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     冷たき来訪者Ⅴ

「へぇ、一応沸かしてあるんだ。ふーん……」


 露天風呂ろてんぶろを見つめながらブラシを取り出し磨き始める。

 小さな妖たちが、お酒を飲みながら先に露天風呂に浸かっていた。


「一番風呂じゃないのか……。ま、別にそれはいいけど……」


 灯真とうまは、黙々と石床を洗い、シャワーで汚れを隅の方に流していく。曇った窓ガラスは、一度タオルで拭いてみるが、すぐに曇ってしまい使い物にならない。

 露天風呂が外にあるのは冬の風物詩にしてはいいのだが、少しでも離れた場所にいると、マイナス気温の世界にいる。脱衣所から裸になって湯船に浸かるまでの短い距離が地獄になっているのだ。


 足元が滑らないことを確認し、周りにくまいのしし、鹿がいないかを確認した。だが、普通の人間ならここまでしか確認しない。灯真にはもう一つ確認しなければならない生き物がいる。それが妖だ。今は、害のない弱い妖怪たちがいるのだが、もし、この雪の中に大物が現れたらひとたまりもない。


 服は脱衣所で脱ぐのをやめ、かごの中にシャンプーと未開封の石鹸を入れ、シャワーの近くにある濡れにくい場所に置くと、服を脱ぎ始めた。

 上から脱ぎ始め、寒さに耐えながら全裸になるのに一、二分かかった。


「寒い、せめて周りをガラス張りの窓でも張ってくれるといいんだけど……。それじゃあ、ただの温泉になるよな……」


 腕を組みながら、タオルを肩に載せて鏡の前にある椅子に腰を掛けると、温度調節を左に回し、一気に五十度まで引き上げた。

 お湯を出そうと、蛇口を捻ると冷水が出てきた。


「わあっ! 冷たい!」


 すぐに蛇口を閉め、タオルで髪の毛を拭く。


 すぐに熱くなるのを考えていなかった。早く、湯船に浸かりたかったのだ。

 時間をおいてからもう一度水を出すと、既に五十度近くのお湯になっていた。

 そこから三十二度まで温度を下げ、髪の毛を濡らし、体全体を濡らしていく。


『人の子がなぜここにいる……』


 どこからか声が聞こえた。


「…………誰かいるのか?」


 姿が見えない人物に問い掛けるが、返事がない。どこから声をかけてきたのか分からない。

 灯真は、辺り全体を見渡すと自分と小さな妖怪たちしかいないのだ。


 おかしい。確かにはっきりと自分に話しかけてきたはずだ。


 首を傾げながら、髪の毛を洗い、体を洗い流す。きれいさっぱりになった状態で露天風呂に入った。

 湯気が天井に昇り、視界が見えにくい。小さな妖怪たちは最初、びっくりして、脅えていたが、灯真が微笑み、害はない事を示すと、また、騒ぎ始めた。


 頭の上に冷たい水で洗い絞って畳んでおいたタオルと載せた。

 露天風呂と外の雪、それにこの太陽が沈む頃の夕日がちょうどいい。

 彼らはこれを楽しみにするためにここに集まっているのだろう。


 しかし、さっきの女の人の声だった。棘の刺さった声だったが、今は危害を加える気が無いらしい。


『貴様、ここで何をしている? 人の子よ。貴様は何をそんなに悲しい顔をしているのだ?』


 さっきの声だ。やはり、誰かがこの近くにいる。


「お前こそ、ここで何をしているんだ? 姿を見せろ! どこにいる⁉」


 立ち上がって、その声の主に問いかける。


『なら、私を見つけてみるがいい。いや、貴様はあやかしが視えるのだろ? だったらすぐに分かるはずだ』


「なんで俺が視えると分かるんだ?」


『さっきからあふれ出ているその霊力こそがその正体の証だ』


 笑いをこらえているようなしゃべり方だった。どうやら、灯真の秘密を知っているらしい。

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