帰還(リターン)
「さて…この後の予定では、何か所かご案内したいところだったのですが…」
ラシェルさんの視線を追えば、『落渦星』によって塗り変えられた周囲の姿だった。
「あれだけの規模で起こったのは初めてですからね。塊遊魚は逃げるか隠れるかしてしまっているでしょうし、奥に群生している共鳴洞樹は…折れてますかね。風鈴薺も吹き飛ばされてそうですし大半はダメになっていそうですね…。どうしましょうか。この後の予定のほとんどはダメになっているかもしれませんが…」
「えっと、予定通りにしていただくことはできないのでしょうか?」
「一部の予定を変更すれば大丈夫と思いますが…先程のことがありますから。影響を考えると、見ることができるものは少ないかもしれません」
「それでも構わないので、お願いします」
「…分かりました。私も責任もって案内を続けさせていただきます」
そう言って、ラシェルさんは浮遊フロートを操作した。
◇
結果的に言えば、ラシェルさんが案内してくれた場所は、予想通りほとんどダメになっていたため、中途半端なところで帰ることとなった。
やっぱりあれだけのことがあると、ほとんどが『落渦星』に巻き込まれて埋まったり折れていたり、吹き飛ばされていたり砂埃等を被ってしまっていた。
「本日は本当に申し訳ありません。ちゃんと案内したかったのですが…」
「いえ、大丈夫です」
「ありがとうございます。では、戻りますね。帰還」
浮遊フロートを操作し、帰還のための言葉を唱えれば、光の扉を作り出して潜っていく。
すると、さっきまでいた光景が一瞬で変わり、いつもの見慣れた風景───巨大な鎖で繋がれた5つの浮島が見えてきた。
ここも何度も見ているけど、相変わらず綺麗だな。
その中央の島にある発着場へと、浮遊フロートが降りていく。
「お疲れさまでした。お手をどうぞ」
「ありがとうございます」
「本日は、申し訳ありませんでした。ああ…お客様にはできればもっと穏やかな時にお見せしたかったのですが…」
「いえ、あれはあれで普段は見ることはできない景色だと思うので。お気になさらずに」
浮遊フロートが頑丈なので、あの『落渦星』も近くで見るだけでなく、落ちてくる場所にいながら見ることも大丈夫なのだろう。規模が小さければ、だが。
普段なら案内人の人が案内してくれる場所は、安全を確保するためにその世界の気象情報や起こりうる自然災害も対策した上で向かうなど考慮されているし、自然そのものや歴史上保護されている場所ばかりなので、綺麗だったり整っていたりする。
だから、ああいった規模の自然災害を目の当たりにすることはほとんどない。事故の事例が小数点しかないとガイド誌にも載っているほどだし。
逆に運が良いぐらいだと、感謝しているのだと伝える。
「それだけ珍しい現象に出会えたことが、私にとっては嬉しいんです」
「お客様…! 私、感動しました。では、冒険者証をこちらへ」
「あ、はい」
ラシェルさんが持っている板型魔道具にペンダント型魔道具を近付けると、両方が共鳴して点滅する。
「『空落ち』は、タイミングが合わないと見ることはできない現象です。起こりやすい時期が近くなったら冒険者証に私からお知らせ致しますので、よろしければご利用くださいませ。無論、当社からサービスさせていただきますので」
「え、いや、そんな!?」
「当社からのせめてものお詫びの気持ちです。お受け取り下さいませ(ニッコリ)」
「あ、はい」
あ、圧が強い…!
「それで、次回の予約はどういたしますか? 個人か、団体か…」
「この時期のおすすめの場所とかってありますか?」
「そうですね…。今の時期ですと───」
「では、それでお願いします」
「畏まりました。では、改めまして」
綺麗なお辞儀とともに、案内人としてのいつもの決まり文句を言う。
「本日はFWTをご利用いただきありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「絶叫系の体験は、もう少し手加減して欲しいんですけど…」
「それも含めての案内人ですので(ニッコリ)」