7惑星のパイオニア
好きの反対は無関心って聞いたことあるんですけど、じゃあ嫌いの反対ってなんでしょうね? 好奇心ですかね?
「あれ、もしかして顔見知りか?」
恐らく"意外"と思っているであろう鋭い目の女性が聞いてきた。
「そうなんだよ。休養所の中庭でね」
休養所とは俺が寝てたところだろうか。確かにこの男の人とは中庭で逢った。
「よく来てくれたね。驚いただろう?」
男の人の「驚いただろう」が何を指すか瞬時に分かった
でも
「な、なんで……」
「なんでかって? んーそうだなー」
そう言いながら右手首の甲を顎につける。
「君が人間って分かったからかな」
あの中庭で逢った時から気づいていたのか? 俺が人間ということを。
「そういえば、名前聞いてなかったね」
「あ、えーと……林岡侑人です」
「ほう。侑人君ね」
そういった直後、沈黙状態が5秒ほど続く。何か喋ろうかと思っていた矢先。
「率直に言う。侑人君。君に⦅7惑星のパイオニア⦆に入ってほしい」
「……へ?」
7惑星のパイオニアって、確かカイアさんがなんとか言ってた気がするけど……よく分からない、なんだそれ。
「7惑星のパイオニアって……なんですか?」
俺がそう発した後にニヤッと微笑んでこう言った。
「意味をそのまま言ってもよく分からないだろう。だからその言葉が生まれた根源を話すよ」
7惑星のパイオニアの根源? 確かに名前だけでは言葉の意味はよく分からない。7惑星……? 7つの星ってことか?
パイオニアって……なんだ?
「単刀直入に言うと、あと⦅10年でこの星ジールファタンが滅ぶ⦆」
「え?」
しっかりと逃さずに聞いていたが、思わず理解不能の意を1文字にして返してしまった。
「今のジールファタンの西暦は2513年。その13年前、2500年だね。その当時SRSという宇宙を研究する調査員達が表明したんだ」
少し間が空く。そして
「ジールファタンは少なくとも10年後には滅ぶ。とね」
「滅ぶ……?」
驚いた。驚いてはいたが、ここは俺の住んでた星ではない。ジールファタンは10年後には滅ぶ。のジールファタンの所が地球に変わっていたら、俺は驚きと戸惑いのあまり声も出なかったと思う。
「それでね、7惑星のパイオニアというのは、簡単に言うと⦅ジールファタンの救世主⦆なんだ」
「は、はい」
戸惑いながらもいつもと変わらない声で返す。
「俺はSRSに問い詰めたんだ。ジールファタンはどうすれば救える。と」
「はい」
「するとこう返事が返ってきたんだ」
「『別惑星のあるエネルギーを手に入れなければならない』と」
「……はい」
「次はもっと詳しく説明しろ。と言った。すると、まさかびっくり誰も予想つかないような返事が今度は返ってきたよ」
「は……はい」
すると男の人はニタっとしてた顔をシワひとつない真顔に変えた。
少し唾を飲み込み、覚悟の体制をとる。
「『7つの星に着陸しなければならない』」
「……7つの星?」
「そう。どうやらその7つの星にこのジールファタンを救うエネルギーがあるらしいんだ」
……つまりどういうことだ? 俺が住んでた世界からするとこんな話現実的じゃなさすぎる。瞬時に理解ができない。
「要約すると、10年以内に滅ぶジールファタンをなんとかして救うために7つの星にある⦅ライフエネルギー⦆というエネルギーを見つけ出すために結成された組織。
それが7惑星のパイオニアなんだよ」
「へ、へぇ…………そ、それじゃ7惑星のパイオニアは軍人とかから選抜されるんですか?」
「ぐんじん……ねぇ」
男の人はまたニコッと微笑んだ。何か企んでそうな意味深な顔で。
「侑人君は剣魔専を知っているか?」
「あ。はい、知ってます。確か剣術と魔術を……」
「そう。詳細は後で分かると思うけど、心喋刃あるいは心喋弓という喋る剣や弓を使って戦うヒューマーたちを育てる機関だ」
それじゃカイアさんも鋭い目の女性も剣魔専に所属してるということか。
あの宿舎の中庭でも少しだけ解説してくれたが、あの時はよく分からなかった。剣魔専の意味を知れて少しホットした。
……てことは剣魔生というのは剣魔専の生徒ということか。
「分かってくれたかい? 侑人君」
「……はい?」
「7惑星のパイオニアに入って欲しいと言ったじゃないか」
そういえば、要求はそれだった。すっかり忘れていた。
…………ん? 待てよ。確か7惑星のパイオニアというのは10年以内に滅ぶジールファタンを救うためのエネルギーを見つけ出す組織なんだよな。
…………え?
俺は斜め後ろにいた鋭い目の女性を見詰める。
鋭い目の女性は左頬をクイッと上げて男の人を示すように顔を上に振った。
俺は男の人に視線を戻す。
「……あ、あの……星に着陸するんですよね?」
「そうだよ」
「え、この……ジールファタンっていうの星から別の惑星に……?」
「うんうん」
「う、宇宙を通して?」
「そうそう。あぁ、大丈夫だよ。ジールファタンの技術は君の住んでた星よりも上だからね。宇宙に出るって言っても危険は伴わないよ」
「………………」
沈黙。7つの惑星? ライフエネルギー? 星に着陸? 訳が分からない。何を言っているんだこの人は。いやこのヒューマーか。もうめんどくさいから人ってことにしておこう。
「想定はしていたよ。告知も無くこんなこと頼むなんて誰でも頭抱えるよ。でもね人間の君を選んだ理由はちゃんとあるんだよ」
なんだよ理由って。例えそれがどんなに正当な理由でも俺が納得できない限り不当扱いにするつもりだ。
「というか……俺みたいな普通の人間よりももっと適正のひ……ヒューマーがいるんじゃないですか!?」
「ああ、そうさ。いるよ」
「……!? ならなんで……」
「普通みたいな。ね」
男の人はまたもやニコッと微笑んだ。絶対になにか企んでそうな顔で。正直ちょっと不気味だ。
「僕たちヒューマーにとってはね、人間は普通じゃないんだよ」
「え?」
「侑人君から見たらヒューマーは魔法が使えて耳が自分より長い生き物、つまり宇宙人だと思ってるだろうけど、僕たちヒューマーから見れば君だって宇宙人なんだよ」
確かにそうだとしか言えない。俺にとっても相手にとっても価値というものは違う。そういう発想に至らなかった。
「君は地球という星から来たよね?」
「え……はい」
俺地球から来たなんて言ったっけ……?
「多分地球なら、壁にパンチしたり木にキックしたりしても対する物体はあまり変わらないと思うんだ。そうだろう?」
「……そう……ですね」
「でもジールファタンなら違うんだ」
本当に何を言っているんだ。頭にハテナが渋滞している。
「何故そうなのかは詳しくは分からないが、人間がジールファタンに来て心喋刃か心喋弓どっちかを持てば最強と言っていいほどのものが出来上がる」
「……!」
最初は信じ難いと思った。だがその思いも徐々に変わっていく。さっきの鋭い目の女性との戦い。俺が女性を吹っ飛ばせたのは俺がその心喋刃とやらを持ったからあんなにパワーが向上したのか。
「だからさ……あー、んー」
何か考えるような素振り見せる男の人。
「やっぱり今日はいいよ」
「え?」
「いきなり入れって言われても困惑するだけだよね。ごめんね」
今度は何が来るかと思いきやまさかの謝罪がきた。
「それじゃあ1日後にここに来て7惑星のパイオニアに入るかどうか決めておいてよ」
ふむふむ。1日後ね。1日後…………は!?
「ふ……ヘルシャフト様ぁそれはちょっと気が早すぎじゃないですか? まずは剣魔専の入隊からじゃないと」
「おっとそうだね。いくら人間でもまずは基本を覚えなくちゃね」
入隊って……話に全然ついていけないぞ。
「それじゃ侑人君、さっきのは撤回。まずは剣魔専の入隊からだね。期間は1日のうちにね」
一日のうちって……だから
「いやそれはちょっと……期間が短くないですか……?」
「そうかい? でもあまり長くしすぎても……ああ!」
男の人は何か閃いたような顔をした。
「そうだった、忘れていたよ。ジールファタンでの1日というのは170時間、つまり侑人君が住んでいた地球の基準で考えると約1週間なんだ。」
「そ、そうなんですか」
「そう。だから安心していいよ」
この世界では1日=1週間ということに安堵した。それじゃ1週間は考える期間が設けられるということか。
「僕からの話はこれでおしまい」
やっと終わりか。話す量は多くはなかったが情報量が多かったな。
「また1日後(1週間後)に来てよ」
「あ、はい」
「うん。それじゃあね」
鋭い目の女性が「行くぞ」と言うと男の人は垂らしていた右手を上にあげて手を振った。
カイアさんと鋭い目の女性と俺はワープ装置に足を運ぶ。
「あ、そうだ、ちょっと待って」
鋭い目の女性が自動で出てきたパネルの1のボタンを押そうとする寸前に男の人が入ってきた。
「カイア」
「は、はい」
「罷免取り消しだ」
「え……?」
鋭い目の女性が1のボタンをカチッと押す。
読んでくれてありがとうございます。
やっと物語の趣旨を書けて何よりです。




