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とある少女の物語シリーズ

向日葵のアナタ

作者:

『陽炎のキミ』https://ncode.syosetu.com/n3843eq/ の視点変更版です。

できれば『陽炎のキミ』からお読みください。

ボクには双子の兄がいた。

ボクとそっくりな顔。

ボクとそっくりな背格好。

ボクとそっくりな性格。

ただ一つ決定的に違ったのは。

ボクが女の子だったっていう事。


でもボクと兄さんにとってはそれは些細な違いだった。

世間一般からみればそれは大きな違いだよって言われそうだけどね。



「すじ雲、さば雲、うす雲、ひつじ雲。おぼろ雲にわた雲」



ボクの撮った街の写真、空の写真を見ながら兄さんは嬉しそうな顔で呟く。



「巻層雲に高積雲に高層雲。積雲に積乱雲」



ボクも兄さんに負けじと写真に写った雲を列挙していく。



「さすが、僕の妹だね。完璧」

「そりゃ、毎日ボクの撮った写真を見ては講釈たれられたら嫌でも覚えますとも」

「それもそうか」



そう言って微笑む兄さん。

それがボクの見た最後の。

大好きな兄さんの笑顔だった。



それからしばらくして。

ボクも兄さんと同じ病魔に侵されていることが分かった。

でも症状は初期段階で早いうちに手を打てば完治する可能性はあるとのことだった。

成功率は半々。

生と死をかけるにはあまりにも分が悪い賭けだと正直思う。


入院期間は夏休みが終わってすぐということになった。

入院中は真っ白な病院の天井とにらめっこ生活。


なのでボクはそれまでの間、兄の制服に袖を通し、学校の校舎の木に登って街を眺めることにした。



「もう、こんなことしても何の意味もないんだけどね」



ボクはそう独り言ちる。

この街を好きだった、この街の空が好きだった兄さんはもういないのに。

写真だって兄さんの為に取り貯めたものがたくさんある。

だからここに来る必要なんてないのに。

それでも。

日々、色合いを変えるこの街の姿を見るのはボクは好きだった。



「暑い~……」



不意にそんな項垂れた声がボクの背後、校舎の中から聞こえてきた。

この辺では見慣れない学校のセーラー服の女の子だった。

転校生……かな?

背はボクより高いから年上っぽい。



「今日はそれほどでもないよ、おねえさん」



ボクはその女の子にそう声をかけていた。

ボクの声を聞いてお姉さんはなんだかとっても焦っている感じだった。

そりゃそうだろう。

だって誰もいないと思って呟いた独り言に返事が返ってきたのだから。

お姉さんの慌てぶりがちょっと可笑しくて久方ぶりに笑顔というのが作れたような気がする。



「何やってるの、そんな所で」



ムっとした表情で彼女はボクにそう問いかけてくる。

たぶんボクがからかったと思ってカチンときているのかもしれない。



「んー……ちょっと木に登ってみたくなって。そしたら見慣れないセーラー服のお姉さんがやって来たから声をかけてみた」



嘘は言っていない。

全部、本当の事だ。

木に登りたくなったのはほんの一時の感傷。

入院までの残り少ない日々をこの木の上で過ごしたい。

兄さんとの思い出の残るこの木の上で。

声をかけたのはほんの気まぐれ。



「その木、登っても平気なの?」



胡散臭そうな目でそう問いかけられる。



「平気といえば平気だけど、先生に見つかったら怒られるかなー」



ボクの言葉に呆れたといった感じでお姉さんはため息をつく。

全然平気じゃないじゃないのそれと言いたげな雰囲気だ。



「私、今、先生に校内の案内してもらってる途中なんだー。先生はちょっと用事で職員室にもどってるんだけど」

「え、それホント?」



ボクはわざとらしく驚いてみせる。

お姉さんの言ってることはたぶん嘘だ。

だって明らかに目が泳いでるもの。

でもボクはお姉さんの嘘八百にのってあげることにした。

それは何故だろう。

何故かそうしたい気持ちだった。



「うん。だから、そろそろ先生こっちに来るかもね」

「うぇ……そりゃまずい。お姉さん、またね!」



そう言っていそいそとボクは乗っていた枝からするすると別の枝をつたりながら地面へと降りて行った。

『またね』……か。

どうしてそんな言葉がついて出たんだろうか。

また会える保証なんてないのに。

ボクには時間は残されていないのに。



そう言っていそいそとボクは乗っていた枝からするすると別の枝をつたりながら地面へと降りて行った。

意地悪だけどなんか可愛いお姉さんだったな。

また、会えるかな。

また会えたらもっとお話ししてみたいな。

ボクは再び彼女に出会えることを願いながら。

お姉さんが見えなくなった後、またこっそりと枝を伝って木の上に登るのだった。



街の灯りがぽつりぽつりと点灯し始めた頃。

沈んでいく夕日をぼんやりと眺める。



「ねぇ、そこって眺め良いのー?」



不意に木の下から声をかけられた。

さっきのお姉さんだ。

また会いたいなと思ってたけどこんなに早く会えるなんて。

運命の神様のお導きだろうか。



「うん。最高の眺めだよ」



ボクは精一杯の笑顔でそう答える。

お姉さんはボクの言葉を聞いて一時思案した後。



「ねぇねぇ。私もそっちに行ってみても良い?」



思いもよらぬ言葉が返って来た。



「え?お姉さん、木登りできるの?」

「む……馬鹿にしないでよね!!」



そう言って重たそうな鞄を木陰に降ろして、登るのに手ごろな枝を見極めてグイグイっと体を宙に浮かせる。

そしてほどなくしてボクのいる枝のすぐ近くまで登って見せた。



「おー……女の子なのにそんなに身のこなし良い子、初めて見たかも」



正直びっくりした。

ボク以外にこんなことができる女の子がいるなんて。

見た目に寄らず結構わんぱくなお姉さんなのかもしれない。



「そっちの枝に行きたいんだけど、ちょっとずってくれない?」

「ん。いいよ。この枝なら二人乗っても大丈夫だろうし」



そう言ってボクはお姉さんが登りやすい様に場所を譲る。

程なくしてお姉さんははボクの横にスルスルっと登ってきた。

そしてお姉さんは目の前に広がる夕焼け空に染まる街並みに目を見張っていた。

目の前に広がる光景は、真っ赤な真っ赤な茜色。

街の奥には海が広がっていて太陽の茜色の光が水面(みなも)に反射している。

街並も遠くに見える山々も街の奥で輝く水面(みなも)も茜色に支配された世界。



「わー……。綺麗な光景だね」

「でしょでしょ?」



そう言ってボクは嬉しそうな声で相槌をうつ。



「この場所、ボクの秘密の場所なんだ」



ポツリとボクはそう漏らす。

その言葉を聞いてお姉さんは何だかおかしなことを聞いたという感じでクスリと笑う。



「む……その顔、馬鹿にしてるでしょ、お姉さん」

「いや、だって。ここ校舎のすぐ横じゃない」

「皆が来ない場所だから、秘密の場所っていうんだよ、お姉さん」



そう言ってボクは夕焼けに染まった顔を笑顔に染める。

お姉さんはそんなボクの顔を見て。

なんだか頬を朱色に染めている。

ん……あれ?どうしたんだろう。

それからお姉さんは黙りこくってボクと一緒に夕焼け空に染まる街並みをしばらく眺めていた。


そして宵の帳が街を包む頃。



「そろそろ、ボク家に帰るね」

「あ、もうこんな時間なんだ。私も帰らなきゃ」



そう言葉を交わし、ボク達は二人で木の枝から降りていく。

あ……お姉さんそう言えばスカートだ。

これ下に人が居たらおパンツ丸見えだよ。

まぁ本人は気にしてなさそうだからいっか。



「ボクは夏休み中は大抵ここにいるから。またね、お姉さん」



そう言ってボクは学校の裏門の方へと駆けだした。

どうして駆けだしてしまったのかよく分からない。

返事が聞きたくなかったのかもしれない。

でも、こうすれば。

お姉さんはまた来てくれるんじゃないかとおもったから。

……最低だなぁ、ボク。



―――


翌日。

ボクは相変わらず兄の制服に袖を通し学校にやってきていた。

そして、誰にも見つからないように校舎の脇の木の上にスルスルっと登る。

木陰から登校してくる生徒を眺めていると。

一人だけ他の子と違った制服の少女が登校してくるのが見えた。

昨日のお姉さんだ。


でもなんかどことなく緊張した面持ちだ。

今日も登校してくるってことはきっと進学クラスの夏期講習に出るんだろうな。

うちの学校の進学クラスってっ結構レベル高いからなぁ。

へこまなきゃいいけど。

また帰りに様子見にこようかな。

がんばれ、お姉さん。

そう思いながらお姉さんの後姿を見届けた。


日がな一日ぼーっと木の上から街並を見て過ごす。

それがボクの夏休みに入ってからの日課だった。

昼食はポケットに無造作に突っ込んだおにぎり一つに、ゼリー飲料だけ。

今のボクにはそれだけで十分だった。

むしろ十分すぎるほどだ。


両親はそんな私の食生活を見かねてがーがー五月蠅いのだけど。

でも、これ以上は喉を通らないのだから仕方ないのだ。


そして下校時間になって。

ボクは昨日のお姉さんが出てこないか木陰から木の下に目を凝らす。

けれど。

一向に出てくる気配がない。

待てども待てども出てこない。

どうしたんだろう?


辺りが茜色の日差しに包まれる頃。

ふと廊下の方をみやると「はー……」と大きなため息をつくお姉さんの姿を見つけた。



「そんな不景気な顔してると、幸せが逃げて行っちゃうよ」



ボクは苦笑しながらそうお姉さんに声をかける。

お姉さんはハッとした顔でこちらを見て顔を夕日の様に真っ赤に染めている。



「そういうあなたはいったい何してるの?」

「ボクはいつもの通り茜色に染まった街並みを眺めに」



それがボクの日課だから。

それがボクの残されたたった一つの存在理由だから。

そう心に思いながらお姉さんに笑いかける。


お姉さんはまたボクのことを変な奴だなぁというような訝し気な顔をしながらも。



「ちょっとそこで待っててよ。私もそこに行くからさ」



お姉さんはボクにそう告げて返事も聞かずにリノリウムの廊下を駆けだしていった。

さっきまで、あんな落ち込んでたのに。

変なお姉さん。

程なくしてお姉さんは僕の元へとやってきて。



「今日の街並みはどんな感じ?」



こうたずねてくる。



「そうだね。実際見た方が手っ取り早いよ」



そう言ってボクはお姉さんに手招きする。

お姉さんは持っていた鞄を昨日と同様木陰に隠してひょいひょいっと登って来た。

なんていうか、手際が良いなと感心してしまう。



「今日の街並みはどうかな」



ボクの隣にやって来たお姉さんにそう問いかけると。



「昨日と変わんない」



むーっと目を凝らしながら街並みを見つめるお姉さんはぶっきら棒に答えてくる。

確かに茜色に染まる街並、遠く地平線へと沈んでいく夕日。

昨日となんら変わらない光景だ。

けれど。



「お姉さんはまだまだだね。この風景の違いが分からないなんてここの良さがわかってないよ」

「なんですって?」



ボクの言葉にカチンときたのかお姉さんはボクに詰め寄ってくる。



「じゃあ昨日とどの辺が違うのか言ってみなさいよ」

「そうだね。まず昨日は無かったひつじ雲が茜色に反射してとってもきれいだと思うよ。因みに昨日の雲はうろこ雲」

「……」



お姉さんはそんなの分かるわけないでしょ!っていうような顔をしながら。



「私は雲博士じゃないからそんなこと言われても分かんないわよ」

「うーん。そっか。それは残念」



まぁそれはそうだよね。

ボクも初めの頃は全然分かんなかったし。

どれもこれも兄さんがボクに教えてくれた知識だ。



「曇って色々種類があって面白いのになー」



そう言いながら兄さんとのやり取りを思い出す。


『すじ雲、さば雲、うす雲、ひつじ雲。おぼろ雲にわた雲』

『巻層雲に高積雲に高層雲。積雲に積乱雲』



「雲以外に昨日との違いはないの?」

「そうだね。昨日は雲に隠れて見えなかったけど今日は月が綺麗だよ」



そう言ってボクは空高く浮かぶ白い月を指さす。

ボクのその言葉にお姉さんはぼんやりと白い月を眺め、やがてほんのりと頬が赤くなってくる。

あれ……ボク、何か変なこと言ったかな。

ただ月が綺麗って言っただけなのに。

んー……まぁいっか。



「あとあと、今日の夕日は地平線の雲がかかってすごく綺麗だね」

「……色々よく見てるのね」



んー……まぁ日がな一日ここでずっと街並み見てるだけですからね。

ちょっとした細かいことも気付くってもんですよ。

それからボク達は、夕日が地平線へと沈んでいくのを眺め続けていた。



「さてさて。今日も綺麗な夕日が見れたことだし、ボクはもう帰るよ」

「ん……私も帰らなきゃ」



ボクとお姉さんは薄暗い中、登っていた木から降り立つと同時に。



「お姉さん、少しは気分も晴れたでしょ」



そう言ってお姉さんに笑いかける。

お姉さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしばらく黙っていた。

薄暗くてよく分からないけど、お姉さんはうーっと唸りながら。



「……ありがとね。少しは気分転換になったかも」



ぶっきら棒にそう答えてくれた。

うん。

お姉さんは元気がないより、ツンツンしてる方が似合ってるよ。

そう声には出さずに。



「うん。それは良かった。それじゃ、またね。お姉さん」

「うん……今日はありがとう」



そう言ってボクは裏門の方へ駆け出して行った。

のだけど、ちょっと思い出したことが有ってお姉さんの元へ駆け戻る。



「そうそう。言い忘れてたんだけどー」

「ん?」

「お姉さん、その恰好だと下からパンツ丸見えだよ」



耳元でそうこっそりと囁いた。



「も、もしかして……見た?」

「うん……。ちょこっと……」



まぁボクは女の子だから別に減るもんじゃないと思うけど。



「忘れなさいっ!!今すぐにいいいいいいいいいいいいいいい!!!」



真っ赤な顔をして大きな声で叫ぶお姉さん。



「あははは。明日からはジャージ持ってきなよ、お姉さん♪」



そう言ってボクは裏門の方へと走って行く。

お姉さん、完全にボクの事、男の子と勘違いしてるなぁ……。

勘違いされても仕方のない恰好してるんだもの。

でも。

……このままの関係がきっといい。

ボクにとっても。

お姉さんにとっても。


―――


そんなこんなで夏休みは刻一刻と過ぎていった。

朝一番に登校してはいつもの木の枝に登り、木陰からお姉さんの後姿を見送る。

そして空が茜色に染まる頃、お姉さんはがボクいる木の前に立ち、校舎の窓からボクに声をかけてくる。

それがボクの日課になっていた。


それからお姉さんはリノリウムの廊下を駆けて校舎の横の木に辿り着くとジャージを身に着け、

スルスルとボクの居る枝の元へ。

お姉さんが隣にやってくるとボクは毎日毎日この街の事、雲のこと、空の事、

茜色に染まった光景について色々な話をした。

お姉さんはボクの隣でボクのことを本当に楽しそうな表情を見つめながら聞いていた。

それはまるで兄さんと過ごした日々が帰って来たかのような一時だった。


そうこの一時は。

ボクの大好きだった兄さんとの日々が。

再び花開いたような。

大きな大きな向日葵が咲いたような。

大事な日々を取り戻していくような。

そう感じさせてくれる一時だった。


―――



夏期講習も最後の日。

明日からは二学期が始まる。

それはつまりボクの入院生活の始まりを意味する。


今朝はセーラー服姿のお姉さんを見かけなかったから、お別れも言えないのかなと思っていたら。

空が茜色に染まる頃、ブレザー姿のお姉さんに声をかけられた。



「今日も夕焼け空は綺麗かな?」

「うん。今日もとっても綺麗だよ。早くこっちに来なよ」



そう言ってボクはお姉さんを手招きする。

お姉さんはボクのいる木に駆けていて、ジャージを履いてスルスルとボクの元へ。



「そのブレザー似合ってるね、お姉さん」

「……そ、そうかな」



ボクの言葉を聞いてから、そっぽを向いてお姉さんは茜色に染まった街並みを見つめる。



「今日の雲はひつじ雲?」

「うん。お姉さん、だいぶ分かるようになってきたね」

「そりゃ毎日毎日、あなたのうんちくを聞かされ続けましたからね」



夕焼け空に染まった精一杯の笑顔をお姉さんはボクに向けてくる。

その笑顔に一瞬どきりとしてしまったのはどうしてだろう。



「うんうん。それじゃ、もうボクの講義は必要ないかな」

「ん……?それってどういう?」

「ううん。なんでもないから。気にしないで」



うん。

なんでもない。

もう、ボクの講義は今日で終わりなんだから。

兄さんがあの日ボクに向けてくれたように、ボクはお姉さんに精一杯の笑顔を返す。



「今日はいつにも無く綺麗な夕焼け空だね」

「うん……」

「明日から二学期だね」

「うん……」



けれど。

やっぱりいつものようにはいかなくて。

これが最後になるのかもしれないと思うと。

言葉が出てこなくて。

兄さんはボクにあんなにも笑顔を向けてくれたのに。

ボクはお姉さんに最後の最後で笑顔でいられなかった。

笑顔でいることが出来なかった。


そうして私達は二人並んで夏休み最後の夕焼け空を黙ったまま見送って。

夕闇の中、木からスルスルと二人で地面に降り立つ。



「それじゃ、また明日ねっ」



お姉さんはまるで不安をかき消すように元気よくボクにそう声をかける。



「うん。それじゃ、またね、お姉さん」



お姉さんの言葉にボクは精一杯微笑んでんで返す。

けれどそれはやっぱりどこかぎこちなくて。

だからボクはいつにもまして駆け足で裏門へと走り去った。

そう。

まるで、お姉さんから逃げ出すかのように。



―――


二学期が始まって、一週間が経った。


今日はボクの手術の日だ。

手術の成功率は半々。

ホント生と死をかけるにはあまりにも分が悪い賭けだなぁ。

そんなわけで、ボクは遺書を残すことにした。


それはあの日別れた名前も知らないお姉さんへの手紙。

お姉さんと過ごした日々が楽しかったこと。

お姉さんと過ごせて本当に最後の夏休みが充実していたこと。

色々な思いを書き綴った。


ボクが死んだらお姉さんに届けてもらうように両親に頼んでおいた。

でも。

ボクが死んだって知ったらお姉さんはどんな顔をするんだろう。

悲しむよね、やっぱり。

でも……突然いなくなってそれっきりっていうのもやっぱり違うと思うし。

だから、これは遺書じゃなくて、お姉さんへの感謝の手紙。

ボクと最後の時を過ごしてくれてありがとうという最後の手紙。


―――


二人で登った木の枝が新緑から黄色に変わっていく頃。

ボクはリノリウムの廊下を駆けていた。

そして、いつもお姉さんが立っていた廊下の窓の前へとそっと近づく。

そこには、沈んだ顔のお姉さんが立っていて。



「もう、会えないのかな……」

「お久しぶり、お姉さん♪」



お姉さんの、背後からそう声をかける。

お姉さんはボクの声にハッとした顔をしてボクの方を振り向く。

そして。

まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして口をパクパクさせていた。



「え……?」

「あはは、お姉さん、何その顔」



そりゃそうだろうね。

だってボク、今女の子の格好してるんだもの。

お姉さんはボクの事、男の子だっておもってただろうし。



「ど、どういうこと?な、なんで女の子のブレザー着てるの?」

「え、だって、ボク女の子だもん」

「え……?」

「だから、ボクは女の子なんだって。男の子だと思ってた?」



そう言ってクスクスとボクは満面の笑みで微笑む。

お姉さんの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。

それはいったいどんな感情なんだろう。

めっちゃ怒ってるのかな?

それとも……。



「でもなんで、今頃……」

「ちょっと長期入院しないといけなくてね。今日から晴れて復学っていう訳♪」

「そ、そうだったんだ……」

「お姉さんがボクのこと探し回ってるって、学校中の噂になっててすごくすごくびっくりした」



手術が終わって数週間がたった頃。

担任の先生がやってきて、お前の事探してる生徒がいるぞって伝えてくれた。

だからボクはいてもたってもいられなくなって。

病院の先生にお願いして退院の時期をはやめてもらったんだ。



「それは……だって……」



お姉さんは真っ赤な顔でもじもじと言葉を紡ぐ。



「ごめんね、お姉さん」



そう言ってボクはお姉さんをそっと抱きしめた。

お姉さんはもしかしたらボクに恋をしていたのかもしれない。

ボクはそれを知ってて……。

本当にごめんなさい。


でもボクはそんなお姉さんに救われてたんだ。

お姉さんがいたから、ボクは帰ってくることができた。

心からそう思う。

向日葵の様に微笑んでくれるあなたがいたから。

ボクは今、ここにいる。


だから、ありがとう、お姉さん。

そして、これからもよろしくね。

という訳で、ボクっ娘視点で書いたらこんな感じになりました。

楽しんでいただければ幸いです。

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