お義兄様視点2 可愛い妹とダンスパーティーで踊りました
新しく俺等の母になったエリの母は、俺達を分け隔てなく、育ててくれた。
俺はそれが嬉しかった。久しぶりに俺に注意してくれる者が出来たのだ。
母上は俺の実の母のように厳しくは言わないが、やんわりとエリと同じ色の瞳でほほえみながら、
「レオン、それでいいの?」
と聞いてくるのだ。
そう言われると俺は仕方がなく訓練や勉強に戻ったのだ。
年月が経った。エリは少し大きくなって六歳になったが、相も変わらず生意気で、俺に良く絡んできた。
その上、今度は遊べとせがむだけでなくて、いろんなことを俺に聞くようになってきたのだ。まあ、剣術や魔術の事は俺は余裕で答えられた。しかし、エリは剣技や魔術だけでなくて、俺の苦手な礼儀作法まで聞いてくるのだ。
「お義兄様、踊る前の礼の仕方なんだけど」
「エリ、それを俺に聞くのは間違っているだろう」
俺が諭すと、
「お義兄様が良いの!」
と、エリがはっきりと言ってくれたのだ。
俺に聞くんじゃなくて教師に聞けよ、と思わないでもなかった。
教師がエリを虐めるのだろうかと疑ってみたが、剣聖の娘のエリを、皇帝の妻の連れ子だからといって虐めるやつなんて、王宮にいるはずは無かった。
それに、キラキラとした信頼しきった瞳で俺を見つめてくるエリの質問を、無下にするなんて俺には到底出来なかった。そして、当然、俺を頼ってきたエリに嘘を教えるわけにはいかない。俺は仕方無しに必死に礼儀作法や歴史、教養も勉強するようになったのだ。
「レオンお義兄様に教えてもらって、良かったわね」
「うん!」
母上の言葉にエリは大きく頷いてくれたのだが、その横で俺の教師も喜んで頷いているのはとても癪に障った。
エリが9歳になった時だ。俺はあまりにもエリが煩く言うものだから、帝都にお忍びでエリを連れ出してやった。
エリはとてもはしゃいでくれた。
「お義兄様。あのキラキラ光っている建物は何?」
「あれは教会の大聖堂だ。光っているのはステンドグラスだ」
「そうなんだ。あの前の大きな壁は?」
「あれは帝都の城壁だ。何なら登ってみるか?」
「えっ、いいの?」
妹は高いところが大好きなのだ。宮殿でも高い塔や城壁にはせがまれて何度も連れて行かされていた。
城壁を警備していた騎士は、日頃、女に縁のない俺が女の子の手を引いて登って来たのを見て驚愕していた。
まあ、それがエリだと知って納得したみたいだったが。兵士の間では剣聖の遺児のエリは有名だった。もっとも皆に怖れられている俺様に向かって、平然と意見してくる妹としての方が有名だったかもしれないが……
「お義兄様。あの遠くまで伸びている道が街道なの?」
「そうだ。あの石畳の道が、母上の故郷のサンタル王国まで続いているんだ」
「そうなんだ。母上の故郷か! いつか行ってみたいな」
俺はエリが何気なく言ったその言葉のとおりに、6年後にエリ自身がサンタルに行くなど、その時は想像だにしていなかったのだ。
丁度その頃から俺は学園に通い出した。当然そこには将来帝国を背負って立つ多くの生徒達がいた。
そして、貴族の令嬢達も……
俺は宮殿では騎士たちと行動をともにすることが多く、女なんて、生意気なエリしか知らなかった。
そんな純粋培養な俺に女どもが群がってきたのだ。俺にはたまったものではなかった。逃げようにも俺に近づいてくる女に暴力を振るって退けさすわけにもいかず、さすがの俺様も本当に難渋したのだ。
まあ、女どもからしたら、俺は帝国の第一皇子だ。俺と親しくなればうまくいけば将来、俺の妃になって皇后になれるかもしれない。そうなればその実家は外戚として力をふるえるだろう。そう各々の父に言い含められているのだろう。その熱心さに俺はうんざりした。
俺はそんな女どもから避けるために、トマスや他の男達とできる限り一緒にいるようにしたのだ。
でも、学園祭や学年末のパーティーではそう言うわけにもいかなかった。
どうしても女たちと接してしまうのだ。
特にパーティーの時の対応が大変だった。パートナーをどうするだとか、本当に煩いのだ。
俺はいずれこの帝国を継ぐ予定だったが、しばらく婚約者を決める予定はなかった。俺の婚約者になれば、その家は外戚となって帝国内の力が強まるので、どの貴族もその令嬢も必死だった。だからそう簡単にパートナーを決めるわけにもいかない。
一年と二年の時は適当に誤魔化してやり過ごしたのだが、さすがの三年生ともなるとそういうわけにもいかなかった。しかし、一人の相手をするとその者が婚約者候補に近くなってしまう。今は選べなかった。
窮地に立った俺は良いことを思いついたのだ。
丁度エリが十二歳になったので、俺は家族としてエリをパートナーに指名したのだ。
でも、エリは喜んでくるかと思いきや、とても抵抗したのだ。
「お義兄様のお相手になるかもしれない方々の邪魔はしたくないわ」
と平然と断ってくれたのだ。
今まで散々面倒見てやったのに、そんな冷たい事を言うのかと脅したのだが、上手くいかない。
俺はやむを得ず、今、帝国で人気のチョコレートパフェで釣ったのだ。
最初は嫌がっていたエリは、チョコレートパフェを食いに連れて行ってやると言うと、現金なものであっという間に、引き受けてくれたのだ。
母上は、「レオンの最後の晴れ舞台で、相手がエリでいいの?」
と最後まで気にしてくれてはいたが、俺はエリで構わなかった。
他の女といるよりも、俺はエリといる方が気を使わなくて楽だからそれで良いと言うと、
「なんだかな」
とエリは頬を含まらませていたが、それも可愛かった。
それに踊るならばエリの初の舞台になるのだ。俺がエリの初めてのパートナーで問題はないだろう!
でも、何故か父が嬉々として母上と一緒にエリの衣装を選んでいた。
本来は俺のパートナーなんだから俺が選ぶのではないのか? と俺は釈然としなかったが……
そして、当日を迎えた。黒髪のエリは白いデビュタント用の衣装に身を包んでいた。
見た目も妖精のように可憐で思わず俺はエリを見つめ直した。
小さかった子どものエリがいつの間にか背も伸びて、俺の胸のあたりまでなっていた。
まあ、胸はまだ小さくて、子供が少女になったという感じだったが……
俺は女避けにエリにずっと傍に居るように頼んでいた。
「お義兄様がそんなに怖れることなの?」
エリは面白がってくれたが、俺を見かけて、寄ってくる女どもの大群を見た瞬間、さすがのエリも青くなった。
俺はこの時の為に、近衛騎士を連れていたのだ。
父は近衛を連れて行くことに難色を示したが、エリに何かあったら大変だから、と俺が言うと豹変した。
百人ほど連れていけ、と言う父を抑えるのが今度は大変で、
「お義兄様が守ってくれるので問題ないわ」
と言うエリの一言で、何とか10人に抑える事が出来たのだ。
ただ、近衛も10名では全ての令嬢を抑えることはできない。特に身分の高い隣国の王女と侯爵令嬢が近衛のガードを身分を盾に乗り越えて寄ってきたのだ。
「まあ、エリーゼさんも、まだ、お子さまですのに、レオンハルト様に付き合わされて、大変ね」
それまでは、「お義兄様も大変なのね」と完全に他人事だったのに、王女の一言でエリはきっとして、王女を睨み付けたのだ。
そう、エリの前では、子供の癖にとか、まだ胸が無いとかは禁句なのだ。俺が散々その事でからかっていたので、エリはとても敏感になっていた。
エリを子供扱いした王女の衣裳は胸の前を大きくはだけさせていて、胸の大きさを強調していた。
それを見て、エリは益々闘志を掻き立てられたようだ。
「お義兄様、私、ケーキが食べたい」
そう言うと、強引に二人の前から俺を引き離して、ケーキの積んである一角にまで、連れて行ったのだ。そして、ケーキを凄まじい勢いで食べ出したのだ。
「おい、そんなにたくさん食べたら、うぐ」
俺が注意しようとしたのに、エリの奴は俺の口の中に強引にケーキの塊を放り込んでくれたのだ。
「キャッ」
「あの子、今、レオンハルト様に食べさせたわ」
女達が黄色い悲鳴をあげた。
そんな中、俺が咀嚼で忙しい間に、
「はいお義兄様」
俺が話すまもなく、次のケーキを口の中に入れてくれたのだ。
今度はちゃんと小さく切られていた。
「お義兄様、クリームがついているわ」
そう言って、俺の口周りをハンカチで拭いて、甲斐甲斐しく世話をしてくれたのだ。いつもは絶対にしない癖に! というか、いつも俺がしてやっているのだ。
それも王女の方をチラッとみやって自慢げに俺の世話をするエリに、女は恐ろしいと、俺は改めて思い知らされたのだ。
それにこいつは俺の世話をしつつも好きなケーキをたらふく食べているんだけど、そんなに食べて太らないのか?
言おうとしたら、思いっきり足を踏みやがった。
「お前最近凶暴過ぎるぞ」
文句を言ったら
「お義兄様が余計なことを言おうとするからよ」
こいつも言うようになった。
そして、問題の踊りの時間だ。
俺は第一皇子なので、最初にパートナーのエリと二人で踊らないといけない。
親父は自分が踊れなくて文句を言っていたが、今日は学園の卒業パーティーなのだ。親父が踊れるわけはないだろう!
舞台の中央に立ったエリは緊張しているみたいだった。可怪しい。初めて会った時に俺相手に馬になれなんて言い放ったのはお前だけだ。そんなお前が緊張するなんておかしいだろう!
俺はそう言いたかったが、また足を踏まれるのは嫌だ。
仕方がない。
「おまじない」
そう言うと、俺はエリのおでこにチュッとキスをしてやったのだ。
「ちょ、ちょっとお義兄様。なにするのよ」
エリは真っ赤になって叫んでいた。
「「「キャッー」」」
「レオナルド様が!」
「キスした!」
女どもの悲鳴が起こる。
そこへ音楽が鳴り出して、俺達二人は踊りだしたのだ。
真っ赤になっていた、エリはとても可愛かった。
エリは本当に白い妖精のようだった。触れたら折れそうな腰に手を添えて俺はエリをリードしたのだ。
膨れていたエリも踊りだすといつものエリに戻る。
小さい頃から俺はエリの練習台になっていたし、俺達はもう数え切れないほど一緒に踊っているのだ。
息もぴったりだった。
エリと踊るのはとても楽しかった。そのまま俺はエリと三回連続して踊ったのだ。
それを父と母も笑顔で見てくれていた。最も二人ともエリしか見ていなかったが……
俺達はとても幸せだったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
話はまだまだ続きます。
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