親衛隊は美少年だらけ
和虎の前に立ちはだかるチワワ!
「あんたいい加減にしてよね!皆様が迷惑してるのが分からないの?!」
小柄な体型ながら、精一杯胸を反らし和虎を見下すように立ちはだかるのは、まるで美少女のような外見の美少年だった。
大きなアーモンド形の瞳に、長い睫毛。すっと通った鼻梁。血色の良い唇と薔薇色の頬。小さな顔にそれらがバランスよく配置され、亜麻色のサラサラとした髪がそれらを縁取る。
10人に聞けば10人が可愛いと認めるであろうその美少年は、将来加齢臭の漂うハゲ親父になる可能性があるだけに、可愛いの無駄遣いであった。そんな可愛い顔を怒りに歪ませ、美少年は和虎を睨みつける。
顔が顔だけに、迫力は微塵もなかったが、和虎に対して敵意を示していることだけは、十分すぎるほどに伝わってきた。
「…あれってさ、会長の親衛隊長じゃね?」
「…死んだな、あいつ」
「…ご愁傷様でした………」
「破裂寸前の風船に針を刺しに行くようなもんだよなあ…」
思わず、同情や憐れみを主成分とした視線を、和虎の前に立つ生徒に送る。
だって、美少年が睨みつけているのは、あの和虎だ。笹生和虎なのだ。
思わず手を合わせる俺と優等生、クリスチャンでもないのに十字を切る腐男子、現実を直視しないよう精一杯視線を逸らすヤンキー。
が、そんなことに気付きもしない会長の親衛隊長は、死んだ魚のような目で俯いている和虎に、近くのテーブルにあったコップを引っつかむと、なんといきなり水をぶっかけた。
「「「………」」」
友人たちの顔が、面白いように蒼褪めた。
ぽたり、ぽたりと水分が、和虎の髪を滴り落ちる。
「庶民の分際で会長様たちに近づくなんていい加減身の程をわきまえてよねこの淫乱が…!!」
転入生に対して何かすると、取り巻きたちからの反撃があるため、直接的な行動には出られない。だから、転入生が親友と呼ぶ和虎を代わりにした嫌がらせであった。転入生と取り巻き以外は分かっていた、それ。
周囲の親衛隊からは同調する野次が飛び、取り巻きたちはにやにやと傍観し、転入生はしんえーたいなんてサイテーだとただ喚き散らす。
しかし和虎は俯いたまま、微動だにしない。
しばらくの間、和虎に対しての罵声が続いた食堂内だったが、和虎は動かない。
ざわついていた食堂内は、和虎の異様な雰囲気に押されるように徐々に静まり返っていった。
一瞬訪れる沈黙。
それを破ったのは、微動だにしなかった和虎であった。
俯いていた顔を、ついと上げる。
和虎は、不気味なほど爽やかに、笑っていた。
このあと、主人公しゃべります。