ショッピングモールサバイバル2
俺はとっさに指示を出した。
宗田は突然の指示に驚いたようにしゃがみこんだ。
すると宗田の頭を何かが空を切る、多分そこに頭があれば吹っ飛んでいたことだろう。
それくらい威力があるように見えた。
「能力使用!!」
俺はとりあえず市民の能力で得た棒きれを、宗田の真後ろめがけてぶん投げる。
だが当たった音はせず、代わりに壁にぶつかったような音がした。
「ちっ!!仕留め損なった!!」
だが宗田をうまく逃がすことに成功した。
とりあえず俺はまた能力で棒きれを構える。
「ふいーあぶねあぶね」
そう言って暗闇から出てきたのは、狼の体から徐々に人間の体に戻っている、赤髪でサングラスを掛けている男だった。
見た目を率直に表すとガチモンのヤンキー、喜早と同じ感じだと思った。
だがはっきりと分かったことが一つだけあった、さっきの攻撃でこいつはゲームの中とはいえ、確実に宗田に重症を追わせる一撃を叩き込もうとしていた。
こいつは喧嘩慣れしてやると言うか、なんというか人を殴るのに躊躇が全くなさそうな感じだ。
俺はより一層警戒心を高め、目の前の赤い髪の男に集中する。
すると暗闇の中から、この赤い髪のやつとは違うまた別の人間の声がした。
「君はいっつも突っ込み過ぎなんだ、少しは考えたまえ」
暗闇から出てきたのは、本を片手に持ち眼鏡を掛けた狼の顔をしている男だった。
段々と狼の顔から人間の顔に戻ってきている。
見た目は俺より背が高く、真面目な感じで言っちゃ悪いがこの赤髪とは縁のかけらもなさそうなやつだった。
「うるせぇ」
赤髪がよほどちくちく言われるのがウザかったようで、めんどくさそうな顔をしていた。
とりあえず今の一瞬でわかったことは――
「なるほどね、あいつら人狼は人狼の能力を使わないときは普通の顔に戻るのか」
人狼に変身したらどうなるのかよくわからないが、まぁろくなことにはならんだろうな……
それより人狼の数が2人か、一応奇襲には成功したってことでいいのか?
今のところは人数有利だが、勝てんのか?
その質問に答えるように眼鏡の男が言ってきた。
「あー君たち勘違いしてそうだから言っといてあげようかな」
パタンッと本が閉じられる。
そいつは余裕の表情で言ってきた。俺達には絶対に負けないという自信が感じられた。
「相手が2人だから勝てそうだという考えは捨てることをおすすめしよう」
眼鏡の男はそれだけを言い切るとお辞儀をする。
だがあいつが言ってることは俺にも妙にわかる気がする。
俺も何でこんなに納得してるのかはよくわからない。
――が、何故か俺はこいつらには勝てないと錯覚してしまった。
すると俺の弱気な心を叩き起こすかのように宗田が叫ぶ。
「君たち一旦落ち着くんだ僕達の目的はこいつら2人を倒すことじゃなくて旗を見つけることだ!!」
俺はその言葉に本来の目標を思い出す。
どうやら俺は思ってた以上にネガティブに考えてたらしいな……
「そうだった俺等は別にこいつらを倒しに来たんじゃなかった、旗を探しに来たんだった」
旗を取るくらいだったらこの人数差でゴリ押せば行けるか?
いや流石にリスキーすぎか……?
誰か一人でも残ってくれたらやりやすいんだけどな……
「分かった!!俺と春川でこいつら惹きつける、その隙にお前ら旗を探せ!!」
そう言ったのは自信満々に、準備運動を始めている喜早だった。
「おい大丈夫なのか、相手は相当強いぞ残るんだったら俺も残るよ」
俺は流石に2人だけじゃ危ないと思ったので、残ることにした。
「大丈夫だ占い師の能力もあるしな、それに今は一刻も早く旗を見つけることが大事だ。春川もいるし大丈夫だ」
それはそうだけど……
それにしたって相手はどんな能力かもわからないんだ、危険すぎる、と反論しようとするがそれは宗田に止められる。
「分かったここは君たちに任せるとしよう、行くぞ五色くん、鰯田くん」
今はそうするしかねぇか……しょうがないとりあえず俺のやるべきことやらなきゃな。
俺は宗田の後ろについて行き、上を目指す。
「だめだエスカレーターは道が塞がれていて登れない非常階段から行くぞ」
宗田が瓦礫で塞がったエレベーターを指さして言った。
俺達は宗田を筆頭に非常階段から上の階へ向かう。
だが1つの懸念点が俺の頭をよぎった。
「それにしても春川は大丈夫なのだろうか?アイツビビリだからなあ」
俺がぼそっと呟くように言うと、宗田が驚いたような顔をしている。
「おいどうしたんだ、なにか気になることでもあったか?」
すると宗田は言葉をつまらせながら、俺に言ってきた。
「君、知らないのか?春川と喜早は幼馴染で同じ中学に通っていたんだ」
え?あの不良みたいな格好をしている喜早と、この世で1番ビビりだと勘違いしてしまいそうなくらい臆病な春川が幼馴染だって?
流石に冗談だよな……
「それに中学では割と有名な不良だったみたいだぞ」
「嘘だろ……」
あんな感じなのに元ヤンキーとか怖すぎだろ。
猫かぶってたのか?演技力すげーな。
「なるほどだから2人で残ったのか、俺らとはまだ今日知り合ったばかりだし連携は取りやすいほうがいいだろうしな」
”ドーンッ”
「どうやら始まったみたいだな、頼むぞしっかり時間稼いでくれよ」
1階で爆発音がなり開戦の合図が聞こえる。
ていうか、何でただのショッピングモールで爆発なんか起きんだよ……まぁゲームだし仕方ないのか?
それにしても宗田は旗の位置分かってんのか?
「宗田、旗がどこにあるのか検討はついているのか?」
俺は少し不安になったので宗田に聞いてみることにした。
「まあな、多分旗の位置は屋上だろう」
眼鏡をクイッと上にあげながら自信ありげに言う。
よほど自身があるんだな、外からは旗の位置なんて見えなかったはずだしどっから分かったんだ?
「なんでそう思うんだ?なんか根拠でもあるのか」
「まあ根拠は3つ、1つ目はあの5人の中で一番エスカレーターに近かった僕を狙ってきたこと、2つ目あいつらが1階にいた事、3つ目ここがショッピングモールだということ、これらのことから高確率で屋上に旗があると判断した」
「ん?1つ目は分かったけど2つ目と3つ目の意味がよく分からないんだが、どういうことなんだ?」
1つ目は上に行かせたくないってことだろうけど、他2つはどういうことなんだ?
あまり理解ができなかったので、宗田に聞き直してみると帰ってきた答えはこうだった。
「すまない勢いで説明しすぎたな、分かりやすくいうと2つ目の意味は1つ目の意味とほぼ一緒だ。1階で潰せば屋上に上がる心配はないだろう?3つ目の意味は、ショッピングモールの周りにはでかい建物が少なかった。つまり高いところにあったほうが攻め込まれる心配も少ないからな」
演説のように喋ったあと眼鏡をクイッと上げる。
あっ、こいつ説明したかったんだなと俺は心のなかで思った。
「まあ理屈は通ってるな」
俺は自分なりに宗田の答えに納得をつけたあと、また階段を登り始めた。
何段登ったのだろうか、足がへとへとになるまで登ったときに五色が言った。
「あ、ついたよ〜屋上」
目の前には柵で作られたドアがあり、その奥には宗田の推理通りに旗があった。
ゆっくりとドアノブを回そうとするが……
「よしじゃあ開けるぞ…………あれっ開かない?」
――ドアノブはのりのようなもので固定されていた。
やっぱ何かしら対策はされてるよな……
「くっそここで時間使うわけにはいかないのに、どうやって開けたものか……」
俺がそう言って肩を落としていると、後ろで大きな音がした。
「ちょっとどいとくんだ!!これで今からぶっ壊す!!」
後ろを見ると宗田が、脚立を両手で持って突撃する構えをとっている。
――おいおいその脚立はどっから持ってきたんだよ……ていうか突撃すんの危ねーって!!
俺は宗田を止めようとするが、全く勢いが落ちずにそのまま突撃してしまった。
「オラー!!」
バキッ!!
宗田が脚立と一緒にドアに向かって、イノシシのように突撃すると柵が凹みながら倒れる。
「よっしゃ思ってたとおりにぶっ壊れた」
宗田は脚立を音を立てながら落とした。
柵が開いた先には、旗が立っているだけだった。
周りには何もなく、屋上には当然人狼はいない。
「やっぱり思ったとおりに旗があったな、あとはあの旗を触るだけだ」
宗田が旗に近づき触ろうとする、が
――その時無線に喜早の声が大きく響いた。
「お前らそこから離れろ!!」