ショッピングモールサバイバル3
無線で叫んできたのは、喜早だった。
その声は焦りに満ちていた。
「どういうことだ喜早く……」
その時地面が割れて宗田が吹っ飛び、屋上の柵に叩きつけられる。
俺は急いで宗田に近寄った。
「宗田!!大丈夫か?」
幸い宗田にはダメージは少なそうで気絶しているだけだった。
今の状況を整理しよう、いきなり地面が割れて宗田が吹っ飛んだ……
言語化しても意味分かんねぇな……それに加えて
「このゲーム気絶まであんのかよ……ていうかいきなり地面が割れるなんてどういうことだ……」
「俺達がいるからだよ!!」
声の出どころを確認すると、そこにはさっきまで喜早と春川が戦っていたはずの2人がいた。
は?ありえねぇだろ……だってエスカレーターは使えなかったんだぞ?ということは……
――まさかジャンプして登ってきたってのか?ここ何階だと思ってんだよ!!ありえねぇ……
ていうかそもそも喜早はどうしたんだ?
「どういうことだ喜早、2人こっちに来てるぞ!!」
「すまねぇ……隙をつかれて逃げられた俺達も今向かってる、ちょっと時間稼いでくれ!!」
そう言って通話が切れた。
俺が呆然と立ちつくしていると、五色が俺に言ってきた。
「それよりもこれはやばいよ〜鰯田くん……僕らふたりとも戦闘タイプの能力じゃない」
「それにいま二人共武器のレベルは最底辺のまんまただの棒だ、何分稼げるか……」
たしかに零のいうとおりだ俺等は市民という強い能力があるが、まだ完全には引き出せてない。
戦闘タイプの心力でもないし、それに加えて相手はジャンプ力だけで屋上まで来れるバケモン達。
控えめに言って詰みだな……
「やっべぇ勝てる未来が見えねぇ……」
時間を稼ぐにしても、俺等だけで稼ぐとしたら最大で3分くらいだろう……
まぁでもやるしか無いか。
俺は覚悟が決まったあと、能力で棒きれを出しておく。
するとこの状況に飽きたのか――
「来ないならこっちから行くぜぇ!!!!」
そう言いながら赤髪の野郎が突っ込んできた。
「あっぶねっ!!」
すんでのところで俺は後方に飛び蹴りを躱す。
くっそあいつなんつー身体能力だ、空中で蹴り入れてきやがった。
まぁでもその正体は十中八九、人狼化している体だろうな。
「五色、そっちは大丈夫か?」
俺は眼鏡と戦っている五色の方を見る。
「まあね、けど話してる余裕はなさそう」
無線で五色が言ってくる。すんでのところで見切ってはいるが、余裕はないらしい。
「やべーな本格的に一分稼げるか怪しいぞ」
想定より相手の身体能力が高いのに加えて、あの人狼化とかいうチート能力のせいだ。
「おい俺に集中しろよ!!」
「うるせー!!こっちはいっぱいいっぱいなんだよ!!」
俺は赤髪の挑発に怒りを爆発させる。
赤髪が突っ込んできたので、棒で蹴りやパンチを流しながら時間を稼ぐ。
「おいお前も攻めてこいよ!!オラァ!!」
こいつさらにスピード増しやがった!!ふざけんなチート乙!!
くっそ!!緩急がついた攻撃でうまくさばくのがむずかしくなってきやがった……
それに加えて、どんどん早くなってやがる。
「くっそ捌き切れねぇ!!」
「ほらほら!!もっと反撃してこいよ!!」
こいつ煽ってきやがって……反撃の隙なんてねーっての!!こちとらちょっと前までニートだぞ!!
それにパワーまで上がってきやがった……
「捌けっ!!」
棒が空中に蹴り上げられる。それに加えて俺は胴体ががら空きになる。
「はっはっボディがら空き!!」
”ドゴッ”
おおよそ人間からはなってはいけない音がしたあと、俺は柵までふっとばされる。
「いってぇ……このゲーム痛覚あんのかよ………」
なるほどね……だから宗田は気絶したのか……
”ドゴッ”
零がこっちまでふっとばされる。
「ふん、骨がない」
そう言ってスカーフのようなもので手を拭きながら、メガネもこっちに近づいてくる。
「とりあえず二人共気絶させるために蹴るけどいいよね?」
赤髪が足を大きく振りかぶる。
喜早はまだか……
「く……そが……」
俺は両手を交差させてできる限りの防御をする。
――が、俺に蹴りが当たることはなかった。
「ん……?あた……らない?」
俺はゆっくりとまぶたを開けると、目の前には蹴りを繰り出して相殺している、喜早の姿があった。
非常階段を猛スピードで駆け上がってきたのだろう、へとへとだ。
「すいません……遅れました……」
「おせーよ……こっちはぼろぼろなんだが……」
俺は傷だらけになった、体を見せる。
すると喜早は申し訳無さそうに言った。
「すいません、この赤髪とあっちの眼鏡は俺と春川でやるんで、鰯田さんは五色さんと一緒に離れていてください」
そう言って喜早は五色を指差す。
五色の前には春川がいてさっきとは、全く雰囲気が違った。
「じゃああとは頼む」
俺は喜早と春川にあとを託した後、五色を連れて端の方に寄った。
「またお前とやれるなんて最高だぜぇ!!さっきみたいに俺を暇にさせないでくれよ!!」
「ああさっきみたいに逃げられないように叩き潰してやるよ!!」
赤髪と喜早が煽り合う。
どっちも気迫がすごすぎるな……
「今度はしっかりとねじ伏せてやろう」
「次こそ眼鏡といっしょにボコってやるよ」
春川がさっきまでとは全く違う雰囲気で眼鏡と煽り合っている。
どうやら二組とも臨戦態勢に入ったようだ。
いつ始まるのかと緊張していると、喜早がポケットからワイヤレスイヤホンを取り出し耳につける。
「おいてめぇ何のつもりだぁ?戦っている最中に音楽でも聞くのか?」
どうやら喜早は音が大きいのか、全く聞こえていないようで”何いってんだ?”って顔をしている。
すると赤髪の額に血管が浮かび上がってきて、怒りが爆発する。
「あんま俺を舐めてんじゃねぇ!!」
赤髪は叫びながら突っ込んでいく。
”危ない!!”と声が出そうになったとき、馬鹿だなあいつ……と春川が無線でおもむろに呟く。
「どういうことだ?早く助けにいかないと!!喜早あぶねぇぞ!!」
”ドゴッ”という音がし、いわんこっちゃないと俺は音がした方に振り返るが、そこにあったのは喜早が赤髪の野郎を蹴り飛ばしている姿だけだった。
え?今何がどうなったんだ?突っ込んでいた赤髪が急にぶっ飛ばされた?
「いってぇ……オメェ……やるじゃねぇか」
赤髪の野郎が蹴られた場所を押さえながら立ち上がってくる。相当深いところに入ったようだ。
反対に余裕そうな喜早が、挑発するようにダンスを踊り始めながら言った。
「こっから一瞬で沈めてやるから覚悟しておけよ!!赤髪野郎!!」