森の中で:C
樹海の中に小鳥達のさえずり。
木々の重なり合う音。
作戦の決行日は静かな朝を迎えた。
「そうだ。海斗、ヘンリー、これ持っとけ」
空の手から渡されたのは小型の無線だった。
「なんでこんな物を?」
「万が一にだ、特に海斗になにかあったときにすぐに連絡が取れるようにな」
「何も無いのが一番だろ?」
そう言い、空の背中を強く叩き笑顔で振り向いた。
「なんだよ、気持ち悪いな」
「気持ち悪いとは何だよ。俺だって嬉しいときは普通に笑うんだよ」
ヘンリーが「普通にか」と鼻で笑うと海斗は喧嘩腰でヘンリーに今にも飛びかかりそうな作戦開始前には不似合いないつもの日常。
そんな日常に三人は愛おしささえ感じていた。
「さあ、準備はいいか?」
「「ああ!」」
「よし、行こうか!」
作戦の第一段階としてはまず最初に老婆の気を引くことだった。
「なあ、婦人。泊めてくれたお礼になにか手伝いをさせてはくれないか?」
「いいのかい?じゃあ、もう薪が無いから薪割りを頼んでいいかい?」
「もちろんですよ。なあ?お二人さん」
「もちろんだ」
「いいぜ」
「それでは、私たちは薪割りをしてるので婦人はどうか休んでいてください」
事は思いのほか思い通りに進んだ。
三人が何を頼むのか何をさせてほしいと言うのかそのすべてを見通していたかのように、老婆との会話がトントン拍子で進んだ。
三人が古びた扉を開けて庭に出ると其処には中途半端にきられた薪と、ちょうど三本ある斧が奇麗に机の上に並べられていた。
以前も誰かが来たのか、老婆の足のサイズとは遥かに違う足跡。
そして何かしらの赤いシミが壁に付いていた。
「なあ、なんでこんなに準備万端なんだ?」
「さあ、だが作業しやすい事にこした事はない」
「そうだけど、やっぱり空の見込み通りこの家とばあさんにはなにかあるのかもな」
「そんな事より、薪割りまで来れたんだ、ここからが本番だ気引き締めろ」
「解ってるって」
「ならいいんだが。それじゃあ俺とヘンリーはあの扉の先に行ってくる。海斗見張り頼んだぞ?」
「任せておけ」
空とヘンリーは扉へと向かった。
家の中に入ると老婆の姿は無かった、心配になり寝室をのぞくと其処に老婆は居た。
二人は安心し例の扉へと向かう。
「さあ、開けるぞ」
空が扉を開けると其処には長い階段と暗い廊下。
二人は階段を下って行く。
「しかしそれにしても暗いな、それに心無しか寒くなって来たな」
「確かに寒いな、暗い事にはこれがある」
そう言いヘンリーはズボンのポケットからライトを出す。
「でかしたヘンリー」
ライトにより明るくなった廊下を歩く気持ちは軽くなった。
そうこうしている間に一つの扉にたどり着いた。
「開けるぞ」
「頼んだ」
ドアを開けるとその先の光景に二人は絶句した。
それは、人間だった。
正確には人間だったもの。
首や手足は切り落とされ、真空パックのような物が部屋一面に吊り下げられていた。
部屋には、大型のミンチ機や、血だらけの肉切り包丁。
そのおぞましい光景それは二人の脳裏に焼き付いた。
「なあ、ヘンリー、カメラなんて持ってたりしないか?」
「あるがなんでだ?」
「海斗に説明するには写真が一番手っ取り早いんでな」
その話を聞いたヘンリーは鞄からインスタントカメラを取り出し空に渡す。空はこの部屋を写真で撮ると海斗から無線がかかってくる。
撮った写真をポケットにしまいつつ無線に応答する。
「どうした?海斗」
「おい!今直ぐ隠れろ!ばあさんがそっちに向かってる!」




