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     冷たき訪問者Ⅷ

 その日の夜、夢を見た。

 誰か見知らぬ人物がそこに立っていた。ここはあの例のくらだ。鍵を開け、蔵の中へ入っていくのが見えた。その後を追いかけて中に入ってみると、中は暗がりで明かりを点けないと見えにくい。この蔵の中には、嫌な雰囲気があった。目を細めてよく観察していると、誰かが陣を描いている。左手には何やら古い本を手にしながら険しい表情をしていた。


「なんだよ。これ……」


 灯真があっけにとられたのは他のことだった。周りの壁には、うめき声が聞こえてくる。壷に蓋がされて、その上に呪符が貼ってある。


「何かが入っているのか?」


 手を伸ばしてそのつぼを触ろうとするが、壷を貫通して触ることが出来ない。

 今の自分は、人には見えない霊体に近い存在である。そもそも自分の夢なのだから触ることなんてできるはずがない。


「触れないのか……」


 振り返って中央で何かをしている人物を物陰に隠れて観察をする。

 体の大きさからすると男性のようだ。じんは白チョークで描いているのが分かった。見たことのない陣だ。


 男は、描き終えると古い書物を近くになる棚に置き、懐から封印しているのであろうビンを陣の中央に置くと、陣の外に出て手を合わせた。


「我、示すものは血となり肉となり。我の思いに応え、我を助けよ。我が名は……」


 男が術を唱えだすと陣が光り始め、物凄い霊力がビンビン伝わってくる。

 これはおそらく契約の一つなのだろうか。


 何も知らない灯真とうまは、一部始終まばたきを忘れるほどその瞬間を見ていた。


 吹き荒れる風、光の柱が天井まで上っていき、男はそのまま術を唱え終えると、自分の左親指を噛み、皮膚から血を出すと、陣に二、三滴こぼす。

 たぶん、あれはこの術に必要な生贄なのだろう。


 何かを得るには、何かを失わなければならない。昔、読んだ本に書いてあった。等価交換とうかこうかんと同じ原理だ。


 しかし、本当に恐ろしかったのはこの後だった。

 あまり、記憶に覚えていないが封印された壷から黒い物体の悪の強いあやかしが飛び出してきた。


 その後、男がどうなったのかは分からない。白い光に包まれ、灯真は、起き上がった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………。今のは一体…………」


 顔を右手で覆いながら息を切らす。部屋の電気は明るく、テレビは何も放映されていなかった。


 時刻は夜中の二時半。窓の外は真っ暗で何も見えない。

 呼吸をゆっくりと整えながら自分の思考回路を整理していく。


 落ち着くのにそう時間は掛からなかった。


「なんで、あんな夢を……。もし、あれが本当にあったとするならば今もあの妖怪たちは蔵の中で生きている————」


 そう思うと居ても立っても居られない。

 だが、外は吹雪ふぶき。夜の外は危ない。確認をしに行くとするならば明け方だ。


 とりあえず一度トイレを済ませ、明かりのない廊下を往復して、部屋に戻り、部屋の電気を夕方にすると、布団の中に入り眠りなおした。

 それからは何も起こらずに朝を迎えるまでぐっすりと眠ることが出来た。


     ×     ×     ×


 大晦日おおみそか本番————


 朝はやけに寒かった。窓の外を見ると雪一色の景色が広がっていた。雑木林の中には、鹿や白うさぎが隠れているのが見えた。

 昨日の吹雪で、十センチほどまた高くなったようだ。


 窓を開けると、冷たい空気が部屋の中へ入ってくる。閉めようと思ったが、二酸化炭素が充満したこの部屋で過ごすのには息苦しい。それに空気の入れ替えに目を覚ますという一石二鳥の考えだ。

 時計を確認すると、六時四十五を過ぎていた。

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