学園のパーティー会場に帝国から来た面々でおめかしして乗り込みました
そして、翌日になった。
学園生活最後の日だ。
お母様の母国の王立学園に3年間通えた。
まあ、貴族のお友達は出来なかったけれど、平民のお友達はたくさん出来た。
今後の人生の糧になるはずだ。
最大の目的であるこの国の王子殿下とうまくいけたかというと、そこは全然駄目だったんじゃないかと思うけれど……
でも、一応お母様とお祖母様、それと王太后様の想いがあるので最後まで頑張ろうとは思う。
「エリ、最悪上手く行かなければ俺が一生涯面倒は見てやるから」
とお義兄様には言われたけれど、
「何言っているのよ、お義兄様。私なんて小姑が残っていたらお義兄様のお嫁さんに悪いじゃない。自分のことは自分で考えるわ」
と私は当然のことを言ったのだ。
なのに、お義兄様は固まるし、トマスさん達は残念なものでも見るように私とお義兄様を見てくるんだけど、何で?
アリスにまで
「エリーゼ様の鈍感さもここまでいくと国宝級ですね」
ってなんかとんでもなく馬鹿にされているんだけど、全然判らない!
「いつもレオンハルト様に無茶振りされているから何くそって思っていましたけれど、今回だけはレオンハルト様に同情します」
って騎士のゴーチェくんまで言い出すんだけど……どういうことなの?
早めの昼食を食べて、私はマガリーのお母さんが作ってくれた青いドレスに着替えるとお義兄様の待つ1階に降り立ったのだ。
「エリ、きれいだ」
お義兄様が感極まったような声で褒めてくれるんだけど、お義兄様にそんなにはっきりと褒められた記憶がなかった私は真っ赤になってしまった。
いきなり褒めるなんてあり?
「さあ、行こうか」
「はい」
お義兄様の声に私は頷くことしか出来なかった。
外に出ると立派な帝国の馬車が置かれていたんだけど。
「えっ、どうしたの? この馬車は」
私が聞くと
「街の馬車屋にあった馬車を改装したんだ」
お義兄様が教えてくれた。帝国の紋章、龍のエンブレムがよく見ると手書きだった。
これって偽造ではないかと思うんだけど……
まあ、お義兄様のやったことに誰も文句は言えないと思うけれど……
「どうぞ、姫君」
お兄様が格好良く馬車の前で手を差し出してくれた。とても様になっていた。
「有難う、お義兄様」
私はその手を掴んで馬車に乗った。続いてアリスが乗り込んできて最後にお義兄様が乗って馬車の扉が閉まる。
トマスさん達、第1騎士団の10名の護衛の元、私達を乗せた馬車は堂々と街の中を走って行ったのだ。
「10騎もの護衛なんて少し、仰々しすぎない? 何か落ち着かないんだけど」
私がいうと、
「ふんっ、こういうのは形が大切なんだよ。お前は帝国の代表なんだからな。これでも少ないくらいだ」
お兄様が平然と言ってくれるんだけど。
そう言えば帝国内での移動も、お義父様が心配して100騎くらいの騎士がついてくれたんだけど……そんなに護衛がいたから、あまり自由に出来なかったのだ。
そんな私をお義兄様がお忍びで良く街に連れて行ってくれて、後でお義父様に良く怒られていたなと私は昔を懐かしく思い出していた。
「まあ、何かあってもエリなら大丈夫だとは思うが、今日は俺からは離れるなよ。手洗いに行く時は必ずアリスを伴え」
お義兄様が子供に言い聞かせるように、注意してくれた。私をいくつだと思っているのだ。
「判っているわ。お兄様こそ、勝手に暴れ出さないでね」
私がムッとして、釘を刺すと、
「ふんっ、俺を誰だと思っているんだ」
「怒ったら見境なく喧嘩を売る狂戦士よ」
私が答えると
「今日はできる限り自重はする」
お義兄様はそう言ってくれるけれど、何処まで守ってくれるんだか……
そして、最初に学園の馬車の乗降場でやってくれたのだ。
「困ります。いくら帝国の馬車でもここから先は王族専用で」
前の騎士が止めようとしたが、
「我らは皇帝陛下の直命を受けている。文句があるならそちらの国王から陛下に抗議していただきたい」
唖然とする私の前でトマスさんがそう言って押し通したのだ。
まあ、戦場帰りの騎士たちに戦争を知らないこの国の騎士たちが対抗なんて出来るわけ無かった。
お義兄様は当然だという顔をしているし、まあ、この国より大きいテルナン王国を制圧したお義兄様からしたら、属国の王族の扱いなんて大したことはないと思っていると思うけれど、私はまだ、ここの王子の婚約者なんですけど……私が文句を言おうとしたら、お義兄様に首を振られてしまった。
お義兄様がこういう顔をする時は逆らえないのだ。
アリスも首を振ってくれたし……
馬車は一番いい所に止まると二人の騎士が馬から下馬して扉の両脇に直立不動で立ってくれた。
馬車の扉をトマスさんが丁重に開けてくれた。
まずお義兄様が降りて
「さあ、エリーゼ」
お義兄様が手を差し出してくれた。
私がその手を取って降り立つ。
「ねえねえ、あれ誰?」
「子爵家の令嬢よ」
「何で帝国の馬車で王族のところから降りてくるの」
「さあ、帝国の威を借りて、ゴリ押ししたんじゃないの」
貴族たちのざわめきがしたが私達は無視した。
「ねえ、あれ、エリーゼじゃない」
「本当だ」
「エリーゼ」
私達はクラスの面々に遠巻きにされた。
私は皆に手を振った。
「ねえ、あのイケメンは誰なの?」
「エリーゼのお兄様だそうよ」
「うそ! 断然うちの殿下よりも格好良いじゃない」
「エリーゼが殿下を相手にしないのも判るわ」
「あんな凛々しいお兄様がいたら、殿下になんかなびかないわね」
うちのクラスの面々は辛辣だ。
そんな不敬なことを言っても良いのかとも思うんだけど……
まあ、確かにお義兄様は顔はどこに出しても恥ずかしくないけれど。
皆に噂されてお義兄様もまんざらでもなさそうだ。
「よし、4人は残って馬車の確保だ。誰が来ようと皇帝陛下の命令で押し通せ」
お義兄様が言うんだけど。
「お義兄様。それでは喧嘩を売っていることにならない?」
「仕方ないだろう。この上下関係だけはきちんと示さないと後でうるさいんだ」
お義兄様が言うのだが。お義父様から何か言われているんだろうか?
「すみません、ここから先は騎士の方は困ります」
学園の騎士が、困って、立ち塞がるが、
「何を言うのだ。我々は皇帝陛下の直命で、エリーゼ様の守護を命じられている。文句があれば、そちらの国王から陛下に申し上げれば良かろう」
トマスさんが傲然と言い放ったのだ。
「えっ? しかし、」
トマスさんの圧にもこの男は、負けなかった。
「貴様、皇帝陛下に逆らうのか、私は陛下よりエリーゼ様は陛下と同じに扱うように言われている。陛下を護衛も無しにこのような所に入れて、何をたくらんでいるのだ」
「も、申し訳ありません」
騎士が慌てて、頭を下げだ。
「そこのお前、中々気骨があるな」
お義兄様が、声をかけた。
「我らを席まで案内してくれるか」
「はっ」
騎士は頭を下げると、私達を席に案内してくれた。
これで、六人の騎士が中に入れたから、例え、私が断罪されたとしても、何とかなる。まあ、もっとも、お義兄様がいる段階で大丈夫なんだけど。








