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ライトでポップな破壊音

口の悪い主人公。


そのとき響き渡った異音が、食堂内のテーブルが素手で叩き割られた音だと正確に理解できた人間が、一体どれだけいただろう。


水をしたたらせながら、しかし先ほどまで死んだ魚の目をしていたとは思えないほど爽やかに笑みを浮かべた和虎は、近くのテーブルに、無造作に拳を下ろしていた。

その瞬間、めきょ、とかぱきょ、とか、そういった感じの、文字にするとわりかしライトでポップさを感じる異音とともに、何の罪もないテーブルはご臨終した。

ヤンキーな友人が、俺は何も見ていないと目を逸らし耳を塞ぐ。

そんなヤンキーに、現実を直視しろと優等生が無理やり和虎の方を向かせる。

その視線の向かう先には、和虎に叩き壊されたテーブルが一つ。

あーあ。俺は声に出さずに呟いた。

ご愁傷様。蒼い顔で腐男子が呟いた。



「……いんらん?」

これ以上ないくらいの静けさに包まれた食堂に、和虎の声が落ちる。

「……俺を貶めたいって意味合いで使ってるんなら、この上ない侮辱だわな。机に落書きとか呼び出しとか、そんなもんよりよっぽど有効なイヤガラセだ。」

爽やかに笑った和虎は、ちらりと取り巻きたちに視線を投げる。

「こぉんな、見た目以外ゴミくそみたいな連中に、なんでこの俺が色目なんざ使わなきゃなんねえんだ?ああ?俺ぁ駄犬に発情するような趣味は持ち合わせてねえんだよ。」

そのまま会長の親衛隊長に戻された視線はこの上なく冷ややかで、蔑んだ目つきに隊長の顔色はもはや土気色になっていた。

人間凶器といって過言ではない男に、水をぶっかけたのだ。無理もない。

「美形?金持ち?だからなんだってんだよ。それだけで全員が全員お前らに惚れると思ってるとか、どんだけ自意識過剰のナルシストなんだよお前ら激しくキモいんだけど。

お前らの顔にも家柄にも興味ねえ奴らは純粋にお前らが嫌いだから周りにいないんだっていい加減気付いとけ?

つうかそもそも俺がこのキモい奴らに関わらなきゃいけなくなったのはお前の所為だよお前の」

そのまま矛先は、ぼけっと突っ立っていた転入生に移動した。

「俺は男に平然と手を出してセフレとか言っちゃうようなキモい奴らなんかと知り合いたくもねえのに、なにが“仲良くなれてウレシイだろ”だよ。ウゼえんだよキメえんだよ仲良くなる人間くらい自分で選ぶわこのくそボケがあんな人間のクズ共とトモダチとか気分悪いんだよ俺の価値はんなに安くねえんだよタコが」


「…切れちゃったねえ」

「…だな」

「…誰が収拾付けんだよこれ」

「…さあ」


皆が皆、固まっている中で、ここでもKYぶりを発揮した転入生だけが和虎の暴言に反応する。

「っと、トモダチになんてヒドイことゆうんだよ…!」

「だからトモダチでもなんでもねえっつってんだろうがまじざけんな鳥肌立ったじゃねえかそもそも自己紹介しただけでシンユーとか頭沸きすぎできめぇし何がシンユーだてめえはそもそもトモダチですらねえんだよ」

ここまで空気読めないといっそ感動さえ覚えるが、冷ややかな笑顔で和虎はまくしたてる。

「俺は何度も言ったぞ。気安く触るな。お前らなんかと一緒にいたくねえ。

それにてめえは何て答えた?“照れんなよ”、だ?

誰が男相手に照れるか全身全霊で嫌がってんだよ分かれよこのKYマリモが。

俺はホモじゃねえんだよ男にべたべたされても微塵も嬉しくねえし男の顔が良くても何ひとつ嬉しくねえしいっそ凹ませてやりてえくらいなんだよ。」

そこでみんなの視線が一瞬、破壊されたテーブルに向かい、そして逸れた。

凹むどころじゃないよね、と呟いたら優等生から首がもげるんじゃないかと返された。

ヤンキーと腐男子は聞きたくないと耳を塞いでいた。

「それなのにお前らヘンタイ共が勘違いの挙句に殴るわ蹴るわ、ヒトが反撃しねえのをいいことに好き放題やってくれちまうから、おかげで体中アザだらけになるわ。

かっこ悪いから女も抱きにいけねえしその間に女とられるし…あー思い出しても腹が立つ。」

ぶつぶつと言い募る和虎の勢いに飲まれていた一同だったが、我に返った転入生が和虎に掴みかかろうと前に出てきた。

「カズトラ!なんでそんなヒドイことゆうんだよ!!」

今しがた、粉砕されたテーブルを間近で見たにも関わらず和虎に近づく度胸だけは、認めても良いかもしれない。

だけど、転入生の伸ばした手は、するりとかわされた。

そして和虎は、ここぞとばかりに転入生たちから距離を取る。

「かず、」

「おっと、これ以上俺に近づくんじゃねえぞ。てめえのバカ力で掴まれたら余計なアザが増えるだけだしな。

大体、酷いことを言うのはてめえらはオトモダチじゃないから。これ以上酷いこと言われたくなけりゃ、金輪際俺に近寄るんじゃねえ。


いいか、もし近づいてみろ。俺は――」


そこで和虎は、小さく息を吸う。

そして。


「――俺はお前らを、“ドM”認定するからな。」


食堂中に響き渡るような声で、のたまった。



な、なんだってー(2回目)

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