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金がすべての学園で  作者: ハイト
学園入学
3/32

旗取り人狼ゲーム

これは昔、教科書でチラッと見た記憶があるんだけど──

心力(アビリティ)ってのは、人間の“心の強さ”が、そのまんま身体の一部として現れた力のことらしい。


〜旗取り人狼ゲーム〜


「旗取り人狼ゲーム? ……って、人狼ゲームじゃねぇのかよ?」


子供の頃によくやった“人狼ゲーム”。だけど今回はちょっと名前が違う。

え、何、旗取り? 何それ、追加ルールとかある感じ?


「普通の人狼じゃダメだったのか……?」


疑問に思ってると、スクリーンに映ってた若い男が、ノリノリで喋り出した。


「“旗取り人狼ゲームが入試”って言われても、そりゃ困惑するよね〜? でもそんなの関係ない! だからルール説明しちゃうね〜☆」


……うん、ちょっと待て。お前、テンション高すぎだろ。

こんなのが試験官で大丈夫か? 逆に不安になってきたんだけど。


「それじゃ〜、ルール説明いっくよ〜〜!!」


そう言って、男は胸ポケットからクシャッとした紙を取り出した。


「……そこアナログなんだ。ちょっと残念」


「もっとこう、SFっぽいタブレットとか出てくると思ってたんだけどな……」


俺がぼそっと呟いた瞬間、男がビシッとこっちを睨んできた……気がした。気のせい、気のせい。


「さ〜〜て、ルール説明続けちゃうよー!」


……いや、テンションブレねぇなコイツ。


──ルール──

・試験は“旗取り人狼ゲーム”方式で行います

・制限時間は入試開始から三日間

・敵陣営を“処刑”するかどうかは、各自の判断に任せます

心力(アビリティ)は使用自由

・旗を奪うためなら手段は問わない


「とまあ、こんな感じかな〜!」


メモをぽーんと放り投げながら、男は満足げにニッコリ。


「今の説明じゃ足りないっていうポンコツくんのために、後でルールちゃんと配るから、しっかり読めよ〜〜?」


お前さっきから、ちょいちょい煽ってきてねぇか?

その調子で一生やってくつもりか?


……まあ、気になるのは態度よりも内容だ。

何がどう“旗取り”で、どう“処刑”なんだかさっぱりだが、ひとつだけ確実に言えることがある。


「これ、ただの入試じゃねぇな……」


そう思った直後、“ピロンッ”と耳障りな通知音が鳴った。


画面には、たった一文。


《転送が開始されます》


「転送……ってことは、いよいよ試験会場か?」


人狼ゲームに適した場所ってどこだよ。教室? 廃墟? それとも無人島とか?


「旗取りって言うぐらいだから、わりと広い場所なんじゃねぇの?」


そんなことを考えていると、いきなり視界が真っ白に染まった。


「うおっ、まぶしっ!」


反射的に手で目を覆う。

ものすごい光量。これリアルだったら目つぶし確定だろ。


数分後、光の色が少しずつ変わり、目を開けても大丈夫そうなレベルになる。


そーっと目を開けてみると──


「……は? 何だこれ、マジでゲームの中か?」


思わず口が開いた。

そこに広がっていたのは、金属のパイプが縦横無尽に張り巡らされた工場都市のような景色。


雑然としてるのに、なぜか妙に整ってて……それでいて美しい。


「おいおい、このグラフィック……冗談抜きで実写と変わんねぇじゃねぇか……」


風の音も、空気の匂いも、地面のざらつきもリアルすぎる。


「これ、どんだけ金かかってんだよ……」


試しに脳内で計算してみたけど、途中で怖くなってやめた。


「いやもう金のこと考えるのはやめとこう……うん、無理だ、現実戻れなくなる」


それより問題はこっちだ。


「さて……俺は今、何をすればいいんだ?」


あたりを見回してみるけど、人っ子ひとり見当たらない。


「とりあえず、どこに行けばいいんだ……?」


そう呟いた瞬間、また“ピロンッ”と音が鳴る。


今度は、視界の端に住所っぽい情報が表示された。どうやら目的地らしい。


「……え、音声認識対応してんの? このVRマジでどんだけ金かけてんの!?」


しかもこの装備を、受験生全員に配ってるってどういうこと?


「新緑学園……太っ腹ってレベル超えてんぞ!!」


俺は思わずその場でひとり騒ぎ出した。……いや、騒いでる場合じゃない!


「って、時間ヤバい! とにかく住所に向かうぞ!」


そう思って一歩踏み出した瞬間、ふと気づく。


「……あれ? てか、今ここどこだよ?」


俺、今どこにいる? てか、どうやって目的地まで行くんだ?


「やばいやばいやばい、地図もねぇし、方向感覚も死んでる!」


地図がないとか、詰んでるじゃんこれ。


「マジで人見つけるしかねぇ!! 幸いゲームの中だ、走ったって疲れないしな!」


気合を入れてダッシュ! と、思った矢先──


目の前の角から、人影がひょこっと現れる。


「あっ、どうもっ!!」


勢いよく声をかけた次の瞬間──足がもつれて豪快に転倒。


「いったぁ……いや人いたじゃん!! 秒で見つかったじゃん!! 俺の焦り、完全に空回りじゃん!!」


地面にうずくまりながら、羞恥心で胃が痛くなる。


「……あの、大丈夫ですか?」


顔を上げると、そこには中性的な顔立ちの青年がいた。声も落ち着いてて、めっちゃまともそう。


「……はい、大丈夫です。心のダメージがちょっと深刻なだけで……」


「……そうですか。お大事に」


返事までやさしい。ダメだ、余計に恥ずかしい。


「そ、それより! あの、ここってどこか分かります?」


恥ずかしさをごまかすために、急に話題を変える俺。


「ああ、ここはマップでいうと、真ん中あたりですよ」


「地図……持ってるんですね? 俺、何も渡されてなくて……」


そう言った瞬間、青年の表情が一変した。


「えっ? 地図って、最初に全員に配られてるはずですけど……?」


……え、マジ? 俺だけ持ってないの? どういうこと?


「……」


「良ければ、一緒に行きます?」


どこか気の毒そうな声だった。でも、その優しさが沁みる。


「……お願いします……」


俺はただ、俯いたまま、そう答えるしかなかった。

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