公爵令嬢視点2 婚約破棄されて帰ってきた小娘を張り倒した現場を皇子に見られてしまいました
「もう、くそ、くそ、くそ」
私は家に帰ってクッションを地面に投げつけたのだ。
私のレオンハルトを独占しやがって、あの小娘は絶対に許さない!
私は心に決めたのだ。
今日はレオンハルトと踊るためにレオンハルトの瞳の色と同じ青いドレスでパーティーに挑んだのに、全く意味はなかった。
これもあの小娘のせいだ。
私の怒りに怯えたのか、侍女が私の前に紅茶を置こうとしたその手が震えた。
カチャッ、その紅茶の一部が溢れたのだ。
「何するのよ!」
私は思いっきりその茶碗を地面に叩きつけたのだ。
ガチャン
カップの割れる音がして、破片が散らばった。
「キャッ」
侍女は思わず悲鳴をあげたが、
「も、申し訳ありません」
慌てて、侍女は頭を下げてきた。
直ちに別の侍女が布巾を持って飛んできたのだ。
むしゃくしゃした私は、それからも何度か侍女に怒りを爆発させてしまって、父に呼ばれたのだ。
「どうしたのだ? ベアトリス、侍女にあたるなんてお前らしくもない」
父が私の顔を見てくれた。
「申し訳ありません。お父さま。レオンハルト様と一度も踊れなかったので、ついむしゃくしゃしてしまって」
私は素直に謝った。
「まあ、あれは殿下もどうかと思うぞ。一人の子供につきっきりなど、ああいう場でやることではないがな」
父も頷いてくれた。
「言い方は悪いけれど、陛下も、皇后様が亡くなってから、あの辺境の女に現を抜かしすぎよ。最近はその連れ子まで甘やかして、本当にどうかと思うわ」
母も認めてくれたのだ。
「まあ、確かにいくら剣聖の娘とはいえ、母親はあの身分の低い女だ。妹が生きている間はレオンハルトもきちんとしていたのに、最近はあの連れ子の小娘に振り回されているんだとか。この前はせがまれてカフェに二人で行っていたそうだぞ」
「お父さま、それは本当なの?」
私は更に頭にきた。私なんて誘ってもらったこともないのに!
「本当らしい。本来ならば我家が妹の皇后の出身家で、もう少し大事にされてしかるべきなのに、最近は陛下も何かあるとロザンヌ公爵を呼ばれる。殿下達の外戚が我が家だと言うのに、何故我が家がロザンヌの風下に立たねばならぬのだ」
父も最近の陛下の行いに不満があるようだった。
「これもそれも、陛下の横にいるあの娼婦のお陰ね」
母が言ってくれた。
「本当に忌々しい。毒でも盛るか」
父が不穏なことを言いだした。
「でも、お父さま。もし間違ってレオンハルト様達がその毒を飲んでしまったら洒落にはならないわ」
私が言うと
「そうなのだ。本当に忌々しいことにあの女は殿下たちを誑かしおって、本当の家族のように過ごしておるのだ。間違えたら毒入りのカップを殿下が飲みかねん」
毒殺は中々難しかった。
結局、私達はしばらく、様子見をするしかなかったのだ。
しかしだ。嬉しいことに陛下の娼婦はその年に流行った流行病であっさりと死んでしまったのだ。
死んだ後、娼婦は皇后に贈位されたと両親は怒っていたが、これで私はレオンハルトと会えると思ったのだ。
しかし、連れ子は公爵家に返されるだろうと思ったのに、そうはならなかったのだ。
「殿下が第四皇子殿下とあの連れ子を可愛がっておられるのだ。あれでは、公爵家に二人共返せとは到底言えまい」
疲れ切ったように父が言ってきた。
「ええええ! お父さま。じゃあ、レオンハルト様に私はお近づきになれないじゃない」
「あなた、あの連れ子だけでも何とかなりませんの? 侯爵家の奥様からも言われたわ」
お母様が言うが、侯爵家というのは外務卿をしているアガットのところだ。
まあ、敵の敵は味方という感じで意見があったのだろう。
「それなんだがな。あの娼婦の故郷の国からその連れ子に縁談が来たのだ」
「まあ、あのサンタルとかいう国からよね」
お母様も身を乗り出して来た。
「そのサンタル王国の第一王子の嫁に欲しいというのだ」
「えっ、あの小娘が王妃になるの!」
私はムッとして聞いた。
「ベアトリス。お前、王妃と言っても、我が帝国の属国の王妃だぞ。我が帝国がくしゃみをしたら飛んでいくような国だ。そもそも下手したら子爵家程度しか領地がないのだ」
お父さまが言ってくれた。
「ベアトリス。あの小娘がそこに嫁に行ったら、レオンハルト様は自由の身になるのよ。それこそ、レオンハルト様に近付くチャンスじゃない」
「そうね。そのとおりだわ」
そうだ。今まで邪魔していたあの小娘がいなくなれば良いのだ。
まあ、あの小娘には子爵程度の国の王妃になってもらうのが丁度よいだろう。
いずれ、私がこの国の皇后になった暁には私に跪かせてやるのも良いだろう。
「会議の席で、賛成してくれぬかと外務卿からも頼まれたので、頷いておいたぞ」
お父さまが言ってくれたのだ。
幸いなことにレオンハルトはチエナに留学している最中だった。
私も行きたいと駄々をこねたのだが、父も母も許してはくれなかったのだ。
私はチエナ王女の動向が気になったのだが、今のところあまりうまく行っているとは聞いていなかった。
まあ、もうあと少しでレオンハルトは帰って来る予定だ。それから猛烈にアタックすればよいだろう。
揉めるかなと思った小娘のサンタル王国行きは、なんと小娘自身が乗り気になって上手く行ったのだ。
これで邪魔者は消えたと私は思った。
しかし、そうではなかったのだ。
私はレオンハルトが帰ってきたと聞いて、慌てて宮殿に行ったら、既にレオンハルトは東部戦線に出撃した後だった。
宮殿の所々に魔術をぶっ放した跡が生々しく残っていた。
レオンハルトとしてはあの小娘がいなくなったのが許せなかったのだろう。
いなくなっても小娘は私の邪魔をしてくれるのだ。
私はお父さまに、小娘が現地で虐められるようにいろいろとして欲しいと頼み込んだのだ。
お父さまはなかなかいい顔をしてなかったが、それなりに手は尽くしてくれたみたいだ。
何でも小娘は全くその属国の王子に相手にされていないそうなのだ。
婚約破棄されて出戻ってきたら、また、レオンハルトとの仲が戻るかもしれないと少し危惧したが、私は小娘が相手にされないというのがとてもいい気味だと思ったのだ。
結局、小娘は婚約破棄をされておめおめと戻ってきたそうだ。
レオンハルトはその小娘を婚約破棄した属国を撤収するために派遣されたそうだ。
私はそのレオンハルトが帰って来る前に、小娘を宮殿から追い出して公爵家にでも去らせようと、取り巻きをつれて待ち構えていたのだ。
そんな所に現れた小娘を「出戻りだ」と私達は笑ってやったのだ。
それに対して娼婦の息子の第四王子が反論してくるとは思ってもいなかった。
「ねえねえ、お姉様。僕、侍女たちが噂していたのを聞いていたんだけど、お兄様に全然相手にされないのに、追いかけているうちに婚期を逃してしまった令嬢がいるって聞いたんだけど、本当?」
私はその言葉に完全に切れていた。
「ベアトリス様」
取り巻きの一人が止めようとしてくれたが、間に合わなかった。
その一言に完全に私は平静心をなくしていた。
「なんですって」
そう叫ぶと憤怒の形相をして、皇子を平手で張ろうとしたのだ。
そのまま張っていたらさすがにまずかったと思う。
でも、何をトチ狂ったのか、私の眼の前にはその生意気な小娘が出てきたのだ。
パシーン
次の瞬間、私はその小娘の頬を張り倒していたのだ。
やった、小娘の頬を張り倒してやった。
私は歓喜に震えたのだ。
次の瞬間までは……
「何をしているのだ」
そこには氷の視線を私に向けるレオンハルトがいたのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ヒーローの登場です。
続きは明朝
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