空飛ぶ金魚
たっくんは金魚の金ちゃんをたいせつに育てています。
金ちゃんは夏まつりでたっくんがすくった金魚です。
水をこうかんするのはまだ上手にできませんが、金ちゃんにごはんをあげるのはたっくんの大事なしごとなのです。
「ねえママ、金ちゃんはなんで赤いのに金魚なの?」
ある日、たっくんはふしぎに思っておかあさんにたずねました。
「おひさまの光に当たると金色にかがやいて見えるからよ」
「ふーん、そっか」
「金ちゃんきれいだね~」
おひさまの下で見る金ちゃんはとてもきれいです。うろこがキラキラかがやいて、みとれてしまいます。
「あれ? たっくん、金ちゃんは?」
「お外でひなたぼっこしてるよ」
いつも冷たい水の中にいる金ちゃんもよろこんでいるはず。たっくんは笑顔で答えました。
「あら、それはすてきだけれど、お外に置いておくとネコちゃんに連れていかれてしまうかもしれないわ。ネコちゃんはお魚大好物だから」
「え? ネコちゃんって金魚食べるの?」
たっくんはびっくりします。
「そうよ。たっくんがハンバーグを好きなのと同じね」
それはたいへんです。たっくんはあわてて外へとびだしました。
「ママ……金ちゃん食べられちゃった……」
空っぽの水そうには水草だけがゆれています。
たっくんは泣きました。お昼ごはんのあとも夜ごはんのあともずっと泣いていました。
「たっくん、たっくん」
「金ちゃん!! 生きていたの?」
「うん。心配かけてごめんね。お空があんまり広くてきれいだからとびだしちゃったんだよ」
大空をゆうゆうとおよぐ金ちゃんはとても気持ちが良さそうに見えます。
「たっくんもおいで。いっしょに泳ごう」
たっくんは泳げませんから、金ちゃんの背びれにつかまってぐんぐん空へとのぼります。
「あ、公園が見える!! ようちえんも!!」
「ね!! 気持ちいいでしょう?」
パパがいつも乗っている電車が見えます。遠くの方には青い山とキラキラ光る海も見えます。
虹の橋をわたってみたり、雲の上で寝ころがったりしたりもしました。
「たっくん、そろそろ帰らないと」
「うん。金ちゃんも一緒だよね?」
「もちろんさ。さあおうちに帰ろう」
「ママ!! 金ちゃん帰ってきたよ!!」
「あら本当だわ。良かったわねたっくん」
水そうの中では金魚がゆうゆうと泳いでいます。
「でも金ちゃんってこんな白かったかしら……?」
金魚のからだには大きな白いもようがあります。
「ママ、それ雲のもようだよ。金ちゃんお空を飛んでたからね」