7日目(日曜日)
快眠を得た聡志は、朝食後すぐに学習室へ向かった。
聡志は数学に取り組んだ。滑り出しは順調だったが、途中の問題で手が止まった。別の問題を解いて舞い戻るも出来ず、聡志は満足を得られないまま昼食の時間に至った。
もし昼食で、話し掛けられ嫌な思いをしても、あと少しの我慢だと考えて聡志は食堂に向かった。
しかし誰にも話し掛けられなかった。
聡志は良かったと思った。しかし無視されているのではとの不安が浮かび、悪口に満ちた聡志のいない食卓を想像した。
病院を出れば関わる事のない人々だと、聡志は自分に言い聞かせた。
聡志は午後も学習室に籠った。進捗は芳しくなかった。午後5時前の時点で、予定の半分ほどしか消化出来なかった。
ただ時間を費やせた満足感はあり、聡志は退室した。そしてテレビのある部屋に向かった。
聡志が扉を開けると、テレビの前には笛田や翔龍、秋津も座っていた。皆がいる空間への抵抗を覚えたが、扉を開けた以上退くのは不自然で、聡志は入室した。
聡志は入り口近くの壁際で、立ったままテレビを視聴した。映っていたのはアニメ番組で、聡志が毎週見ている番組だった。
「飛田君も、これ見てるんだ?」
笛田が聡志に聞いた。少なくとも笛田には無視されていなかったと聡志は安堵した。しかし聡志は、淡泊な返事をした。
「時々見ていました」
聡志は中学生の頃、同級生からアニメ好きを馬鹿にされた経験があった。それから聡志は、アニメ好きを公言しなくなった。毎月買うアニメ雑誌も、自宅から遠く離れた、知人の寄るはずのない小さな書店で購入していた。
本編が終わった。次回予告まで見たかったが、聡志は皆より早く部屋を出た。
夕食は昼と同じく無言で過ぎた。
夕食後も聡志は、学習室に足を運んだ。昼につまずいた数式だけは解こうと思い、聡志は集中を断続させながら机に向かった。
聡志が数式を解いた時、時計の針は午後8時を過ぎていた。完璧に習得しようと留まったが、応用するまでの理解は得られず、消灯も近くなり聡志は自室に戻った。
消灯後、布団の中で聡志は思った。
暴力を自慢する少年。不平不満ばかり言う少女。不可解な行動をする者も実際にいる精神科病院。
一方で聡志の通うK高は、理知的な人々ばかりだった。聡志に適した場所は、やはりK高なのだと確信出来た。
明日両親が来て、父は何を言うか想像出来なかったが、母は過去もそうであった様に、聡志を後押ししてくれると思った。
聡志の心は穏やかとなり、深い眠りに落ちていった。