11:火2
「長男フェニックス」
「次男クーゲルシュライバー」
「三男チキン」
ニワトリをちょっと首長くしてデフォルメしたような鳥達が、それぞれ声を高々に名乗りを上げる。
せっかくだから会ってみるかと、ミルに連れてこられた別の工房に彼等は居た。
格好いい名称として創作ネーミングのネタ枠として名高いドイツ語のボールペンとか、不死鳥にわざわざフェニックスと名付ける意味とか、もはや何処に何をツッコミをいれるべきかすら分からない。
もしかしたら異世界的に何か別の意味があるのかもしれないが、私から見れば混沌の塊でしかなかった。
せめてもう少し名前にも音の統一感とかを出すべきではないだろうか。
「「「我等不死鳥3兄弟なり」」」
遠い目をした私を置き去りにしたまま、ドーンという効果音が流れそうな具合にそれぞれ決めポーズで静止したバカ鳥達の姿に考えることを放棄したくなった
復活と再生を司ったり、炎の化身だったり、聖なる存在だったりする他の立派な不死鳥達に謝れと思ってしまったのは無理もないだろう。悪魔にもなれなさそうだ。
カラフルなニワトリという感じでも通用しそうな見た目も相まって色々と夢をぶち壊しである。
「…何でチキン?」
こういう時は建前でも「カッコいい~」とか「すごーい」とかの反応をするのが大人の反応なのかもしれないが、口から出てきたのは純粋な疑問の言葉だった。
ちなみにフェニックスはラテン語なのだが、ラテン語、ドイツ語ときてなぜそこで英語のしかも鶏肉なのだろうかと聞きたくなるのは仕方がなかった。
「何を言う!キンとは黄金!地に舞い降りた金、すなわち輝くオレに相応しい名!」
「…………」
どうだと言わんばかりに、チキンと名乗った不死鳥(?)は見せ付けるようにバッと己の羽根を広げる。
他の2匹と比べて羽色が黄色く、解説通りに地に輝く金で地金とすればそれほどおかしくはないのかもしれないが、なんというか意味もわからない漢字を刺青で入れた外国人を目の当たりにした気分になった。
声で聞くとどうしても臆病者という意味を持つチキンの方が先に頭に浮かんでしまうため、名付けた親出てこいとすら少し思う。
どう考えても、こちらの世界を知っている存在がいるとしか考えられないが、中途半端な知識過ぎて信用できるか怪しそうだが。
「どうした?」
「…ちょっと、どういう反応していいのかわかんなくなってる」
「そうか」
反応の無い私を不審に思ったのかミルが問い掛けてくる。
「ちなみになんだけど、この世界でチキンってどんな意味?」
「鳥類の肉を焼いたものだな」
「あ、そこは一緒なんだ」
「そうなのか?」
「うん」
「それで、人間が我等に何の用だ!?」
小声でミルと知識の擦り合わせをしていると、決めポーズに満足したのか中央を陣取っていたフェニックスという名の…面倒なので不死鳥長男が私に話し掛けてきた。