ピンチはチャンス
喜早と赤髪の野郎の拳が激しくぶつかり合う。
お互い喧嘩慣れしていることもあり、その動きはもはや格闘家に近い。
”ドガッ”
”ドゴッ”
「やるじゃねえか!!赤髪野郎!!」
「お前もな!!」
互いが煽り合いながら拳の速度も上がっていく。
ていうかどっちの動きも凄すぎて何してるか分かんねぇ……
「おらよ!!」
喜早が拳を囮にして、回し蹴りを相手の腹にぶち込む。
が、壁にあたったような鈍い音がした。
「あめーよ!!次はこっちの番だ!!」
赤髪野郎がその回し蹴りを腕を交差して防いだあと、前蹴りで喜早をぶっ飛ばそうとする。
だが喜早も同様に腕を交差して攻撃を防ぐ。
「くっそやるなオメー……」
そうしてまたさっきと同じように、近距離の殴り合いが始まる。
俺は動きが早すぎて、目で追っていくのが精一杯だった。
だが目で追っていくだけで、精一杯の俺にも一つだけわかっていることがある。
「喜早の動き、どんどん早くなってないか?」
さっきより赤髪野郎の攻撃が外されまくっているのだ。
それに加えて攻撃の速度も上がっている。
「何だこれ!!さっきより当たんねぇぞ!!」
赤髪野郎が、攻撃がスカり続けることに腹を立て始めた。
足を地面に打ち付けて、怒りをあらわにしている。
「次はこっちの番だな!!おらよ!!」
喜早が赤髪の野郎の顎に向かって蹴りを繰り出した。
「くッ」
すんでのところで赤髪の野郎が躱す。
だが赤髪の野郎は、明らかにさっきより反応できていない。
「次々行くぜ〜」
そう言ってアクロバティックな動きで、次々に攻撃が繰り出される。
フェイントやら何やらで、俺の目には何が起きているかよく分からない。
はっや……ドン引きだわ普通に……
「くっそこれじゃあジリ貧じゃねーかよ!!」
赤髪の野郎が拳を繰り出すが、喜早は軽々それを避ける。
それどころか喜早は余裕の表情で、この戦いを楽しんでいるようだった。
「それはちょっと甘すぎるんじゃねーの?顔ががら空きだぜ!!」
喜早が空中で体を捻り脳天に蹴りをぶち込む。
鈍い音が響き渡り、赤髪が食らった痛みが軽く想像できる。
この蹴りを現実でくらえば、確実に死んでいるだろう。
「アガッ」
蹴りが脳天に刺さった赤髪は一撃でK.O.された。
うわっ……痛そう……
すると喜早がイヤホンを取りながらこう言った。
「危ねーこいつ強かったぜ……」
そう言って喜早が額を拭う。
つ、つえー……流石ヤンキーだぜ……まぁちょっとやりすぎな気もするけど。
「そ、そうだ春川はどうなった!!さっきから声が聞こえな………ん?」
さっきまで春川がいた方に目を向けると、そこにあったのは赤髪の野郎と一緒にいた眼鏡がボコボコにされた姿だった。
春川の体には殴られた後すらなく、攻撃を一度も受けずに勝利したことが簡単に想像できた。
「こっちはとっくの等に終わってる」
眼鏡の上に座っている春川が頬杖をつきながら俺達に言ってきた。
さっきまでビクビクしていたのが嘘だったみたいに、今の春川はビクビクしているというよりかはオラオラしている感じだった。
「えっとさっきと全然性格違くない?どうしたんだ?」
「あー、気にしないでくれ詳しい話は後でするから一旦旗を取って陣地取ろうぜ?」
そう言って喜早は旗の近くに行き陣地を取った。
すると旗の色が赤から青色に変わる。
どうやら陣地が取れたらしい。
「これでいいのか?」
喜早はバンバンと旗を叩いて、確認するが旗の色はもう変わらない。
旗の色が変わらないということは、取れたってことで間違いないのだろう。
するとそれとほぼ変わらないタイミングだった。
”シューン”という音とともに、赤髪の野郎と眼鏡の野郎が粒子のように消える。
「何だ急に……二人の姿が消えた……?気絶したからか?」
俺は首を傾げる。
が、まぁ今はそんなことよりさっさと陣地に戻らないと増援が来るかもな……
とりあえず今はさっさと拠点に戻ることが第1優先だな。
「まあそんなことはひとまず拠点に帰ってからだ、五色立てるか?」
俺は五色にそっと手を差し伸べる。
だが帰ってきたのは弱気な声だけだった。
「分かった、とりあえず五色は俺が運ぶから喜早か春川は気絶している宗田を頼む」
そう言って俺は五色をしっかり担いで、旗に触り拠点へとワープする。
「戻ってこれたか?よかった……」
「よっこらしょっと」
拠点に戻ってきた後、俺は五色をおろし、旗の前に座って喜早達を待つ。
すると喜早が宗田をしっかり担いで戻ってきた。春川もその後すぐ戻って来る。
俺等は宗田を適当に横にならせた。
横にならせた後、『喜早がホワイトボードの前に集まってほしい』と言ってきたので、俺等はホワイトボードの前に集まった。
「えーととりあえず色々気になるところがあるんだけど、まず一番気になるのは春川だ。あいつどーしちゃったの!!説明をもらってもいいか?」
俺は春川を指さしながら喜早に問い詰める。
いつの間にか春川は眠りについていて、一切この話に反応してきていない。
「おっけおっけーー」
そう言いながら喜早が、ホワイトボードの前に出てきた。
「まず春川の状態を説明するには、春川の体について説明する必要があるな」
ペンを取り出しホワイトボードに文字を書いていく。
何かを書き終わった後、再び喜早は俺達の方を向いた。
「まず心力というのは、その人間の心の強さが体の一部として現れたものだっていう常識なのは知ってるよな?」
ペンの蓋を締めながら喜早は言った。
「ああそれは知っている、俺も学校で習った」
まぁ小学校の時だから、あんまり覚えてないけど……
「まぁでもこれだけじゃよく分からないよな……」
そう言って喜早は少し悩んだ後、思いついたように言ってきた。
「例えば俺の昇華は自分のテンションが上がれば上がるほど身体能力にバフがついていくようなイメージだ」
「だけどこの心力を俺が使いこなせているのは、俺の体と相性が良かったからなんだ」
「もともと心力っていうのは、そいつの体に負担がかかりにくいように発言するものなんだけど、ごくたまに相性が悪くて体にバグが起きてしまう人がいるんだ」
「おいおいもしかしてそのバグっていうのが……?」
喜早が無言で頷く。
おいおいそんな話聞いたこともないぞ……?まじで言ってんのか?
まぁ今はそんなことより春川のことを聞かないと。
「それで春川に起きたバグっていうのは何なんだ?」
喜早は少し言いにくそうな雰囲気を出した後、ゆっくりと喋り始めた。
五色零
心力名
思考管理
残り残金????