ラペルズ国王の憂鬱
私はオンロッド・ラペルズ、ラペルズ王国の国王だ。
我がラペルズ王国は北が海に面した豊かな国だ。漁業と農業、林業がおもな産業で、海に面した利点からチエナや帝国との交易も盛んだった。ラペルズ王国は、南の帝国よりも300年も歴史は古く、昔は帝国よりも強かったのだ。帝国など南方の野蛮人の集まりだった。そんな帝国が、ここ100年ほどの間に急激に強くなり大陸の中で最強国家としてのし上がってきた。
帝国などまだまだ新米の野蛮国なのだ。
そんな野蛮な国が力をつけて来たのは本当に由々しき問題だった。
本来は蛮族の帝国の言う事など聞く必要もないのだが、最近は何かと無理難題を言ってくることも増えてきた。当然、蛮族の言う事など無視すればよいのだ。
しかし、今や帝国の国土は我が国よりも10倍以上広く、戦力も強大だ。多少は帝国のわがままにも付き合わないと我が国に攻めかかって来ないとも限らない。野蛮な帝国は戦を好むのだ。その戦好きの帝国はここ数十年は東方十か国と戦っており、わが方には見向きもしなかった。もっけの幸いだった。
しかし、つい最近、恐竜皇子なる皇子が出て来て、東方10ヶ国をあっという間に占拠してしまったのだ。
これは我が国には頭の痛い問題となった。
次に我が国に攻め込んでこないとも限らないのだ。私はマルロー外務卿に言って帝国に対して警戒するように申し出た。
外務卿は帝国を調べるために自ら外交使節を率いて帝国に赴いていた。いろんな諸侯とも交流を持つべく立ち回っていたのだ。
その外務卿が帝国から帰って来た。
マルローはなんと、私に対して婚姻の話を持ってきたのだ。不幸な事に私は前年に正妃を流行り病で亡くしていた。
「相手は皇帝陛下の寵愛が深かった、前皇后様の連れ子、エリーゼ様です」
マルローの言葉に私は驚いた。
「は、何を言うのだマルロー! 我が由緒正しきラペルズ王国の正妃様の座を、高々帝国の皇后の連れ子に渡すだと。帝国は我が国をどこまで侮辱すれば気が済むのか」
宰相のダヤンが怒って叫び出した。私も宰相の怒りはもっともだと思った。
「しかし、ダヤン宰相閣下。皇后の連れ子と申せ、帝国のロザンヌ公爵家の血は引いておりますぞ」
「公爵家の血を引いているとは申せ、傍流だろうが。帝国などという野蛮国から正妃などと片腹痛い。側妃ならばまだ判るがな。それも公爵家の傍流の娘など、言語道断。帝国もせめて皇女を嫁がせて来るべきだろう」
私は宰相の意見がもっともだと思った。
「お待ち下さい。そのエリーゼという名前聞いた事がありまする。エリーゼなるその娘は、南のサンタルなどという三流国の王子から婚約破棄されたのではないですかな」
メルレ財務卿が言い出したのだ。
「なんと、そのような婚約破棄された傷物の娘など我が国の正妃には更にふさわしくはないだろうが」
宰相は更にいきり立ってくれた。
「しかし、サンタル王国は婚約破棄に怒り狂った恐竜皇子に滅ぼされてしまったのですぞ」
外務卿が言い出したのだ。
「それは誠か?」
私は思わず聞いていた。
「はい。王子たちの大軍は恐竜皇子の魔術の一撃で消滅してしまったとか」
「…………」
外務卿のひと言に私も廷臣達は黙ってしまった。
「マルロー、貴様、何故、そのような話をおめおめと持ってきたのか?」
宰相が聞いてくれた。そうだ。マルローがうまい具合に断ってくれば良かったのだ。
「帝国の外務卿のカルディ卿から頭を下げて頼まれたのです。帝国の皇帝陛下がいたく、その連れ子様の将来を気にしていらっしゃると。
カルディ卿いわく『ここでその子を娶ればこれは皇帝陛下に対して恩を売ることになるだろう』と。『なあに、国王陛下には別に寵愛なさっている寵姫がいらっしゃっても全然問題はないですぞ。貴国は既に皇太子も決まっておいででしょう。エリーゼ様には正妃の座にさえつけてくれれば後は白い結婚でもなんでも問題はありません』と言われたのです」
「本当なのか」
外務卿の説明に宰相が納得いかなそうに聞いていた。私もその申し出には信じられなかった。
「帝国のカルディ外務卿からは取り合えず、帝国に遊びに来られて会ってみられてはいかがかと」
「そのような。陛下が会われて、断れば、サンタルの二の舞になるではないか」
「そうじゃ。そのような事は許されまい」
宰相を筆頭に廷臣たちはいきり立ってくれた。
「では、帝国の提案を断りますか?」
外務卿は微妙な笑みを浮かべて言ってくれた。
「断れるのか?」
「それは可能でございますが、それに難癖をつけて恐竜皇子が攻め込んでくる可能性が」
「何じゃと。無理を申しておるのは帝国ではないか」
「しかし、サンタルの前例がございます」
外務卿のひと言に廷臣共は黙ってしまったのだ。
やむを得ず私は帝国にお忍びで遊びに行くことにしたのだ。
「なあに、帝国から人質の娘を一人娶るとお思いになればよろしいのです」
外務卿は気楽に言ってくれたが、私は到底その様な気楽なことにはなるまいと思えてならなかったのだ。
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