家に帰ると帝国からお義兄様の部下の方々が来て、お義兄様が危険なことをしたと聞いたのでプッツン切れた私は部屋を飛び出しました
私達がアパートに帰ってきた時だ。
アパート全体がやけに煩かったのだ。
変だ。このアパート、何故か他にほとんど人が住んでいないはずなのに!
古いからだろうかと勝手に思っていたのだ。
ロビーに入ると椅子の周りに10人くらい帝国の騎士が屯していた。
その中でも座っていた大男が立ち上がったのだ。
お義兄様もでかいけれど、この男はもっと大きい。何処かで会ったことがあるような気はした。
「レオン、酷いじゃないか!」
「トマス、何しに来た?」
「何しに来たじゃない! 勝手に一人で飛び出しやがって、俺等は公爵閣下に言われて慌てて追いかけてきたんだ」
その言葉に私はお義兄様をジト目で見た。
「お義兄様。やっぱりまた仕事をほっぽりだしてきたんですね」
「いや、違うぞ。エリ! 俺はちゃんと仕事を終わらせてだな」
「ローレンツ様とマルクス様に丸投げされて、反論させる暇もなく飛び出たんだろ」
トマスさんが呆れて説明してくれた。たしか彼はトマス・ラカーズ伯爵令息、伯爵家の跡取りで、お義兄様の友人だ。学園の卒業パーティーの時に挨拶させてもらった。
そのトマスさんがいきなり私の前に跪いてくれたんだけど……何で?
「我が騎士の女神よ。ご機嫌麗しく」
「「ご機嫌麗しく」」
その声を聞いて、多くの騎士たちが私に跪いてくれるんだけど。
「ええい、お前ら、エリに近付くな。エリが穢れる」
「何を変な嫉妬しているんだ。エリーゼちゃんは俺達の騎士の女神なんだからな。挨拶はしないといけないだろう」
そうだった。思い出した。お義兄様が王立学園卒業後、騎士になる時に、何故か私が騎士の女神をやったのだ。帝国では騎士になる時に女神役の女性に騎士の誓いを行う。
普通は皇后様で、いなかったら皇女様になるんだけど、皇族には女性はいなかったから、しばらくは皇位継承権ももつ公爵家のお祖母様がやっていたのだ。
それを、お義兄様の時に何故か、私がやらされたのだ。
まあ、私はお祖母様の孫だから出来ると言えば出来るんだけど、その時、私はまだ12歳で資格は無いはずだと言い張ったんだけど……
「エリは若いから、騎士の女神がいつまでも生きていたほうが騎士もやりがいがある」
お義兄様は訳のわからない理由をつけてくれて、それをお義父様もそうだなと喜んで頷いてくれたからこんな事になったのだ。
だからそれから3年間、私は何も判らぬまま、ずうーっと帝国の騎士の女神役をさせられたんだけど……
お陰で、お義兄様の代から二番目のローレンツお義兄の代まで3世代、私が騎士の女神で、帝国の騎士たちの一軍に会う度に、必ず一人は私が女神役をした騎士がいて、跪かれるんだけど……
それに、帝国の全土から騎士の卵が来て私に騎士の誓いをするから、本当に何日もかかって大変だったのだ。
「いいな、先輩たちは。女神がエリーゼ様で。俺は年いった公爵夫人だったから最悪で」
「バカ、お前、余計なことを言うな。公爵夫人に知れたらただでは済まないぞ」
「そうでした。すみません」
若手の騎士がトマスさんに怒られて慌てて謝っていた。
「で、お義兄様。勝手に飛び出してきて、ローレンツお義兄様やマルクスお義兄様が怒っていらっしゃるんじゃないですか?」
私がジト目でお義兄様を見ると、
「ふん、俺が大半の敵は片付けたんだ。後はアイツラに任せても文句は言われないだろう」
お義兄様が豪語するんだけど、横でトマスさん達が頭を抱えているんだけど。
「お義兄様。トマスさん達が首を振っていらっしゃいますけど」
私が更に白い目を向けると
「トマス、俺の戦功が一番だよな」
お義兄様が威張って言うんだけど、普通は部下に花をもたせるのが筋じゃないのか?
「それはそうです。何しろレオンハルト様は俺達を置いていって一人で敵の大軍の中に突入されましたから」
「えっ」
私はその言葉に固まってしまった。
「お前らが来るのが遅いからだろうが」
「はああああ!お前は神馬に乗っているんだから俺達より早いに決まっているだろう。それを何をトチ狂って一人で敵の中に突入するんだよ」
「奇襲になっただろうが」
「一人でやる奇襲なんかあるか」
トマスさんが怒っているんだけど、本当にその通りだ。
「でも、敵も油断していただろう」
「ふつう、一人で犬死にしに来るやつなんていないんだよ」
「だから、敵の大将を爆裂魔術でやったら、後は敵が壊乱して楽勝だったろうが」
「お前があたり構わず爆裂魔術を放つからだろうが。皆死にたくないからな。
『狂人が来た』って降伏した兵士たちは青ざめていたぞ」
トマスさんが言ってくれた。
「それで狂犬なんですか?」
私が思わず聞くと
「違う。それはその前まで。一匹で突撃してテルナン軍を壊滅させたから最近は恐竜」
「恐竜?」
「太古に居た化け物なんだと。最近はレオンハルトを見ただけで敵が『レオゴンが出た』って言って逃げるさまは凄いよ。それで、更にピュエラもリセールも降ろしたからおそれをなした周辺諸国も大半が降伏してきたんだ。急に占領地が増えたからその処理が大変で」
「良いだろう、俺は十二分に働いたぞ」
お義兄様が自慢して言ってくれるんだけど……
私は許せないことがあった。
「お義兄様。昔、私と約束したことがあったわよね」
私はプッツン切れていった。
「えっ、何かあったか」
「ありました。昔お義兄様がむちゃした時に私と約束しました」
「えっ」
私の怒りにお義兄様も気付いたようだった。
「二度と再び一人で戦場には向かわないって、昔、お義兄様が一人で一軍を全滅させて大怪我した時に私と約束しました」
「ああ、そう言う事もあったな」
お義兄様が明後日の方を向いているんだけど、私には許せなかった。
「なのに、破るなんて、許せない!」
私はそう言うと席を立ち上がったのだ。
「お義兄様とは二度と口を聞きません」
「おい、エリ、ちょっと」
私は止めようとするお義兄様を振り切って自分の部屋に飛び込んだのだ。
二度とそんな危険なことはしないと約束したのに……
それを簡単に破って危険な目に遭ったお義兄様を、私は許せなかったのだった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
ついに卒業記念パーテイーまであと少し。
エリーゼの運命やいかに?
明日は最初は朝か昼に更新予定です。
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