かに外国では栄養のある土を食べるそうですね。我々ももっと手広く、毒消しになりそうな素材を輸入し、研究する必要があるかも知れません」
レオの主治医がアイディアをメモしているあいだ、良子は色とりどりの粉末をじっと見ていた。
確かに、漢方なら民間療法とは違う。
病院でも処方されているきちんとした”くすり”だ。
「なら、聖女様がお住いの場所でも、病気の治療は薬草食が中心なのですか?」
「あ!えっと…いいえ違うんです。私の国では漢方は補助的なもので…病気になったら”薬”というものを飲みます」
「薬の原料は何ですか?わが国でも再現して作ってみたいのですが」
「えっ!?!?!?…薬の原料は… … …か、化学薬品です!」
あっ、コイツよくわかってないな、という視線がチラッと向けられた。
「化学薬品?」
「はい。まず…えーと…う~んっ…この病気に効く薬はこれだ!っていう化学式を見つける所から始まるんです。多分…」
「化学式とは?」
「物質を構成する設計図みたいなものです。その設計図通りの薬を作る…んでしょう…ちょっと具体的な加工方法とかはわからないんですが…」
「なるほど…大変参考になりました」
「(あっ、これ以上聞いてもムダだなって思われた…?)」
聖女は恥ずかしさで咳払いした。
――――――――――
現代日本に戻った良子は、職場でもレオ王子の事を考えずにはいられなかった。
「(それにしても、漢方薬かぁ…)」
イスの背もたれに体をあずける。
「(思ったよりちゃんと薬を作ってたな…日本も江戸時代ぐらいまでは、あんな感じだったのかも。でもさぁ、漢方”薬”って言っても所詮植物だし、やっぱり普通の薬には敵わないよね)」
「舞内さん」
「(そういえば結局、普通の薬って何が原料なんだろ?帰ったら調べなきゃ)」
「マイウチさ~ん?」
「えっ?あ、ごめんなさい、考え事をしてて…!」
良子は地方で発行されているフリーペーパーの製作会社で働いていた。
首都圏からは遠いが、それなりに大きな市が3つ並んでいるので部数はかなり出ている。
フリーペーパーとは言い難い厚みの冊子を2週間に1回のペースで発行しなければならないので、割と大所帯で仕事をしていた。
…と言っても出版社などではなく、印刷会社の子会社で、実質的に広告部門の一部だ。
「舞内さんが考え事なんて珍しいですね~」
「アハハ…すいません…ってイヤちょっと待ってください!普段の私が何も考え込まない性格だって、遠回しに言ってますよねぇ!?」
「だってそうじゃないですか?いっつも昼前に出て行って3時4時に帰ってくるのに、今日はもう12時半ですよ?」
「え?あ!?いつの間にこんな時間…」
良子は慌ててカバンにスマホを投げ入れた。
昼前に外出して帰りが遅いのは不良社員だからではない。
積極的に飲食店を探して営業をかけて広告を出稿してもらうのが仕事だからだ。
むしろ帰りが遅いほど上司からは褒められる。
「ちょっと待ってくださいよ~!別にアポ取ってないんでしょ?今日は私に付き合ってくれません?」
「いいですけど、どこの店に行くんですか?」
「コンビニ♪コンビニ特集やるんで♪」
「ああ~そういえばそうでしたね…」
体よく買い出しに付き合わされた良子は、当然そのまま記事製作にも付き合わされる。
「物撮り手伝ってくださぁい♡」
「サイテー♡」
机の上にずらっと並んだ健康食品を見て良子のテンションはダダ下がりだ。
思わずボヤく。
「私は美味しいモノが好きなんですよ~!健康食品なんて真逆の存在じゃないですか…」
「その言葉は聞き捨てなりませんね!?」
カメラを持った同僚、結菜はキッ!と冗談ぽく良子の顔を見た。
「舞内さん!令和にその認識とはグルメが聞いて呆れますよ?いいですか?」
結菜はノリノリで紙パックを指さす。
「世はまさに大健康時代!」
「変なスイッチ押しちゃった…」
「特保!美容!脂肪燃焼!この世の全ての栄養を手に入れた食品、完全栄養食品!」
「もういいよ~!撮影終わらせよ????」
「探せ!植物性のミルクをそこの常温飲料棚に置いてきた!」
「どうせ口に入れるなら美味しいものがいいなぁ」
「でも舞内さん、ちょっと前に台湾行ってたじゃないですか?」
「急に正気に」
「台湾って健康、美容にいい食べ物が多くありませんでした?」
「そういえば確かに…!あんまり興味なかったけど、それでも印象に残ってるぐらいには多かったなぁ…」
「旅行で食べた台湾料理の中で、一番美味しかったのは何でしたっけ~?」
「薬膳粥!聞いたことない漢方も入ってたけど、ショウガや高麗人参、ナツメみたいに知ってる具材も多くて美味しかったなぁ~…また食べたい!」
「薬膳粥って健康にいいメニューの代表格ですよ」
「あっ」
「健康にいいものがマズいなんて過去のイメージです!今は体にいいものほど”繊細な美味しさがある”って印象ですね」
「…う~ん、そうかも…!私、考え方が古かったかな?」
帰り。
「(最近、グリーンスムージーをよく飲むけど、これだって健康食品のカテゴリに入るんだよなぁ…まあ私がスムージーを飲むのは美味しいからが理由で、健康のために飲んでるわけじゃないから!)」
道々、紙パック片手にちびちび飲む。
「(でも美味しくて体にいいなら、それに越したことはないよね…)」
夜空を見上げると猫の目のような月が浮かんでいた。




