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逆行山(リバース・マウンテン)

「『高度が一定の高さになりましたので、登り滝(リバースフォール)を抜けます』」


 浮遊フロートが山の斜面から離れて滝の表層を抜け、洗車の如く水飛沫が当たる霧海(ミストプール)の中へと戻っていくと、(ふもと)とは違う生物が多種多様に生活していた。

 背ビレが風船のように膨らんで霧海(ミストプール)に漂う魚───風船背鰭(バルーンハイド)が霧中の霧虫(ミストバグ)を食べていたり、頭が膨らんでいるタコ───頭膨蛸(バブルパス)飛行魚(フライングフィッシュ)を捕食していたり、戦闘機みたいなフォルムのエイ───飛闘海鰩魚(バトリーディア)が青い水晶みたいに固まった水を飲み込んだりしている。


「『こ、このまま霧海(ミストプール)を抜けて、く、雲の中へと突入します。ぬ、抜けるまでカウントします…さ、3・2・1…(じぇろ)…! あぁ…』」

「………すっご」


 雲の上に出た景色は、雲の渦の中心に見上げるほど高い青黒い山がそびえ立ち、その山の(いただき)にいくつかの雲の輪っか(リング)と、逆向きの雲の山が乗っている。


「『しょ、正面に見えますのは逆行山(リバース・マウンテン)の山頂で、の、登ってきた水が山の天辺から…そ、空へと拡散されて雲となっていきます。この時に、山頂に向かうにつれて渦を巻くように()じれながら山の斜面を水が登っていくため、上に乗っている雲が竜巻のような激しい流れを持ち、また別の複雑な生態系を雲の中に作っていますが、未だに謎が多く、解明できている部分はほんの僅かだけだと言われております』」


 その山を登る水と雲の流れの影響もあってか、逆行山(リバース・マウンテン)(かこ)うように形成されている雲は、一定の方向に流れ続けており、分厚いのもあって雲の城塞といった感想が相応しく感じる。


「『こ、この黒と白のコントラストが人気のスポットとなっており、ゆ、夕方や夜などの時間の変化だけでなく、エ、漆黒天輪エンジェリック・アビスという空の上を縄張りとする飛行生物の繁殖期になると、さ、逆さ白山に黒い(リング)がいくつも作られ、げ、幻想的な光景も見ることができるため…何度も訪(リピートさ)れる程の人気の場所となっております。そ、それでは逆行山(リバース・マウンテン)の方へと近寄っていきたいと思います』」


 雲海を進んで辿り着いた崖の上は、雲の下の水の過酷さは微塵も感じられないほど緑に溢れていた。


「『あ、あちらに見える根元が膨らんで中身が透き通って見えている植物は貯水壺草アクア・ウィードリウムと言って、み、水を貯め込んで膨らんでいく壺型の植物なのですが、そ、その水袋に虫や水草…水生生物をあえて住まわせることで一つの生態系を作り出すことで、ほ、ほんの僅かな魔力と糞や死骸などといったと栄養になるものを自分の中で残させようとする(したた)かな植物でもあります』」


 雲海から崖上へと、登り滝(リバースフォール)(くだ)って…登って…いくと、水飛沫に浮かび上がるマリモみたいなものがあった。

 ややこしいな。


「『あ、あの登り滝(リバースフォール)の端に浮かんでいる丸い緑の玉は『雨浮裸子(フラレイン)』と言って、あ、雨や水飛沫の中で生息する珍しい植物です。こ、この雨浮裸子(フラレイン)は、み、水と空気の両方に触れていないと枯れてしまう植物なのですが…水と空気()のバランスが崩れるとすぐに枯れてしまう繊細なもので、と、とある学者さんが栽培しようと試みたところ、シャ、シャワーや人工的に雨などを作り出して生育してみたところ…そ、育たずに枯れてしまったという報告がなされたほどです』」


 川を遡上していくと、逆行山(リバース・マウンテン)の途中に横穴があり、シャボン玉のようなものがいくつも飛び出していた。


「『こ、この洞窟は、逆行山(リバース・マウンテン)の特殊な磁場があるこの山の中でも特に強く、そ、その影響もあって水同士が結合し合い、て、手で摘まめるほどの非常に高い粘りがあることから粘り水(ネヴリッシュ)という固有名詞がついているほどです。そ、それでは洞窟の奥に向かいます』」


「『ど、洞窟の狭い場所では膜が張っているため、お、奥から風が通ることでシャボン玉ができあがり、ね、粘性があるために割れないまま洞窟内に無数に(とど)まっていきます。ど、どうぞ、触ってみてください』」

「うわ…」


 指で突いてみると、ブヨブヨと震えるだけで割れることもなく風に流されていった。


「『こ、この粘性のある水の球を使って生息圏を広げている植物があります。泡入草(バルーイン)という植物で、か、風と一緒に水の球に包まれることで効率よく洞窟内を移動しています。み、水の球が割れた後はその割れた場所に根を張り、壁や天井を問わず残った水分によって成長していきます』」


「『あ、あちらに見える黒と黄色の(まだら)模様は磁場蟹(マグネシザー)という蟹で、この逆行山(リバース・マウンテン)を作り出した原因の一つではないかと言われております。それと言うのも、磁場蟹(マグネシザー)が好んで食べる山の土や小石は青色をしており、山の岩を()しとって食べて吐き出されるのが黒い玉には、青い土に含まれていなかった特殊な魔力(せいぶん)が入っていることが分かりました。それ単体では登り滝(リバースフォール)の全ての水を上に引っ張る(エネルギー)はありませんが、元々青かったこの山が黒く染まっていったのと何か関係があるのではないか…と考える学者の方も多いという話です』」


「『あそこにいる小さな生物は鉱石鼠(ミネラウス)と言い、鉱石を食料としており、背中に生えている鉱石の結晶は、食べたものの種類によって色や光沢が違います。また、それだけでなく、生まれた時は普通の歯だったものが、食べたものの影響を受けて硬く鋭くなっていくと言われています。この歯の綺麗さや丈夫さがオスとしての魅力(ステータス)になっており、場合によってはメスの取り合いになった時に、この歯を使って決闘を行い、負けた者はメスの食料として献上されるそうです』」


 進むにつれて出会う生物や植物の説明を受けながら、奥から飛んでくるシャボン玉の数がも増していく。


「『ま、間もなく、洞窟の奥…泡の発生場所に到着します』」


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