お義兄様視点 可愛い義妹が出来ました
俺の名前はレオンハルト・ロアール。この大陸最大のロアール帝国の第一皇子だ。
その俺は9歳の時に母を亡くした。母アドリーヌはミカリエ侯爵家出身で、何かと俺には厳しかった。
俺は剣術や魔術の訓練はするが、礼儀作法や教養は適当にサボっていた。
母にはそれが見つかる度に厳しく叱られた。まあ、今なら判るがそれが母なりの俺に対する愛情だったんだろう。その当時はなんでこんなに口うるさいんだと辟易していたのだが……
当時、帝国は東方諸国と戦争をしており、東方諸国の隣国チエナ王国が東方諸国を援助していて情勢は悪化していた。
丁度そんな時だ。我が帝国軍が東方連合軍の奇襲を受けて、大敗したのは。
ロザンヌ公爵の息子で俺の師でもあった剣聖バージルが、我が父皇帝を逃がすために敵の中に残って一人斬死したのもこの時だ。バージルの剣技は凄まじく、向かってくる敵をバタバタと倒して行ったらしい。最後はテルナンの将軍をも道連れにしてくれた。
バージルの奮戦がなければ我が帝国軍は全滅していたかもしれない。
我が父は這這の体で帝都に逃げ帰ってきたのだ。
大敗に帝国全体に厭戦気分が漂っていた。
そんな時だ。我が母がテロに遭って殺されたのは。
東方諸国連合の間者がやったと言われているが、おそらくチエナも手を引いていたのだと思う。
父の皇帝は戦後処理に忙しくしており、そんな時に母が死んだのだ。
当時俺は9歳だった。
さすがの俺様も母の死は堪えた。
ただ、これまで俺が頭の上がらなかった我が師の剣聖が亡くなりここに煩い母も死んだのだ。
父の皇帝は軍を立て直したり、これ幸いと攻勢に出る反抗勢力の対策やチエナに対する外交対策に忙殺されて俺に構っている余裕も無くなった。
俺に注意するものが完全にいなくなったのだ。
これ幸いとばかりに俺は剣技と魔術の訓練以外は遊び回ったのだ。
完全に我が世の春が来たのだった。
そんな時だ。俺がエリと出会ったのは。
当時のエリは本当に小さくて生意気なガキだった。
会うなり、「お馬さんになって」と俺に命じてくれたのだ。
家臣の娘が帝国の皇子に馬になれと命じるなど考えられなかった。
相手が男なら問答無用で張り倒していただろう。
そもそも俺はこの帝国の第一皇子で俺より偉いやつは父以外いないのだ。当然、そんな理不尽な命令なんてされたことはなかった。
周りの騎士や侍女達は青くなっていたはずだ。
「何故、俺がそんな事をしてやらねばならないのだ」
俺はきっとしてそのガキを睨みつけてやった。
「だってお父さまはしてくれたもん」
そのガキは俺の怒りを帯びた視線を、なんと堂々と受け止めて、更に俺様に言い返してきたのだ。
お父さまだと! 何処のどいつだ。こいつの父は!
俺は更に切れたが、そいつの瞳を見たら嫌なやつを思い出していた。
そいつは決して俺に手加減してくれなかった。我が師、剣聖バージルだ。
他の俺の剣の相手は、皆俺に手加減してくれたのに、バージルだけは決して手加減してくれなかったのだ。いつもこてんぱんにやられて起き上がれなくなるまで稽古された。
剣技が得意で少し天狗になりかけた俺の向こうっ気の強い鼻柱は、いつもバージルに叩き折られていた。
いや、実はあれでも手加減してくれていたのかもしれない。まあ、俺は9歳だったし、元々剣聖に勝てるわけはなかったのだが……
そうか、こいつが剣聖が自慢していた娘か……
その剣聖は俺の父の盾となって死んだ。
そう、こいつには今は馬になってやれる父がいないのだ。我が父が奇襲を受けるという失態を犯したせいで……
少しくらい相手をしてやっても良いだろう。そう俺は思ってしまったのだ。
バージルには多少の世話にもなったし、そもそもこいつは俺の瞳を見て堂々と俺に言い返してくれたのだ。
周りの騎士や侍女が目をむいて驚愕した事に、俺はこの娘の馬になってやったのだ。
「お馬さん、あっちよ」
「もっと早く」
この娘は生意気にも俺の上に乗ってからも、いろいろと注文してきた。
俺はムカついたが、最後まで付き合ってやることにしたのだ。
それを周りでは焦っておろおろしている侍女や騎士達が見ていた。
でも、少し付き合ってやると、ガキは俺に抱きついて寝てくれたのだ。
背中がとても暖かかった。
母が死んで荒んでいた俺の心が何故かとても暖かくなったのだ。
それからもこの生意気なガキはちょくちょく俺の所に遊びに来た。俺は仕方なく相手をしてやったのだ。同年代の奴でも怖れて中々近寄ってこないのに、こいつだけは違った。
「にいちゃま」と言って俺を見ると喜々として寄ってくるのだ。
俺はこのガキの兄ではないと思ったが、その言いぐさが可愛いのでほっておいた。
それにこのガキは疲れるとすぐに寝てくれるのだが、抱き上げたその体温がとても暖かくて俺は何故か心が温まったのだ。
そんな俺とエリが実の兄妹になったのはその翌年の暮だった。
実の母が亡くなってから2年が経っていた。
ここまで読んで頂いて有難うございました。
お義兄様視点です。
続きは今夜の予定です。








