サンタル王国伯爵令嬢視点 チエナで機密事項を盗み聞きしたら王太后に人質として捕まってしまいました
私はサンタル王国の元伯爵令嬢アナベル・ロデスよ。
私達サンタル王国の貴族はとんでもないことをやってしまった……
帝国の皇帝陛下が溺愛している義娘のエリーゼ様に対してとんでもない不敬を働いてしまったのだ。
私達サンタル貴族はエリーゼ様がそこまで帝国の皇帝陛下や第一皇子殿下に溺愛されているとは考えもしなかったのだ。
エリーゼ様を単なるサンタル王国の子爵令嬢として冷遇して、せっかく我がサンタルに嫁入りしてくれようとしてくれた大切なお方に対して不敬の限りを尽くして遇してしまった。
私達貴族令嬢は、エリーゼ様が単なる子爵令嬢のくせに帝国に輿入れした自分の母のコネを使って、帝国の虎の威を借りて王太子殿下の婚約者に収まってくれたのが許せなかった。
私達はエリーゼ様のお母様が単に帝国の皇族の妾になっているとしか知らされていなかったのだ。
皇帝陛下の後妻、それも皇后様になっていたなんて知りもしなかったのだ。情報が間違えて伝えられたのは帝国の外務卿の陰謀説や、この国の公爵家が関わっていたとも噂されていた。
その結果、エリーゼ様は、本来貴族クラスに配属されるはずが、クラス分けも平民クラスに落とされて、靴箱にゴミを入れたり虐められたり、いろいろないじめが行われたのだ。私もそれに深く絡んでいた。本人に対して嫌味なことも一杯言ったのだ。絶対にエリーゼ様は私のことを憎く思っているはずだ。
本来ならば我々も不敬罪で親ともども処刑されても仕方がなかった。
血相変えてレオンハルト皇子殿下が我が国に帰ってきたと聞いた時は、私ももう処刑されるんだと私はその時に人生を諦めたのだ。
なにしろ反逆した元王太子殿下は恐竜皇子の一撃で消滅したのだ。
せめて、私も痛みを感じることなく国諸共一瞬で消してほしい。私は覚悟したのだ。
しかし、なんと幸運なことにレオンハルト殿下は我々に御慈悲を下されたのだ。
即座にエリーゼ様に忠誠を誓えば、お許し頂けると。
「恐竜殿下がこのような御慈悲を下して頂けるのは二度とない。これもすべてエリーゼ様のおかげだ」
と今まで一緒にエリーゼ様を貶していたレトラ大使も感涙に震えていた。
私達はなんと平民に落とされるでもなく、みな男爵位に降爵にはなるが、貴族のままで良いと言われたのだ。
後で知ったことだが、東方10カ国の貴族や王族は大半が処刑か幽閉、多くは平民落ちさせられたそうだ。それに比べれば男爵位に残れる私達は本当に優遇されていた。
そもそも我が伯爵領の大きさは帝国の男爵領よりも下手したら小さいのだ。帝国の男爵位に残れたのは本当に幸運だった。
レトラ大使が言うにはエリーゼ様の知り合いということで、優遇されたらしい。それもこれも全ては帝国の皇帝陛下や第一皇子殿下がエリーゼ様を溺愛しているからだとか。
私達貴族の多くはレトラ大使に呼び出されて、その御恩を返すために帝国各地に情報収集に散らばることになった。
私は元侯爵令息のロベール・ブラスクらとチエナ王国に向かうことになった。
チエナへの1年間の交換文官としてチエナの王宮で働くことになったのだ。チエナの文官制度を学び、帝国に役立ててくれれば良いとのことだった。
レトラ大使によると頑張って働ければ、帝国にて更に爵位を上げることもできるとのことで、私達は俄然やる気になった。
死ぬ覚悟をしたのに、与えられた第二の人生だ。できる限り働かなければならない。
過去の私を知るものからしたら信じられないと思うかもしれないけれど、私もロベールも本当に心を入れ替えたのだ。
チエナは歴史があるだけに組織はサンタル王国に比べて組織立っており、仕事はきっちりとしていた。ただ、どうしても権威主義というか慣例を大切にしていて、良く言えば古を大切にする、悪く言えば事なかれ主義で、新しいことを手掛けるには難しい国だった。それに全ては行う者の地位が物を言い、外国籍の私達が何か新しいことを言い出したりするのは到底許されるような雰囲気ではなかった。
まあ、働きだして感じたのはチエナにとって帝国は同盟国ではなく、どちらかと言うと敵国で周りからは白い目で見られることの方が大きかった。
私達は配属された外務の中でも統計が主な仕事で、外務の中でも閑職につけられたらしく、残業も殆どなかった。
ただ、その日は決算で珍しく私達も仕事で残業していた。
私とロベールが木管を持って新しくなった倉庫から文官たちの執務室に帰る途中だった。
チエナの宮廷は古く何回も建て増しや改築が行われていてとても複雑だった。
私達は倉庫からの道を間違えてしまったのだ。
「アナベル、こんな赤い建物は初めて見たぞ」
ロベールが道に迷ったことを最初に気づいた。
「えっ、そうだったかしら」
私は改めて周りを見た。確かに完全に道を間違えたみたいだ。
「元の所に戻るか?」
ロベールが聞いてきた。私はロベールの意見に従っておけばよかったのだ。
「もう少し先に行けばなんとかなるんじゃないかな」
私はそう言って先に歩きだしてしまったのだ。
「ホンファ、そちらはどうですか」
建物の中から声が聞こえてきた。
ホンファって確かチエナの王女殿下ではなかったかしら。
私はその声に思わず立ち止まってしまった。
「おい、アナベル、立ち聞きは」
「しっ」
私はロベールを黙らせた。
王女との話ということは機密事項だ。私は今王女が帝国に行っていることを知っていた。
「はい、お祖母様。こちらは無事につきました」
私は王女の声に驚いた。相手はどうやらチエナの実権を握っていると言われているズバン王太后らしい。私は思わず周りを見回した。人影はなかった。帝国の魔導通信を卒業パーティーの時に見たがそれに似た魔道具なのだろう。さすが歴史の長いチエナだ。私は感心した。
「でも、お祖母様、本当に私がレオンハルト殿下が婚約できるのですか? 殿下は小娘と婚約すると宣言しているということですけれど」
「大丈夫ですよ。我がチエナは古からの大国なのです。外務卿もなんとかなると申しております」
王太后は頷いてくれたが、卒業パーティーでの執着ぶりからいっても第一皇子殿下の相手は絶対にエリーゼ様だ。それは私でも判ったことなんだけど、どうするつもりなんだろう?
「いざとなったら、帝国の貴族を誰か捕まえて、脅せばよいのです。狂信者が帝国の貴族を捕まえて、我が国の王女と第一皇子殿下の婚約がならないとその貴族を殺すと脅してきたと脅せばよいのです」
「そのようなことが通用するとは思えないのですけれど」
呆れたように王女が言ったが、
「ホンファ、あなたはチエナの3000年の歴史を舐めているのです。やりようはいくらでもあります。この祖母に任せておいてあなたはその第一皇子と仲良くなるように努力をするのです」
「解りました」
通信が切れたようだ。
そんなに簡単に話が進む事はないと私は皇子殿下の執着ぶりを知っているので判った。
私はロベールに合図して足早にその場を逃げ出そうとした。
ガタッ
その時、焦った私は廊下で思わず躓いてしまったのだ。
「誰です?」
扉が開いて王太后達が顔を出したのだ。
「逃げろ」
そう言って私を庇おうとしたロベールが叫んだ。
「逃がすな」
王太后の声に騎士達が飛び出してきた。
ロベールは私を庇おうとして騎士に斬られていた。
「ギャッ」
「ロベール!」
私は思わずロベールに駆け寄った。
胸をロベールは押さえていた。
「大丈夫」
「俺は良い。逃げろ」
そう、ロベールに言われたが、私は完全に囲まれていた。
「これはこれはわざわざ帝国の貴族がそちらから近づいてくれるとは」
王太后が笑ってくれたのだ。
そして私は横から出てきた外務卿に掴まってしまったのだ。
「静かにしろ。その男を殺されたくなかったらな」
外務卿の声に私は頷くしか無かった。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
サンタルでお義兄様の前に這々の体で逃げ出してた侯爵令息と伯爵令嬢の運命やいかに
続きは来週です








