王道的展開から始まる非王道
所謂非王道系の、巻き込まれ平凡脇役主人公を自分なりの解釈で書いてみました。
腐男子を名乗る友人曰くの「非王道」と呼ばれる転入生と遭遇してしまってから、彼の平穏な学園生活は敢え無く終わりを告げた。
見た目はキモい。声はでかい。話を聞かない。品もない。決めつけで物事を語る。
彼がうっかり接触してしまった転入生はそんな特徴を持ち合わせていて、もっと簡潔に語るなら「うざい」の一言に尽きた。
ひとまず、第一印象が最悪だった。
何故ならもっさりとした、顔の半分を隠す海藻のようなヅラを被っているからだ。
ついでに顔の大きさに全く合っていない、一見して伊達だとわかるだっさい眼鏡もかけていて余計に顔がわからない。
美形を崇拝する文化のある学校なので、ある程度顔で判断されることはある。が、これは顔の良し悪し以前の問題だ。身だしなみを整えるのは最低限のエチケットである。あれはない。
ズラが必要なら、なんでもっと自然な感じなものにしないんだろうか。あとあの伊達眼鏡はあからさま過ぎてどうなの。と、俺とクールな優等生の友人が真面目に検討してみたが、腐男子に「それが王道から派生した非王道なのさ!」と一言で切って捨てられた。何を言っているかさっぱり分からない。
そんな最悪な見た目で、言うに事欠いて「人を見た目で判断するなんてサイテーだ!!!!」と、腐男子曰く王道的な台詞を吐く、通称王道系主人公・略して王道くん。
一番最初に与えられるその人間についての情報なんだから、ある程度見た目で判断するのは当然だというのに。それも、イケメンかどうかではなく、清潔かどうかという意味においてだ。
初対面の人間をドン引きさせる、何重苦も背負ったその転入生は、しかしそんな出で立ちであるにもかかわらず、どういうわけか学園で幅を利かせる美形たちにすこぶるモテた。
これは学園七不思議に入れてもいいのではないかと思うくらいの、理解できない謎の現象だった。
副会長から始まり、生徒会役員全員、クラスメイトの爽やかくんと一匹狼まで。
腐男子曰く王道的取り巻きをわずか一日でコンプリートし、そのまま自身の取り巻き化させた。
取り巻き化した阿呆共曰く、「対等な態度で接されたのは初めて」で、不思議なことに友情をすっ飛ばし恋に落ちてしまったらしい。腐男子曰く、「様式美だね!」とのことである。
まあ、それだけならば、別段何の問題もなかった。美形を崇拝するファン集団である親衛隊たちが泣こうが喚こうが、彼らの意思である。こちらとしてはあいつら趣味悪すぎ、の一言で終了だ。
しかしそうは問屋が卸さなかったのが彼こと、我らが友、笹生和虎である。
転入生に遭遇してしまうことは侭あるが、基本的に転入生は美形とチワワ、もとい親衛隊にしか反応しないため、絡まれる心配はない。こういうとき美形でなくてよかったととても思う。
笹生和虎は至って普通の男である。
いや、普通というとかなり色々、色んな意味で語弊があるが、見た目だけならそこら辺にあふれかえる普通の男子高校生である。
適当な短さの黒髪、適度に着崩した制服、友人との会話ももっぱらグラビアアイドルか巨乳タレントの話ばかりの、今どきの少年である。
まかり間違っても転入生の美形レーダーに引っかかるような見た目ではない。
にもかかわらずうっかり、目をつけられてしまった。
転入生と、まさかの同室だったのである。
な、なんだってー(棒)