マブリー王国国王視点 弱小国の国王にもチャンスが巡って来たと喜んでいたら怒り狂った恐竜皇子が突っ込んできました
俺はフレデリク・マブリー、マブリー王国の国王だ。
我がマブリー王国は東方10カ国の中では大きさは一番小さく人口も少なかった。すなわち、一番弱かったのだ。
総動員兵力も5千しかおらず、いつも、大国の影に埋もれていた。
テルナン王国やピュエラ王国、リセール王国からの無理難題に反論することも出来ず、ただただ近隣諸国の言うがままに動き、何とか今まで国を持ちこたえてきたのだ。建国300年を数えたが、いつ潰れてもおかしくない国だった。
テルナン王国の王妃の好みの花が判るとそれを届け、ピュエラ王国の王女の好みの香水をチエナより取り寄せたりと、近隣諸国の御機嫌取りに終始気を使っていた。
帝国に対する時もいつもテルナンやピュエラなどの大国の言いなりだった。
二年前の帝国に対する連合軍にも水害の影響で1000人しか出せなかったのだ。10万のうちの千では何も影響力などあるはずもなく、伯爵家の司令官を差し出したに過ぎなかった。その時は東方十か国軍は圧倒的に数が多く、勝つことは決まっていたのだ。そこに出す兵の数が少ないと戦後の影響力が低下するというものだ。
まさか、それが良い方向にむくとは思ってもいなかった。
連合軍が負けるなんてつゆほども疑わなかったのだ。
恐竜皇子の突撃で、テルナン国王が討ち取られて連合軍は大敗北を喫し、なんと大国テルナン王国が占拠されてしまったのだ。
更に二年かけて大国のピュエラ王国とリセール王国も占拠された時に俺はこのマブリー王国も終わったと思った。
そして、最後に結成された十か国連合軍にも我軍は遅れてしまったのだ。
洪水の影響で川の渡河に時間がかかってしまったのだ。
何も出来ずに滅ぼされるのか……連合軍の大敗北の報を聞き、俺は人生を諦めた。
しかし、それが吉と出るとは思ってもいなかった。
連合軍は大敗北を聞いてこれでこの国も終わりかと思った時に、降伏すれば属国として許してやると声高に恐竜皇子が言ってきたのだ。
野蛮国の帝国の属国となるのは屈辱だったが、死ぬよりはましだと俺は一も二もなく飛びついた。
帝国は多大な賠償金を要求してくるだろうと危惧したのだが、さしたる金額でもなく、属国たる我が国に対しての税も、王国の全税収の10%で良いと格安の申し出だった。
10%なら、今までのテルナンに支払っていた対帝国に対する協力金だの砦の補強費用だのに比べても変わらなかった。いや、むしろ安い部類だった。
俺はホッとした。
そして、何よりこの二年間で帝国の支配を嫌って他の東方十か国から逃れて来た人々によって我が国の人口は増えて、むしろ潤い出したのだ。
何しろ残ったのは我が国を除けばルネゾン王国だけだが、こちらは兵士の大半を失って大打撃を受けていた。被害の少ないのは我が国だけだった。
唯一のネックは帝国へ人質に出さねばならない事だったが、テルナンの公爵家から嫁してきた前妻との間に出来た娘がいたのでその娘を行かせたのだ。
テルナンは滅んだので、テルナンからの妻などもはや何の価値もなく、俺は王妃をチエナの伯爵家から嫁いできた第二夫人に変えていた。娘になど全く情などなかった。
我が国は東方10カ国の中の最後の生き残りとして大国チエナから使者はくるわ、亡命者は来るわで、とても賑わいだしたのだ。
そんな我が王国に耳寄りな話がチエナよりもたらされた。
東方十か国の一斉蜂起の話だった。
各地の遺民が蜂起するので旗頭として立たないかと。
俺は当然躊躇した。何しろ帝国には東方十か国の連合軍を一人で壊滅させたあの恐竜皇子がいるのだ。
しかし、恐竜皇子は今回来れないらしい。なんでも、愛する義妹をAAAに人質に取られて帝都で大人しくしているそうなのだ。
俺にはそのような事が信じられなかった。女など、いくらでもいるのだ。あっさりと見捨てればよいではないか?
何でも恐竜は我ら人間よりも情に厚く、見捨てられないそうだ。さすが爬虫類、本当に馬鹿だ。
俺様など、帝都に預けた娘の命などあっさりと見捨てたというのに。
下等動物ほど情に厚いらしい。
愚かな事だ。そんな事だから前回も我ら東方十か国に負けるのだ。
帝国は野蛮なだけに爬虫類に近いのだろう。
我ら東方十か国の民は人間だ。人間にとって重要なのは全ては利があるかどうかだ。利が無ければたとえ親兄弟と言えども見捨てるのが当たり前なのに、一人の女に情を与えて判断を誤るなど愚の骨頂ではないか。女など取っ替え引っ替えがきくものなのだ。
恐竜皇子がいない帝国軍など、赤子をひねるようなものだ。我が軍はチエナからの援軍も含め、地下に潜っていた遺民も集まり大軍になってテルナン王国に攻め込んだのだ。
帝国から派遣されてきた軍も雪崩をうったように我が軍に合流してきた。元々十か国の住民の軍勢を使うからこうなるのだ。
我が軍はついに10万を数えた。
そして、テルナンの元王都を囲んだのだ。
王都の帝国軍は一万くらいしかいないはずだ。
確実に勝てるはずだった。
本陣はもう、戦勝ムードに満ち溢れていた。どう見ても我が軍に負けは無かった。
恐竜皇子さえいなければ帝国軍は案山子にも等しいのだ。
十か国の盟主になろうという俺の元には連日各地の元王族らが挨拶に来たのだ。
その中には元テルナン王国の王族もいた。皆俺に頭を下げてくるのだ。これほど気持ちのいいものは無かった。その中には女を置いていく者もいたのだ。
俺の陣屋は早くもハーレムの様相を来してきた。
俺は相好を崩してそれを受け入れていたのだ。
「陛下、西から何かが迫ってきます」
「チエナからの援軍でも来たのか」
伝令の言葉を聞いた時、俺はテルナンの元伯爵家の娘に酌をさせていた。
「さあ、一騎駆けしてくるものがいるそうです」
「では使者か何かであろう」
俺は一顧だにしなかった。
そこにざわめきが起こった
「どうしたのだ?」
いい気分でいる時に何を騒いでいるのだ?
俺は不機嫌になった。
「その赤い塊が急激に迫ってきました」
「たった一騎なのであろう」
俺は一騎というのが引っ掛かった。
確か、恐竜皇子は一騎で東方十か国軍を殲滅したのではなかったかと
その乗っていた馬は赤い馬だったと……
「はい、しかし、凄まじい速さなのです」
「に、逃げろ」
俺は思わず立ち上がった。そして、天幕の隙間すら怒り狂った恐竜がこちらに向かって走ってくるのが目に見えたのだ。
俺は恐怖に顔が引きつった。
「に、逃げろ」
俺が大声で叫んだ時だ。
周りが真っ赤になって凄まじい衝撃が俺を襲ったのだった……
ここまで読んで頂いて有難うございました
マブリー国王の運命や如何に?
続きは今夜です。








