森の中で:B
森の深層にある古びた民家。
暖かく家に迎え入れてくれた老婆に一同は深く感謝していた。
「まさか、家に入れてくれるだけじゃなく飯も出してくれて風呂も貸してくれるなんてな」
囲炉裏を囲むように三人は座り、話をしている。ただその中、空だけは一人頭を抱え悩んでいた。
「どうした空、何悩んでるんだ?」
「いやな、ヘンリー、なんかおかしいとは思わないか?」
「特に何とも思わないが」
「空、一体何の話だ?」
「海斗、ヘンリー。いいかよく考えてみろ、いくら夜の樹海を走ってたからって見ず知らずの俺らを助ける義理はあると思うか?」
三人は今一度この家の家主の老婆にしてもらったことの整理を付け始めた。
「それにだ、あのおばあさんは飯を出してくれたな」
「ああそうだな」
「その時点で疑問を持った。そうだな、海斗、メニューは覚えてるか?」
「バカにすんなよ、生姜焼きと白米とみそ汁と、あと酢の物だな」
「その生姜焼きなにか思わなかったか?」
特に何も思わなかったと返事を返す二人。
「あの肉何の肉だったんだ?」
「そりゃあ、豚肉だろ」
一つため息をつくと再び話し始める。
「人間の心理って怖いな。自分がそう思ってる物が正しいと思っちまう。これは豚肉で出来てるそう思えば自ずと味も豚肉に感じるもんなんだな」
「頼むから簡単に言ってくれ」
「簡単に言うとだ、見た目や味だけで思い込んで判断するなってことだ。俺は少し気になってなるべく味を取った状態で食ってみたんだ。味付けを濃くして解らなくしてるがアレは豚でも、牛でも、鳥でもない。独特の臭みに筋張った肉明らかただに肉じゃない」
長々と考えていたことを打ち明ける空。続いてヘンリーも思っていたことを話したいと言い出した。
「俺が思ったのはあのご婦人が食事を持って来てくれた扉だ。この家には似合わないあんな新しい扉怪しすぎるんだ。あのご婦人は『決して入ってはいけない』そう言っていたあそこには何かが隠されているんだ」
ヘンリーの言う通り老婆が食事を持って来たその扉、この家の古さや汚らしさとは相反する作りをしていた。
奇麗に磨かれた硝子、金色に輝くドアノブ。
確かにこの家にはなにかあると確信する三人であった。
「海斗お前はなにか不振に思ったことは無いのか?」
「ああ、それなら、あのばあさん手や首元を見ても皺一つないんだ。アレは明らかに年齢と合っていない」
鋭いところを着く海斗に一同は声を失っていた。
しばらくの沈黙の後空があの扉を見にいきたいと言い出した。
「だめか?」
「ダメと言うよりかは無理なんじゃないのか?今あそこにご婦人が入っていったばかりだぞ?」
「もちろん、今じゃない、決行は明日だ」
「だがどうやって行く、なにか作戦でもあるのか?」
「もちろんだ。作戦はこうだ、俺たちは『一晩泊めてくれたお礼になにか手伝わせてくれ』とかなんとか言って老婆の気を反らすんだ。まあだいたい薪割りでもすればいいだろう。老婆が居なくなったことを確認したら俺とヘンリーで扉の中へ、海斗は老婆の動きを確認しててくれ。そうだ、なにかあったときのために武器だけは手の届くところに置いておけよ」
一同は空の考えた作戦を受け入れ、自分の手持ちの武器を確認する。
空が再び決行は明日だと伝えると二人は了解といい寝床に着いた。
それからしばらくし、夜が明けた。




