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12話 私にできる事なら何でも

翌日の夜。

ネコ王国にとっては朝。

「話さなければならないことが沢山ある」

目覚めた部屋の空気は感じたことがないほど重かった。

良子は丸一日かけて覚悟を決め、ここへ戻ってきたのだ。

「…はい」

聖女と第一王子のラウル、第二王子のリッチが同じテーブルにつき、侍女のアレクサンドラが少し離れた場所から見守ってくれている。

「まず、帝国のウサギ3匹は助かった」

「!」

良子は思わず口に手を当てて驚く。

助けられた手ごたえ無く元の世界に戻ってしまったので、半分諦めていたのだ。

「じゃあ、捜索隊を出していただけたんですね!山の中はかなり危険だと聞いたのですが」

「他ならぬ聖女の頼みだ。ルドガーも必死で騒いでいたし、救助へ向かわない理由がないな。そして…ウサギ達は全てを話してくれた」

ラウルの眉が下がり、悲しい表情になる。

「あ… … …あの、その…」

言葉が上手く出てこない。

つまり、自分のついた嘘がバレてしまったというコトだ。

「聖女。君はウサギ帝国の魔法使いに誘拐された。城に連れていかれ、そこで見張りの兵士2人と、侍女に会った。そうだろう?」

「…はい。嘘をついて申し訳ありませんでした」

ラウルの眉間にシワが寄った。


一呼吸おいて、大きめの声で叱られる。

「なぜ本当の事を話してくれなかったんだ!」

「私はネコ王国を愛しています。この場所が好きで、ネコさん達が好きなんです。だから私に関わることで隣国と揉めてほしくなかった…」

「我が国にもプライドというものがある!異世界から召喚した聖女が誘拐されたと知って黙っていられるわけがないだろう!!」

テーブルをバン!と叩いて立ち上がった…のは、それまで黙っていた第二王子のリッチの方だった。

「ラウルや国王がそんな風にケンカっぱやいから聖女は黙っていたんじゃないか!?」

「…」

「…」

「国王…父上も、ラウルも、もっと冷静にこの国を見たほうがいい。帝国と戦争なんかして勝てる見込みがどこにあるんだ!?」

「そ、それは… … …しかしケンカっ早さはネコの美徳だぞ!」

「誘拐事件がきっかけで帝国とネコ王国が戦争になったら、聖女には少しの非がないにも関わらず、彼女の心を深く傷つけることになる。客観的に戦力差で考えれば、全兵士を送り込んでも一日で全滅、逆に数日のうちに王国すべてが制圧されてしまうだろう。自国を過大評価しすぎなんだ。どれだけ小国か考えてみろ、どんなことがあっても最後の最後まで戦いを起こすべきではない!」

良子は首がもげる程激しくうなずいた。

「そうです、国王や王子といった政治の中枢に関わる者は大局的な判断をすべきだと思います。最悪、聖女…つまり私ですが、私がさらわれた、殺害されたとしても、それを理由に戦争を起こしネコ王国が滅んでしまっては元も子もありません!」

良子は早口でまくし立てた。

「第一、私が来る前のネコ王国も正常に運営されていたんですよね?でしたら、私がきっかけで戦争が始まり国が滅ぶことになれば、むしろ疫病神というか、とんでもないマイナス要員でしょう?!呼ばないほうがよかった謎の存在になってしまいます!私はどうにかして2時間を乗り切ればいいのですし、感情よりももっと損得を優先して、国民と領土の事を第一に動いてもらわないと困ります!!!」


「…」

「…」

ラウルとリッチは凄まじい剣幕の良子を見て、言葉がないようだ。


「…聖女様」

遠くに座っていたアレクサンドラが声を出した。

「聖女様が国王になられては?」

「なりませんよっっっっっ!!!!」


リッチが咳払いして続けた。

「もし聖女適合生物異世界転移魔法陣ベッドが帝国に奪われるようなことになれば…結果として聖女に被害が及ぶ」

「…ぐっ」

ラウルがうめいた。

「全く…その通りだ。すまない聖女」

「…いえ、嘘をついたのは私の方なんです。私こそごめんなさい。でも、そうするしかなかったんです。そこをわかってください」

「うむ…」


リッチが席を立ち、歩いて部屋の扉の前に立った。

「聖女。お前は何も悪くない。この中で悪いのは、正直、国の統治にはあまり向いていない父上とラウル。そして聖女を守れなかったオレだ」

「えっ!?」

話が呑み込めず、良子はきょとんとしてしまう。

「オレは聖女の隣を歩いていながら、みすみす誘拐させてしまったわけだからな。罪が無いはずがないんだ」

ラウルは口ごもった。

「そ…その話は、い、いいと言っているだろう!」

「いいわけがないだろ!聖女。お前に心労を与えたくないので黙っていたんだが、今までずっと…王子という身分を考慮せずに、警護不十分の罪で裁いてほしいと相談していたんだ」

あわてて否定する。

「誘拐事件はリッチ王子のせいではありませんよ!?」

「だとしてもだ。身内に甘いのはネコの悪癖で、オレはそれが嫌なんだ」

「(ううん、人間も身内にはめっちゃ甘いから!)」

「いい機会だ。父上も、ラウルも、そしてオレも、足りない部分を考え直そう。というわけで一ヶ月の間、自室謹慎をさせてもらう。書類仕事は今まで通りやるぞ。いいなラウル?」

「…わかった」

ラウルは不服そうに頷く。

リッチはそのまま部屋から出て行ってしまった。

良子は立ち尽くしている。

「ひと月も自分の部屋から出ないということですか?私がさらわれたのはだいぶ前の事なのに…?」

「いいや、君は全く悪くない。あいつの判断だ…」


頭を抱えたラウルに何と言ったらいいのか思い浮かばず、話を変えることにした。

「…そういえば、ルドガー王子はどこへ?」

「ああ、あいつはしばらく休むといって自室で寝ているな。ウサギ帝国から帰ってきてすぐに捜索隊を組み、山へ入っていったから徹夜で…」

「ええ~っ!?!?!?普通王子様って命の危険がある場所に赴かないですよね!?」

「そんなことはないぞ?むしろ兵士や国民に勇敢な姿を見せることが我々王族の仕事でもある。ただルドガーは今まで…国境の警備やモンスター退治をサボっていたからな。なかなかハードだっただろう!」


ワッハッハ!と豪快に笑うラウルを見て、良子は少しホッとする。

その後はウサギ達の処遇などを聞き、すぐ2時間が経ってしまった。


――――――――――


翌日。

「ほんっっっっとうに!本当に!いっぱい嘘をついて申し訳ございませんでしたっっっっ!!!」

ルドガーは照れながら答える。

「リョウコが謝ることなんて一個もないよ!結局、全部が上手くいったし結果オーライ!よかったじゃん!」

「それでも…謝りたかったんです。帝国では本気でウサギ達を助けたいと思って、自分中心のかなり身勝手な言動や行動をして…」

「逆にさ…感謝したいぐらいなんだ」

「感謝?」

「ああいや、その話はまた今度。それより、お願いがあるんだ」


良子は目を見開いた。

「私にできる事なら何でもやりますっ!罪滅ぼしに…!!!」

「だからさぁ、罪なんてないんだって!」

ひとしきり笑った後、ルドガーは真面目な顔をして良子の手をとる。


「病気の第四王子を助けてほしいんだ。実はリョウコには、癒しの力があるんだろ?」

良子の心拍数が増えた。

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