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1:23時14分


 もっとも困難な道を選ぶ。


 そんなMのつきそうな趣味趣向なんて持った覚えはない。

 ただ好きになったもののだいたいが、大通りからはちょっと外れた横道だった…そんな感じだ。


 ネットで見て綺麗だったから、きっかけなんてそんな些細なものだし、最初に買ったのは800円のスペイン産の紫色の蛍石だ。


 世には様々なジャンルの収集家がおり、その中に鉱物収集というジャンルもある。

 「石を見てニヤニヤするとか変」とは会社の上司の言葉だが、他人の趣味をどう言われようがこちらは好きでやってるのだからこっちの勝手である。

 犯罪を犯しているわけもないのだから批難される謂れもない、まったくもって失礼な。


 ちなみに鉱物収集とは言っても大きくわけて二つの種類がある。

 自分で山などへ行って採集するタイプと、お店で買って集めるタイプだ。

 もちろんインドア派な私は後者である。とは言っても鉱物販売イベント…通称ミネラルショーは積極的に家から出ていたので、外にも出るインドア派ともいうかもしれない。

 また石本来の形を重視する原石収集派と、石をカットしたルース収集派の両方で、できれば原石とルースを並べて飾りたい雑食タイプである。

 ついでに八面体に割られた蛍石は原石に分類するかルースに分類するかと議論されたりするが、私は石に直接手を加えてる行為は加工だと思っているので、表面をツルツルに研磨されていればルース、されていなければ原石(加工済)に分ける派だ。


 よく鉱物収集は単体での色や種類が多い関係上、水晶や蛍石からこの世界に入ってくる人が多いとは言われるが、私も蛍石からこんにちはとどっぷりとのめり込んでしまった。

 蛍石、水晶、コランダム、ベリル、長石、沸石、国産、外国産、パワーストーン等々…収集ジャンルを細分化すれば数知れず。

 興味本位で訪れた博物館の展示品に魅せられ、その中でも人の手で造られた石ーつまり人工石・合成石・人造石と呼ばれるような石を中心に集めるというマイナーなタイプの収集家となってしまったのである…とは一応表向きの話。

 蛍石を集めてたものの紫外線による褪色等の問題が面倒になり、硬度が高く、カラフルで、ずっと部屋の中で飾っていても紫外線とか褪色とか気にしなくて良くて、比較的手が出やすい価格…と考えていった先に辿り着いた選択肢だったなんて、さすがに人様には大っぴらに言えないだけである。

 誰しも本音と建前ぐらい多少はあるものだ。

 まあ、それでもそのまま何年も追いかけていけているんだから、合縁奇縁なんとやらやら。

 下手の横好きではあるものの…至極全うな、鉱物オタクに分類されるごく平凡な一般人である。




 閑話休題




 目を開ければ輝く魔法陣の上だったため、色々と現実逃避したくもなるのは仕方なかった。


 見慣れない場所に、見たことない魔法陣。召喚という感じだろうか…二次元か、呼んでない。

 バナナで転んだ記憶も、トラックとぶつかった記憶はないが、まさか自分は異世界に転生したとかだったりするのだろうか。

 ついでに言えば途中で神様などに会った覚えもなく、何故か手には大粒の合成ルビーがあった。

 収納ケースについていたラベルを見る限り、自分のモノで間違いはなさそうだ。

 ちなみにラベルとは、その鉱物がなんであるかとか産地はどこであるなどを示すものになるが、ケースに手書きする、ラベルシールを貼る、付属ラベルを作るなどラベルと一口に言っても個性が出るもので、付属されていたラベルを見れば店名がかかれてなくても購入店が特定出来たりするものもある。

 そういえば異世界で合成石を持っていったらお金持ちになれるという話題を見たことがあるし、本当に何もないよりはマシかと私は持っていたケースをグッと握り締める。

 御利益のない合成石だが、金作手段より前に御守りになりそうだ。


「あらあら、まさか本当に成功するなんて…リオンちゃん、無事?」


 魔法陣の前には茶色に緑色の混ざった髪をした、コスプレじゃなかったら異世界かゲーム世界しか存在しなさそうな洋装姿の人物が声に反応して後ろに振り向く、白い大きめな帽子が揺れているのを、これがナーロッパというやつかと妙な感心をしてしまった。

 正直いって今すぐ自宅に帰りたい。


「はいお母様。いちおう成功したようなんですけど…」


「あらあら」


「………」


 扉の近くに居たのは緑色の髪に長い耳、頭には大きな結晶でできた花が飾られており、見るからにファンタジーの世界こんにちはな見た目の御母様で此方は絶句するしかなかった。

 なにしろ人外の生物が居るか居ないかで命の危険度が格段にあがることは、先人達が書いた物語が証明している。


「…女の子なのねぇ。リオンちゃんが呼び出したからかしら?」


「………」


 まるで何かを見定めるかのように、ジッと上から下まで眺めてくる視線に少し戸惑う。

 笑っているように見えるが、こちらを見る目はまったくそうは思えない。

 空気を読めるという日本人の直感に従って明らかに冷たいと感じるそれに、今は何も出来なくても私は反射的に身構えた。


「そう怖がらなくても大丈夫よ。こちらが呼び出したのだから最低限の礼は尽くすわ。でも、まあココでずっと話すのもどうかと思うし、リオンちゃん達は先に外でイロイロ説明してあげた方がいいでしょうね。私はココのお片付けをしておくから」


「お母様?」


 茶色に緑色の髪の人物が不安そうな表情で私とその人物を交互に見る。

 どうやら彼女の名前がリオンと言うらしい。


「リオンちゃんが呼んだ子なのだから、リオンちゃんがこの子に説明すべきだと思うわ。なんだか私だと警戒されちゃうみたいだし、ね」


「…それ私が聞いてて良いんですか?」


 暗に彼女なら私を懐柔できると言われ、私は不審そうな顔で相手を見る。

 そんな私に相手はふふっと軽く笑う。


「別に隠し事なんて無いってこと。正面、アナタの存在が私には予想外なのよね。戻す方法もないわけじゃないけど、せっかく呼んだのにそれもねぇ…。じゃあリオンちゃん、その子はヨロシクね」


 パチンと指がなったかと思うと、いつの間にかリオンと二人で外に居た。

 移動魔法か何かだと思うが、どうやらこの世界は魔法がある世界で確定していいらしい。


「あのっ」


「はい?」


 覚悟を決めたような顔をしたリオンと呼ばれた彼女に、私は反射的に返事をする。


「私、宝石を作りたいのです!」


「せめて一般人じゃなく、専門家呼んでっ!」


 相手から出てきた言葉に私は反射的に叫ぶ。

 いきなりそんなことを言われてもどうしようもない。志望動機か。いや、この場合は犯行動機…なんか違う気がする。

 世界を越えるなら時空も越えて、ベルヌーイさんとかフレミーさんとかチャザムさんとかを呼ぶべきだと思う。

 特にチャザムさんは12歳でダイヤモンド作ろうとして父親に止められたため合成エメラルドの研究に移り、そして見事成功させた人だ。

 そもそも一般家庭はガレージに研究所を作れるかというツッコミをしたいが、他の人がその製法をつきとめるのに数十年かかったという驚異の偉人だ。

 ちなみに使用される原料は現在では劇物指定になっているものもあり、一般人には入手すら難しい。


「で、ですが貴方が呼ばれたのですから、きっと何か意味があるのだと思います」


「私、運命とか宿命とか必然とか否定派だから多分無いと思う」


「そう、ですか?私はそうは思いませんが…」


 なおも食い下がろうとするリオンだが、その語尾は最初より弱い。


「そもそも私、分類的には蒐集オタクになるんですけど、オタクの全員が全員異世界に夢を持ってないし!転生とか召喚とかいらないし!せめて強制でも事前連絡の上でコレクション放出させる期間作ってから呼んでって召喚主には苦情言ってもいいと思うんですよね」


「はい?」


 いきなり私が叫びだしたことで、目の前のリオンは大きく目を見開く。


「わかってます?いや、異世界の人には分かんないでしょうけど親族に理解の無い個人コレクションなんて簡単に燃えないゴミ行きなんですけど!戻ったときに無くなってたらマジで責任とってくれます?私、来週届く予定のやつとか実物さえ見てないんですけど、本当にどうしてくれるんです!?楽しみにしてたのに!」


「え、えええっと…」


 相手が困惑の表情でいることを良いことに問答無用で畳み掛ける。

 例え暗い社会の未来に悲観していようが、オタクの誰もがファンタジー世界に逃げるわけではない。

 特にコレクター気質の人間が、自分がこれまで集めたコレクションをドブの中にぶん投げられるかといわれたら、割りきりの良い人間だったらいけるかもしれないが自分の場合は答えは否である。

 例え他人から見れば理解しづらいかもしれないが、マイコレクション…略してマイコレは特別である。

 ついでに人間は勢いってとっても大事。


 どうやらリオンは押しに弱そうなので、このままとりあえず待遇とか命の保証とか色々言質をもぎ取ろうと考えていると、近くの家らしき建物の扉が開いた。


「騒がしいのぅ。他人の家の前でなんじゃリオン」


「ミルさん」


 のっそり…と背景音が付きそうな感じで現れたのは、まさにと言わんばかりに物語にでてきそうな立派な髭を蓄えた姿の存在だった。

 しかもどうやらリオンとは知り合いのようだ。


「もしかして、ドワーフとかそういう関係の種族?」


「そうじゃ、ストラス工房のミルじゃ」


「はあ、ご丁寧にどうも」


 こちらの問い掛けにも律儀に返してくれた相手に、私も頭を下げる。


「リオンが人間を連れてくるとは珍しいな。一体どうした?」


 ジロジロと物珍しそうな目でこちらを見てくるミルに戸惑っていると、リオンが困ったような顔をしながらミルに話し掛ける。


「その、ハーノキグレが成功したのですが…」


「ハーノキグレじゃと?つまりこの小娘は異界から来たのか。ほお、どおりでな」


「ねぇ、ハーノキグレって何?」


 二人の会話に唐突に出てきた異世界固有の用語に私は首をかしげながら尋ねた。

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