鰯田志向という男2
その封筒は茶色いつつみで覆われており、いつ届いたものだったかを思い出す。
「えっと……ここ一週間で届いた茶色いつつみは全部で2つ、6日前と2日前だった気がする。」
「6日前のやつはたしか捨てたはずだから、これは2日前届いたやつなのか?」
「2日前だったらゲームのイベント中で外に出たのは夜中の1回だけだったから……、あっ!!思い出した。封筒を取ったあと、ベッドに投げ捨ててそのままゲームに没頭したんだった」
――それにしても
「新緑学園ってどこだ?」
聞いたこともない学校の名前に困惑する。
「ネットならなにか分かるかな?」
そう言って俺は検索欄に”新緑学園”の文字を打ち込んでみた
そこに書かれてあったのは”犯罪者専用の学校”とか、”金がすべての学園”とかうさんくさいものばかりだった。
「はっ、なんだこれホームページもない学園なんて恐すぎなんだけど!!」
「いやでも……推薦状なら開けてみるくらいならいいか……?」
心のかたすみにあった好奇心がどんどん大きくなっていく。
俺の手はいつの間にか封筒の口の部分に手を伸ばしていた。
「ええいままよ!」
勢いよく封筒の口を引きちぎる。
そこにはこう書かれていた。
新緑学園推薦状
あなたがこの度新緑学園に推薦されたことを心よりお慶び申し上げます。
付きましては入学手順を下記のとおりに進行してください。
・入学試験は入学一ヶ月前までにお願いします
・筆記用具入りません
裏面には入学するときの禁止事項
入学当日の集合場所と日時が書かれていた。
「これって中学行ってなくても行けるのかな?」
中学3年間の出席日数を確認する。
「うわ400日以下とか俺終わってる……」
「まぁでも推薦状もらったからには、行ってもいいってことだよな?」
今の高校には首席制度があるし、ワンちゃん授業料とか無償化されるかも……
よっしこうなったら行くしかねぇよな!!別に一人だとさみしいとかそんな理由じゃないけど!!
断じて!!
〜1ヶ月後〜
太陽の日差しがまぶたをさしてくる。
「眠い……」
俺は眠い目をこすりながら試験会場に向かう準備を進める。
「えっと必要なのは、電車代に推薦状くらいか思ったより少ないな」
その2つをショルダーバッグに詰め込み家を出る。
家から試験会場までは電車を使って40分ほどで、今からなら余裕で間に合いそうだ。
冷蔵庫の中にあった缶コーヒーをすすりながら俺は家を出る。
「ゲッホ……ゴッホ……」
――にっっが……これブラックじゃん……
〜40分後〜
「フーついた」
「多分ここだよな」
推薦状に書かれている住所を確認しながら、俺は目の前にあるビルを見上げる。
見た目はただのビルで、何の変哲もない。
「ここが本当に試験会場か? そんなに大きくなさそうだけど」
俺は推薦状で部屋の番号と階を確認してエレベーターに乗る。
「階数は3階にある部屋で301号室か」
部屋の前についたあと、俺は周りを見て不思議に思う。
「いやいや、こんな小さい部屋の中で試験なんてできるわけないだろ……」
まぁでも部屋の中に入らずに決めつけるのも良くないしな。
「とりあえず中に入ればわかるでしょ」
そっとドアノブに手を回す。
”ガチャ”
ドアを開けると、中はテーブルと大きいモニター、それに最新式のVR機器が置かれているだけで、その他には何もない。
部屋の大きさは普通のマンションと変わらない大きさで、最大でも人が15人入るかどうかだった。
「誰もいない?」
俺は全く減っていないブラックコーヒーをテーブルの上に置く。
「俺が一番乗りってとこか?」
とりあえず床に座って、他の人が来ないか待ってみることにした。
「ていうか、そろそろ入学試験が始まる頃だと思うんだけど、ここまで集まらないことってあるかな?」
俺はもう一度推薦状を確認する。
たしかにこの部屋で合ってるし、集合時間も間違ってはいない。
「もう試験って始まってるのかな? それともみんな遅刻しているとか?」
とりあえずずっと座っていても落ち着かないので、部屋を散策してみることにした。
〜15分後〜
俺は残っていたコーヒーを飲み干し、苦さでいっぱいの口の中をさっき買ってきたジュースで整える。
部屋を探索してみてわかったのは、奥には畳が敷かれてある部屋があり、その部屋の押し入れには布団が入っていた。試験期間が3日もあるためだろう。
「なんで3日ぶっ通しなのかはよくわからないけど……」
他に分かったことは、部屋のリビングにある大きなモニターの電源の付け方がわからないということだ。
普通こういう系のモニターはリモコンがあるはずなのだが、リモコンらしきものは見当たらず、どうやって電源をつけるかよくわからない。
「うーん、どういうことだろ?」
――すると試験開始時間に設定していたアラームとともに、モニターに電源がつく。
「うおっ!! びっくりしたぁ、急につきやがって」
だがモニターは白い画面を映すだけだ。
「おっと、そうだった。俺、アラームかけてたんだった」
俺はスマホを取り出し、アラームを止める。
それと同時にモニターの画面が変わり、VR機器をつけろという文字が浮かび上がってくる。
「ああ、試験開始時間になったからか? どういう技術だ……」
「VR機器をつけろ? まぁ、つけてみるか……」
VR機器を頭にセットする。
「これでおっけーかな」
電源をつけたあと、俺はその場に寝そべり、けがをしないようにする。
頭に嫌な思い出が蘇ってくるが、俺は首を横に振り、その記憶をすぐに消す。
目の前の画面が真っ暗から変わり、プロフィール画面のようなものに変わる。
「ちょちょいのちょいっと」
そこには自分の名前と受験番号を入力する欄があり、俺はしっかりと入力する。
その後、少しダウンロードを挟んだあと、目の前が大きく変わり、真っ白い部屋が現れる。
「ラグはなさそうだな……いったい1つの入学試験に何円使ってるんだ……?」
体が引っ張られたりする感覚がなく、ここが現実だと錯覚してしまいそうになる。
「こういうVR系のゲームって、ラグが少しくらいあるはずなんだけど、本当に滑らかだ」
少し感動に浸ったあと、俺はこの部屋が思っている以上に大きいことに気づく。
大体、体育館ほどの大きさで、真っ白い壁で覆われているような感じだ。
「これ、ここに受験者全員が来る感じじゃね? だとしたらここで待っていればいいのか?」
俺は受験に間に合ったことによる優越感に浸りながら、どんな受験になるのかを予想する。
「こんな大きいところだったら鬼ごっことかできそうだけどな、こういうときってだいたい筆記試験だろ……」
「やっぱ怪しい学校だったか……?」
うーん、やっぱり来るのを間違えたかも。
俺は自分の顔に手を当て、ここに来たことを後悔する。
「まぁ、ここまで来たし、もう少し待ってみるか?」
少し気持ちを落ち着かせたあと、顔から手をどける――すると、さっきとは明らかにこの部屋に変化が起きていることが分かった。
――あれ、さっきまでこんなに人いたっけ?
「いや、さっきまでこんなに人が多くなかっただろ……体育館ほどの大きさが人でいっぱいになってる……」
どうなってるんだ、この人数で試験をするってのか? 一体、どんな試験だよ……
俺がいろいろ考え込んでいると、空中にモニターが出てくる。
「やあやあ、入学試験を受けに来た未来の生徒諸君☆ 時間にもなったことだし、入学試験を始めようか?」
モニターに映ったのはスーツを着た若い男で、多分20代前半くらいだと思う。
すると、若い男が俺たちにとある質問をしてくる。
「受験生の諸君、君たちはこの学園についてどれくらい知っているかな☆」
周りがざわざわし始める。無理もない、だってネットで調べたってただの都市伝説くらいしか出てこないんだから。
まともな情報なんて得られるわけがないのだ。
「おまえら、受験生はろくにこの学園のことも調べなかったのかwww」
こいつ……モニター越しにでも分かる、絶対バカにしてやがる……
「まぁ、そんなのは置いといて……俺たちが求める人材を見極めるためにも、あるゲームをみんなにやってもらおうと思いまーす!!」
そう言うと、その声に反応するように、俺や他の受験者の目の前に小さい画面が新たに現れる。
「何だこれ?」
――旗取り人狼ゲーム……?