12:火3
「いや、会ってみるかと来ただけで特に用はないというか…、念のため聞くけど不死鳥の皆様は異世界への帰り道知らない?」
「イセカイ?」
何の用と聞かれても特に思い付かず正直に話せば、ボールペン…クーゲルシュライバーなる不死鳥次男が不思議そうな声で返してくる。
「異なる世界と書いて異世界。そちらだと異界?」
「知らん!」
「そう…」
勢い良い否定の言葉に、何となくそうだろうなと予想出来ていたために落胆は少なかった。
「ところでトガメ、これは見たことあるか?」
そう言ってミルが見せてきた石は星形にカットされており、表面は何か薄い膜を纏ったようなギラギラと金属のような光が反射する様に私は驚く。
「は?AB加工?どういうこと?」
「やはりお主の世界にもあるのか」
「確かに似たものはあるけど、これどうやって作ってるの?機械とか装置とか無いよね?」
「ああやって錬金術で溶かした金属にクタルを浸けたものじゃ。魔力が強くなければできんが、最近の流行じゃ」
そう言ってミルが指で示した方を見ると、ミルのようなドワーフが液体の入った大きな鍋から何かを取り出していた。
そして近くに居た別のドワーフが鍋の中をかき混ぜ、その中に何かを入れる。
取り出したモノは金網のようなものに置かれズラリと並べて乾燥させていた。
金属を溶かしているにも関わらず、まったく熱さを感じていないような作業姿は、まさに異質の一言に尽きた。
「ガラスを金属の液体に浸けるって何なの。現代の物理法則が欠片も通用してない所業なんだけど…」
「ワシに言うな」
「意味が違うかもしれないけど、魔法も科学も突き詰めると似た感じになるっていう誰の言葉を思い出すわ」
「ほう」
「いや私の世界に魔法は無いから正しいのかは知らないけど」
話しながら私は手元にあるルースを見つめる。
科学の無い魔法の世界でまさかの錬金術で物理的に金属を溶かしてガラスに浸す方法である。
そもそも錬金術が魔力で材料を溶かして云々らしいので、何となく理解できそうな気もするが正直納得出来るかは別である。
金属蒸着加工処理
正式名はオーロラ・ボーリエイラス、略称でAB。
元はガラスカボション等に使われているもので、気化した金属を付着させて表面にメタリックな光沢を出す加工である。
なお使用する金属によって色が違っていたりする。
石名などによって多少変わるが、××オーラ、ミスティック××、××フラッシュなどの名前がついた商品は、説明されてなくてもこの処理がされているという前提なので、憶えていると一つ為になるかもしれない。
特にカットされた宝石は略称、通称、無説明なんでもごされな一般消費者に優しくない状態なので、ルースを購入する際は注意するのが重要だ。
気になるなら鑑別機関に自分で検査に出すと言う手もあるが、その分の費用はかかる。
「特にあの不死鳥達が作っとるのは不死鳥の涙と言われて特に人気じゃな」
「ちなみに御利益とかはあったりするの?長生きが出来るとか?」
「元はクタルじゃ。そんなもんあるはずなかろう。まあ、見た目を楽しむモノじゃな」
「完全にスピリチュアル商法じゃん!異世界なんだから魔法的な要素だそうよ。せめて!」
ミルの夢も希望も無いバッサリとした説明に私はツッコミを入れる。
不死鳥の××的な名前のアイテムといえばゲームや物語では超重要なモノなのだが、貴重さも有り難みもまったく無いのである。
やはりここのニワトリ三兄弟は他の不死鳥達に謝るべきだと思う。
「すひちゅあ?」
聞いたことがない言葉だったらしく、リオンが首を傾げる。
「スピリチュアル…えっと言い換えると霊感商法?オーラがあるとかパワーがあるとか霊験新たか云々とかで、何か凄そうに見せかけて商品を売る的なやつ…?」
「失礼な!我等が作った石だぞ!」
「そもそもガラスは石じゃないし!」
異議を唱える不死鳥達に私は叫んだ。