【第三巻発売決定記念】とあるチエナ男爵令嬢の独り言 余計なことを話してしまいエリーゼ様の侍女になってしまいました
私はその日ものんびり過ごしていたのだ。
我がチェン男爵家は王都に近い領地を賜っているチエナ王国の忠臣だ。
この地に300年前に封じられたというまだ、チエナにしては新しい家だそうだ。
私はその家の娘だった。
年は15、来年からチエナの王都の学園に通う予定だった。
私はこの近辺ではお母さまの美貌を引き継いでいて美人な男爵令嬢ととして有名みたいだった。いろんなところから婚約のお話もあったが、両親は皆断ってくれていた。
お前の好きな人の所に嫁げばよいと言ってくれていたし、これから学園に通うのだ。
私も学園でいい人を見つけられれば良いと思っていた。
わがチエナは帝国と戦争を始めたという事だったが、私にとっては完全に他人事だった。
だって戦争なんてこことは別世界で起こっているものだと思っていたのだ。
帝国は南の蛮族で、ここ最近急に力を持って来た新興国だ。
我がチエナ王国の南を荒らしているようだが、お父様が言うように我がチエナの敵ではないと思っていた。何しろ我がチエナ王国は大陸最強の国家で帝国なんて蛮族の敵ではないのだ。
「戦争が長引いたら物の値段が上がって大変になるわ」
お母さまがこぼしていた。私の欲しい着物の値段が上がれば買ってもらえなくなるかもしれないからそれは嫌だなとどうでも良い事を思っていた。
その日も朝の散歩で庭を歩いていた。
私は何気に空を見たのだ。
そうしたらピカッと空が光った。
何だろう?
不思議に思って見ていたら王都の方で巨大なキノコのような雲が上がった。
あんな雲見た事がない。
私は不吉なものを感じた。
その日の夜から続々と王都から逃げ出して来た人が我が領内にも入って来た。
人々は「帝国が攻めて来た」、「恐竜皇子が攻めて来た」と言っていた。
なんでも話を聞いて来た侍女の話によると帝国の恐竜皇子が攻めて来て、王都は一瞬で殲滅されたそうだ。
強大なチエナ王国軍が負けて、王都が焼け野原になったなんて私には到底信じられなかった。
でも、それは事実らしかった。
王都に詰めていたお父様が帰って来たのは翌朝すぐだった。
お父様は北の城壁の警備に当たっていたから、生きのびたらしい。
南の城壁の警備に当たっていた兵士たちは壊滅されたようだった。
「スーイン」
慌てて帰って来たお父様は私を憐れむように見てくれた。
「今から、王都に向かう。直ちに準備しなさい」
「私も行くのですか?」
私はその時まで意味が判らなかったのだ。
「そうだ。申し訳ないがお前には人質になってもらう」
「えっ?」
私は一瞬お父様が何を言っているか判らなかった。
「あなた、それは」
お母さまが青くなっていた。
「周りの領地の連中もみんな、娘を恐竜皇子に差し出すそうだ。恐竜皇子の怒りを抑えるしかない」
「そんな」
私は真っ青になった。
恐竜皇子に差し出すという事は、恐竜皇子の慰み者にされるという事だ。
恐竜皇子の事は私も聞いていた。
たった一人で東方10か国軍を殲滅。妹をないがしろにした南の国を一瞬で攻め滅ぼし、反乱を起こした国の王城を一瞬で爆発炎上させた恐怖の皇子なのだ。
その皇子の生贄にされるなんて……
「いやよ、お父様、私はまだ死にたくない」
私は必死に抵抗した。
「何を言うのだ。いくら恐竜皇子でもお前を食べたりしない」
「でも、あなた、そんなことしたらスーインの結婚が」
「いたし方あるまい。我が男爵家と領民の未来がかかっているのだ」
そんな、私は恐竜皇子の欲望の餌食になるのは確実みたいだった。
「そんなの嫌よ。皇子に慰み者にされたら結婚なんてできないじゃない」
私は泣きだした。
それは貴族の娘だから政略結婚するのは判っていたが、せめて人間の所に嫁ぎたかった。
恐竜皇子は性欲も盛んで毎夜女をとっかえひっかえしているみたいだ。
その時のあまりの激しさに死ぬ女もいるんだとか。
こんなんだったら隣の子爵家の後妻にでもなれば良かった。
後悔したが、もう遅かった。
私が泣こうが喚こうが、どうしようもなかった。
私はその日のうちに馬車に詰め込まれてお父様に王都に連れて行かれたのだ。
「スーインや、見送る事しかできないこんな母を許しておくれ」
「お母さま。いやよ、私、まだ15よ。普通に学園に通いたかった。恐竜皇子の慰み者になるなんて嫌!」
「これ、スーイン、わがまま言うんじゃありません。貴方が言う事を聞かないとこの領地も王都みたいに焼け野原になってしまうのよ。みんな殺されてしまうわ。貴方それでもいいの?」
「そんな」
私は絶句した。私の大好きなこの美しい領地が、蹂躙されて皆が殺されるのは嫌だ。
「スーインや。私も好きでお前を差し出すわけではない。この領地の民を救うにはそれしかないのだ。美貌を謳われているそちならば、なんとか恐竜皇子のお怒りを逸らすこともできるはずじゃ。頼む、この通りだ。行ってくれ」
「そうよ。スーイン、お願い」
両親に頭を下げられたら、もうどうしようもなかった。
私は泣く泣く馬車に乗せられたのだ。
王都は本当に草一本残っていなかった。
かろうじて残っていた南の城壁の中は完全に焼け野原になっていたのだ。
道中私はずっと泣き続けていた。
私はそんな中を急遽建てられた仮の宮殿に連れて来られたのだ。
泣き腫らした私の顔を見て、お父さまはため息をついて癒し魔術を私にかけてくれた。
でも私はそれどころでは無かった。私を慰み者にする恐竜皇子はどんないかつい顔をしているんだろう?
魔物のオーガみたいないかつい感じなんだろうか?
そのオーガに私はどんなことをされるんだろう?
私は恐怖で震えていた。
「チェン男爵」
私は帝国の騎士の案内で中に案内された。
その騎士は優しそうな見目でわがチエナの中でも普通にいそうな人で、私はほっとした。
帝国の人間もチエナと同じ人はいるみたいだ。
でも、大半はオーガみたいなずうたいをした、蛮族のはずだ。
この人も捕まって帝国の兵士にさせられた口だろう。
私達は帝国の皇子の前に出て行き平伏した。
「王都の北に領地を有しているチェン男爵です」
「表を上げよ」
その声はどんな蛮族なんだろうと怖れていた私には優しげな声に聞こえた。
「「えっ」」
そして、顔を上げた私とお父様は唖然とした。
目の前には凛々しい顔をした貴公子がいたのだ。
しかし、なんと、その貴公子はとても可愛いらしい公女を膝の上に乗せて座っていたのだ。
帝国の皇子はお盛んだから謁見の間でもイチャイチャしているのか?
でも、目の前の女性はチエナの人間ではなさそうだし。
帝国って謁見の間で女とイチャイチャするのが普通なのか?
その横の副官みたいな男も女性と肩を触れさせんばかりに並べている……
帝国は性が乱れているのだろうか?
私達は完全に度肝を抜かれたのだ。
「どうしたのだ。男爵?」
恐竜皇子と思われる男がむっとしてお父様を見た。
さすが一軍を率いる皇子だけあってその声は威厳に満ちており、女を膝に乗せているそぶりもしなかった。
「い、いえ、も、申し訳ありません」
お父さまが慌てて頭を下げた。
「横の女は何を不思議そうにしているのだ?」
皇子が私を見て聞いてくれた。
「いえ、帝国では女性を膝の上に乗せて謁見するのが普通なのかと思いまして」
私は言ってしまってから、やってしまったと思った。
「これ、スーィン、何を言うのだ」
怒ったお父様が慌てて私の頭を押さえて下げさせた。
ガンと地面に額をぶつけられた。
でも、それどころでは無かった。
そう、私は考え無に話してしまう癖があるのだ。聞かれたから素直に答えたのだ。
やばい、下手したら殺される。
「も、申し訳ありません。失言でした」
バシンッ
「お義兄様が、こんな事させるからでしょ」
そこに公女様の怒った声がした。
「おい、エリ、危険だからここから降りるな」
「煩い!」
私はお父様の手の力が緩くなったのを慌てて顔を少し上げると、怒って出ていく公女様を慌てて追いかける恐竜皇子が見えた。
あの恐竜皇子が女の子に翻弄されている!
私は茫然として、その様子を見ていた。
「おい、どうするんだこれは?」
前の男が恐竜皇子の座っていた椅子を挟んで立っている男に声をかけた。
「しばらく帰って来ないんじゃないか? エリは怒ると長いからな」
「だな……」
男は少し考えていたが、
「チェン男爵」
男は笑ってこちらをみた。
「はっ」
お父さまが慌てて頭を下げた。
私も頭を下げた。これは絶対に怒られる奴だ。
「隣の勇気のある女性はその方の娘か」
「はっ、申し訳ありません。娘のスーインです」
「恐竜皇子として恐れられている兄上にそこまで言える度胸が気に入った。今日から我が義妹のエリーゼ付の侍女を命じる」
「「えっ」」
私は唖然とした。
そう、これが私がエリーゼ様の侍女になったなれそめなのだ。
私の人生が大きく変わった瞬間だった。
口は災いの元。
まだまだちょくちょく閑話あげていきます。
皆様の応援のお陰で第3巻発売決定しました
10/25シーモア先行配信です。
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