14:火5
「魔王がいるとか聞いてないんだけど、これから唐突に目指せ勇者物語とか始まらないよね!?一般人に戦闘力とか求められても困るんだけど!?」
「お主はわざわざ死にに行くつもりか?安心しろ、今の魔王様は温厚な方という話じゃ」
捲し立てた私にミルが呆れた顔で落ち着けと私の頭を軽く叩く。
「いや、そもそも存在すら知らなかったっていうか、潰すとか壊すとか言ってくる使者を寄越してくる時点で温厚とか全然思えないんだけど」
「…相手にも聞こえとるぞ」
「当て付けも含んでるから多分大丈夫」
「どこがじゃ。面倒事にワシを巻き込むな!」
ミルが大きく叫ぶ。
目だけ動かして立っている使者をチラリと見ると、無表情を装いながらも不愉快と言わんばかりに眉間に皺が増えていた。
だが手出しはしてこないところ今のところは大丈夫で正解らしいが、ミルからすれば自分も巻き込んだ命知らずの行為に見えるのだろう。
さすがにここは、ごめんなさいと素直に謝ることにした。
「最も力の有るもの。これが魔王の条件じゃ」
ワシには絶対無理じゃがな…とミルは笑う。
「何て言うか力こそパワー的な脳筋制度を実際この目で見ることになるとは人生何が起こるか本当に分からないね。再度聞くけど、一般人に戦闘力は求められないよね?目があったら戦いだ!とか言われないよね?」
「ワシ自身は会ったことはないから確実にとは言えんが、今代の魔王様は候補者の中で最も温厚との話じゃ」
「その言葉を信じたいけど、信じれる要素がどこにもないんだけど!」
「急に殺しはせんじゃろう」
「最低のラインが低い!もう少し希望がないの?」
私がそう言うとミルは大きな溜め息をついた。
「…まあ幸か不幸かは分からんが、向こうから来たのはちょうど良い機会とも言える。良いのかどうかはワシには分からんが」
「何で?」
「先に言ったじゃろう竜の骨の入手じゃ。魔王様なら竜達に話がつけられる。竜の素材は貴重じゃからな。ワシらだけでは辿り着くのに時間がかかりすぎる」
「魔王様が話通してくれるの?」
思ってもみない話の展開に私は驚く。
何しろ相手はただの王ではなく魔王だ。人外の存在のトップが仲介者になるというのだからオカシイと思うのが普通である。
「そりゃあ魔力枯渇の問題となればワシらだけのことではないからな。それにリオンの後ろにはミカド様がおる。無下にはせんじゃろう」
「ねえ、あの森の主の存在ホントなんなの?実は先代魔王とかいう過去があったりする?」
森の主という名のわりには周りに影響力のありすぎる相手の存在に対して私はミルに問う。
森を管理しており薬草が採れなくなるからドワーフ達より立場が強いというのは理解できるが、魔王に対しても影響があるというのはあまりにも過剰だ。
「いえ、お母様は次期魔王候補ではあったそうですが、自分には向いてないと辞退したそうなので魔王にはなったことはないと聞いたことがあります」
これまで沈黙していたリオンが話に入ってくる。
ただしその口から紡がれた説明は穏やかな内容とは言えなかった。
「…つまり魔王と同等レベルか。なるほど」
魔王候補で力で優劣が決まったのではなく、自ら辞退したような存在なら魔王も一目を置くわけである。
むしろ今の魔王より強い可能性すら出てくるのだから、恐ろしいとしかいえない。
「わかるじゃろう、森の主にワシらが何か言えると思うか?」
「いま無茶苦茶、理解したわ」
ミルの言葉に私はウンウンと頷くしかなかった。