【シーモア第三位記念】お義兄様の婚約者候補に絡まれましたが、お義兄様が助けてくれました
お母様が亡くなってしばらく経った頃の話だ。
私は情緒不安定になっていたシスとよく一緒にいた。
お義兄様は、学園でいそがしかったし、ローレンツお義兄様も学園だった。
15になったマルクスお義兄様も騎士の勉強とか学園入学準備で忙しかったのだ。
私はその日もシスと宮殿の中を手を繋いでお散歩していた。
中庭にはお母さまが好きだったきれいな花が咲いていたのだ。
私がシスと花畑の中を歩いていると、きれいに着飾った令嬢たちが歩いてきた。
真ん中にいるのは、ベアトリス・クラパレード公爵令嬢だった。
えっ、私は驚いた。今まで、この公爵令嬢と宮殿であったことはほとんど無かったのだ。
それも集団を引き連れてこちらに向かって歩いてくる。お義兄様命のこの令嬢は私を目の敵にしている。
このままいくとぶつかる。いつもの元気ならば問題なかったのだが、お母さまが亡くなったところで私も精神的に少し落ち込んでいた。出来たら争いごとは避けたかったけれど……。
前もって判っていれば私はさっさとわき道にそれたのに、この道は一直線だ。逃げ道がない。
彼女たちはこちらに向かって歩いて来た。
それもベアトリスの目がランランと輝いているんだけど、これはヤル気満々みたいだ。
私一人ならば、道をどいてあげたのだが、今日はシスも一緒だ。
シスはこの国の第四皇子なのだ。
高々公爵令嬢風情に道を譲るわけにはいかない。
私達の護衛たちはベアトリスの登場に戸惑ったみたいで、私達の前で庇わなかった。
私達とベアトリス達はぶつかったのだ。
「ちょっと、そこのあなた。クラパレード公爵家のベアトリス様のお通りなのよ。道を開けなさいよ」
取り巻きの一人の令嬢が言ってくれた。
「何を言っているの? 第四皇子のフランシス皇子殿下のお通りなのよ。そちらこそ道を開けなさい」
私は怖かったけれど、言うべきことはきっちりと言ったのだ。
「えっ」
流石に皇子の名前を出したらその女は怯んだ。
シスが皇子だと知らなかったみたいだ。
「何を言いくるめられているの!」
後ろから目を怒らせたベアトリスが出てきた。
「第四王子殿下って身分の低い側室腹の皇子でしょ。前皇后様のお子様のレオンハルト殿下と従姉妹に当たる私とどちらが上だというの?」
「何ですって! あなた、お母様を侮辱するの? 許さないわ」
当時私は怖い物知らずで、ベアトリスを指差すと前に乗り出したのだ。
「何言っているのよ。エミリー妃は帝国の属国の子爵家の令嬢じゃない。前皇后様は我がクラパレード公爵家の出よ。格が違うわ」
「お母様はお義父様から皇后陛下の諡を頂いたわ。その皇后陛下をけなすのは不敬よ。近衛騎士、この不敬な女を捕まえなさい」
「何を言っているのよ。私は第一皇子殿下の婚約者になるのよ。その私を捕まえようとするなんて、お前の方が不敬よ。近衛騎士、この女を捕まえなさい」
ええええ!
このむかつく女がお義兄様の婚約者になるの?
私には青天の霹靂だった。それはお義兄様はいずれは結婚すると思うけれど、その候補の中ではこの女が一番生意気だ。
そうなったら私は絶対にこの宮殿から出ていく、と心に決めた。
近衛の動きが止まった。どうして良いかわからないみたいだ。
本当にシスの近衛はもう一つだ。
少しはちゃんと皇子様を守れよ!
お義兄様に言うと半殺しの特訓に合う可能性あるから、お義父様に言って、もっとちゃんとしたものをつけてもらうように言おうと私が心に誓った時だ。
「そもそも、あなた自体がその側室の連れ子じゃない。連れ子の分際でその母がなくなったんだから、いつまでもこの宮殿にいずに出ていきなさいよ」
私はベアトリスの言葉にショックを受けたのだった。
「何を騒いでいる!」
そこにお義兄様の氷のように冷たい声が響いたのだ。
「レオンハルト様!」
ベアトリスが私に取った態度を180度ガラリと変えて、喜色満面でお義兄様の所に向かおうとして、私を弾き飛ばしてくれたのだ。
えっ!
最悪だ!
私は受け身を取ろうとして
ガシッとお義兄様に抱きとめられたんだけど……
そして、お義兄様はそのまま私を抱いたまま、立ち上がってくれたのだ。
えっ、お義兄様! これってお姫様だっこじゃない。
私は真っ赤になった。
それも婚約者の前でやるか?
私は慌てて降りようとして、お義兄様にがっしりと抱きとめられて降りられなかったのだ。
「ちょっ、ちょっとお義兄様。おろしてよ」
「良いからこのままでいろ!」
私はお願いしたが、不機嫌そうにお義兄様に反対されてしまった。
これは逆らえない。でも、後で婚約者に何言われても知らないんだから。
「れ、レオンハルト様」
なんかベアトリスはブルブル震えている。絶対に怒っている顔だ。
「ジキンス! 何があった。俺に報告しろ」
「はっ、あのう」
お義兄様の指示に近衛の隊長のジキンスは戸惑った。
「どうした。さっさと言え!」
短気なお義兄様は更に怒りだしたのだ。
「お義兄様。私とベアトリス様が道の真ん中でお会いしただけよ」
「そんな訳無いだろう」
私の言い訳はあっさりと無視された。
「どうした? ジキンス」
「はい。ベアトリス様とエリーゼ様が道の真ん中でどちらが道を譲るか言い争われて」
「そんなのはベアトリスが道を譲るに決まっているだろう」
お義兄様が即座に言うんだけど、私は目が点になった。それが婚約者に言うことなのか?
「れ、レオンハルト様」
ベアトリスも青くなっていた。
「エリは今は亡き帝国の恩人剣聖バージルと今は亡き皇后陛下のただ一人の娘だ。俺は二人の墓前で誓ったのだ。一生涯エリは俺が守ると」
「いや、しかし、近衛が守るのは皇族の方で」
「はああああ! 何を言っている、お前は! エリはこの宮殿に入った時から皇族待遇だろうが!」
お義兄様が言うけれど、近衛兵はぎょっとした顔をしている。私も初耳だった。
「それに、俺にしろ父上にしろ、俺の弟達もそうだが、自分の身くらいは自分で守れるわ。今は皇后陛下もお亡くなりになったのだ。か弱い女はエリーゼだけだろうが」
まあ、確かにお義父様もお義兄様も護衛なんて必要はなかった。敵に襲われても下手したら護衛もろとも葬りかねない。ローレンツお義兄様もマルクスお義兄様もお義兄様の死の特訓をくぐり抜けたのだ。自分の身くらい自分で守れる。
でも、それを言ったら私もお義兄様の死の特訓をくぐり抜けているんだけど……
「いや、それはそうかも知れませんが、ベアトリス様も殿下の婚約者なのではありませんか?」
「はああああ! 誰がそんな血迷いごとを申したのだ。そもそもベアトリスはおば上の子供ではないか。俺の婚約者になれるわけはないだろう」
ベアトリスはもう青を通り越して真っ白になっていた。
いや、お義兄様、従姉妹は結婚できるからね。
私はそう思ったが、不機嫌なお義兄様をこれ以上怒らせるのはよくないと思ってそのままにした。
「も、もう良いです」
なんか泣きそうになってベアトリスが身を翻して去っていった。
「「「べ、ベアトリス様」」」
取り巻きの令嬢達が慌てて追いかけていった。
私達はそれを唖然として見送ったのだ。
「お義兄様。行かせて良かったの?」
私が聞くと、
「本来はもっと釘を刺しておきたかったが、あんなものでよいだろう」
なんかお義兄様と私の会話が噛み合っていない気がしたけれど……
大切な婚約者候補にあんなにあたってよかったのか?
その日の夜だ。私はシスを寝かしつけた後自分の部屋で色々考えていた。
お義兄様もいつか婚約するのだ。お母様も亡くなったし、いつまでも私が王宮にいるのはよくないかもしれない。
その時だ。お義兄様が扉をそっと開けて入ってきた。
「エリ、寝たか?」
「えっ、どうしたの?」
私が驚いて聞くと、
「いや、今日はなんか悩んでいたみたいだからな」
そう言えばあの後、色々考えてお義兄様とあんまり話せていなかった。
「今日もこちらに来ないし、どうかしたのか?」
「えっ、だって、もう私も12だし、あんまりお義兄様と寝てはいけないってアリスが言うし」
私が言うと
「今更いうか?」
そう言ったときはもうお義兄様は私の布団の中に入っていた。
「もう、お義兄様ったら」
「さあ、ぎゅっとしてやろう。まだ母上が亡くなったショックは無くなっていないだろう」
「それはそうだけど」
私はお義兄様の腕の中に包まれた。
「なんか今日は少し怖かった」
私が本音を言うと、
「まあ、あいつも気が強いからな」
お義兄様が笑ってくれた。
お義兄様の胸の中は本当に安心できた。
でも、あまり一緒にいるのもお義兄様にとってもよくないはずだ。
でも、今日だけ……今日だけはお義兄様の胸の中で寝よう。
そう思って私はお義兄様の胸の中で寝たのだ。
「エリ、俺はお前を一生涯守るからな」
私がまどろむ前にお義兄様の声が聞こえた。
その本当の意味がわかるのは6年後だったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
エリとお義兄様の昔話でした。
皆様の応援のおかげで、コミックシーモアで絶賛発売中のこのお話。
第2巻『王子に婚約破棄されたので、義理の兄が激怒してこの国を滅ぼすと叫び出したんだけど 卒業パーティーは恐竜皇子と恐れられるお義兄様と一緒に【シーモア限定特典付き】』
https://www.cmoa.jp/title/1101429725/
買っていただいた方は本当にありがとうございます。
なんか立ち読みだけ読んで書いたレビューも散見されますが、
新規書き下ろしはセッシーとの出会いです。皇帝一家でセシール湖にお出かけしたエリーゼはお義兄様たちと湖の地下宮殿に冒険に出かけます。反逆の陰謀と共にそこにいたのは巨大な水竜で……
とても面白いのでぜひとも手にとって頂けたら嬉しいです。
【3千字のSSドレス工房の主の独り言シーモア特典付き】
後書きも書いていますので、最後までお読み頂けたら嬉しいです








