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美女スパイをヌード撮影、そして誘惑

連載第5回 <美女スパイをヌード撮影、そして誘惑>


 美しい女性からの頬へのキスの余韻がさめない康一だが、数日して「伽藍」のピンク電話が鳴った。その真奈美からで、康一に勝則と一緒に店に来てほしいという内容。康一は真奈美に会いたい一心でそのお願いを聞き入れることとした。真奈美は、飲み代のことは心配しないでねと言っていた。


 勝則にこの店に一緒に言ってくれないかと頼んでみた。勝則は乗り気では無かったが、康一の話から、真奈美がかなりの美人で康一がのぼせ上っている様子から行ってもよいと答えた。行ける日を決めて、真奈美に連絡した。


 約束の日に、勝則と「シークレット」に行った。真奈美は、より妖艶な姿で、二人を出迎えた。康一の心は踊った。

 「康一、確かに美人だね。お前がのぼせるのは判るよ。でもまた、失恋しないか心配だ」


 店には砂川が待っていた。勝則は砂川と二人だけでしばらく話していた。その間康一は真奈美と楽しいひと時。

 しばらくして、勝則が帰るぞと言った。まだ、大して時間がたってないのに、真奈美との会話も、もっと楽しみたいのに。


 帰り道で、

「あの男、地上げ屋だな。うちの土地を買いたいんだとさ。いまは、広い道路に面してないので、そんなに地価は高くないが、もし山手通りが拡幅したら、ばんっと値上がりする。何時になるかわからないが、先を見越してのギャンブルなんだろうね」


 勝則の父は、毛頭売る気は無くて、会うことも断っていたんだという。それで息子に接近してきたのだろうと説明した。

「康一の頼みだから来てやったが、そうでなかったら、あんなやばい連中とは会わなかったよ」

「真奈美は、俺とあいつを会わせるための役目でお前に接近してきたんだよ」

「ああ、利用されたのか、あんな美人が俺を相手にするとは思ってなかったけど、期待しちゃったんだ」

「残念だったなあ。また、独り身の康一だな」


 それからしばらくして真奈美から電話があった。

「康一さん、今回はいろいろとありがとう。すこし、あなたをだましたような気がするの。それで、お詫びに約束した写真撮影は、どうかしら?」

 もちろん康一は、その申し出を断るわけはなかった。ヌード撮影もさせてくれるというのであった。

 「伽藍」の仲間は皆夜間部の学生で昼間はそれぞれ仕事があり、原則日中はいないことが多い。康一は、真奈美の都合の良い日中に合わせて休暇を取ることにし、その日程を真奈美に伝えた。その日、真奈美は、裸になることを想定したさっぱりした服装でやってきた。康一の部屋で着ていた服を脱ぎ、バスタオル1枚だけを羽織った真奈美を地下室に案内した。この地下室は、ロックバンド頭脳警察がアルバムジャケット写真を撮影したことがある、かなり良い雰囲気の空間であった。


 ヌード写真は何回か撮影しているが、真奈美のような妖艶で抜群のスタイルの女性の裸体をカメラに収めるのはめったにないことで、大いに制作意欲を掻き立てられた。バスタオルも脇に置いて、ドミニクアングルの名画「泉」の裸婦のような完璧なプロポーションでポーズをとってくれる真奈美。セミロングの少しカールした髪型、品の良い美しい形状のバスト、白い肌、細いウエストと長い脚はモデルとして完璧であった。妖艶でエロティックではあってもわいせつ感はない。この時代、アンダーヘアーはわいせつ図画扱いになるので、写り込まないように注意した。


 100フィートのモノクロのコダックプラスXを36枚分にカットして自分でパトローネに詰めたフィルム3本ほどと、さくらカラーフィルム1本装填したニコンFを三脚にセットし撮影していった。趣のある地下室の大谷石の壁をバックに、見た人が引き込まれ感動するような仕上がりを想定していくつかのポーズをお願いし、それに快く従ってくれる真奈美のまぶしい裸体をフィルムに焼き付けていった。

挿絵(By みてみん)

日中の時間帯はほとんどの住人がいないはずだが、絶対ではないので、大谷石地下室での撮影を20分ほどで切り上げて、康一の部屋に戻った。


 真奈美がヌード撮影に応じてくれたのは、康一の写真作品を評価したばかりではなく、男性として興味を持ったからであった。地上げ屋に頼まれたこととはいえ、そのお願いを快く聞いてくれる純真な康一に惹かれたのであった。いつも、シークレットに来る真奈美目当ての男たちとは人種が違って見えた。

 部屋に戻ると、真奈美はまだバスタオルのままでいた。康一はドアをロックして、カメラを片付けた。

「はやく、服を着たら?」

 と促した。

「ねえ、私の体、綺麗かしら?」

「ああ、すごい、きれい、まぶしいよ。」

「どお、抱いてみる?」

 康一は、なんてこと言うんだと、ドキドキした。

 真奈美は、康一に抱きつき、ベッドに倒れ込んだ。

 真奈美はもちろん何人かの男性経験があり、うぶに見えた康一を誘惑してみたくなった。ちょっと好きになった康一に自分の体を与えるつもりでいたのだった。

 康一は、今日こそ童貞を捨てられる機会だと思い、何とか成し遂げたいとあせった。未経験がゆえに、自分からどのような行為をしたらよいか戸惑っていた。真奈美の柔らかい肉体を抱きしめながら次の行為に移ろうとした矢先、廊下で石川やそのほかの仲間の声がした。想定より早い時間に帰ってきて、康一の部屋のドアもノックしてきた。

 真奈美は興ざめして、行為を中断した。

 「康一さん、タイミング悪かったわね。わたし、帰るわ」

 真奈美は服を着て、康一にキスしてから、ほかのメンバーに合わないようにして帰っていった。

 なんという体験なのだ。またしても、童貞を捨てる機会を失ってしまったのである。


 山手通りの拡幅は、この後20年以上先のことになった。拡幅後は、嶋田家が「伽藍」の跡地を含めた敷地に高層ビルを建てたのであった。

 真奈美の写真をプリントしたものを持ってシークレットに行ってみたが、真奈美は店をやめていた。その後、真奈美と会うことは出来なかった。渾身のヌード写真だけが手元に残った。それを見るたびに、付き合っていたわけではないが、会えなくなった寂しさを募らせるのだった。


 真奈美と音楽の話をして大いに盛り上がったが、康一のポップス音楽好きは高校時代からで、校内エレキバンドにも参加していた。高校時代は世の中で音楽が大きな影響を与える文化になっていた。大学時代の1969年にはウッドストックという歴史的ライブイベントもあった。

 康一は1964年を「ポップス音楽のビックバン」の年ととらえている。

「ビートルズ」の驚異的なヒット曲連発とそのおかげで脚光を浴びることになる「ローリングストーンズ」などのリバプールサウンドの人気上昇がある。イギリスだけでなく米国でのモータウンサウンドと言われる「シュープリームス」などの黒人グループも負けてはいなかった。主に日本で大人気となったアメリカのインストゥルメンタルグループ「ベンチャーズ」を知らない日本人はいなかった。


 1966年には、「ビートルズ」が初来日した。あまりに世間がビートルズのことで騒ぐようになると、天邪鬼の康一は、「キンクス」等の亜流のグループを皆に紹介し、「俺はミーハーではない」と、あえてビートルズ日本公演には行こうとしなかった。

 それでも康一は大のビートルズファンでレコードはほぼ持っていた。ジョンとポールの二人で作る曲のメロディの「甘さ」に惚れこんでいた。後期の「レット・イット・ビー」以降は別として、それまでのおおよそ200曲は何度も何度も聞きこんでいる。同じくらいの量のヒット曲を作ったのは、のちに登場して康一もすっかりファンになったユーミンくらいだ。真奈美もこの見解に大いに同意した。


 康一の世代は、英米で「ラブ・ミー・ドゥ」等で突然脚光を浴びてデビューしたのちあれよあれよという間に大ヒットを連発していく彼らビートルズの長く続く音楽活動を同時進行で見ていた。

 大学生時代、彼らの新曲が出るたび、「あれっ」と違和感を感じてもそれは彼らの先進性のためである。しばらくしてその世界に引き込まれていく。康一達の洋楽ファンはビートルズとともに成長していったといっても過言ではない。解散の後でファンになった若い人も多いが、そういう発展段階の同時進行体験ができなかったのは不運といえよう。


 ビートルズ来日に続き、翌年にはミニの女王と呼ばれる「ツイッギー」が来日した。康一はあんなミニスカートは保守的な日本人女性が受け入れるだろうかと思ったが、ツイッギー来日の数年後には、街中で、若い女性はどこを見てもミニスカートだらけだった。

 日本人には似合わないというような固定観念にとらわれた大人たちがいたが、康一は膝上10数センチの裾の位置がかえって足を長く見せるので、日本人に適しているとは思っていたが、その通りだった。由紀子も真奈美もミニスカートをはいていたが、真奈美は実に似合っていた。セクシーであった。

  しかし、多くの女性が誰でも彼でもミニスカートという一つの流行にとらわれていて、当時の日本のファッションには多様性を許す土壌はまだできていなかったのだ。

 つづく


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