事の始まりと男の記憶:B
投獄された監獄には、クローンに立ち向かうがために組織されたゲリラ軍も居た。
その中に、ひときわ輝く少女が居た。
その少女はゲリラ軍の隊長であった。
その姿はまさに戦場に舞い降りた妖精のようだった。
毛先に青の入った黒髪、軍服の内側には防弾ベスト、ポケットにはアサルトライフルのマガジン、小型のピストル、そして多くの手榴弾。
軍服自体はダボッとしており、ズボンは引きずったのか、踵がボロボロになっている。
少女は男にも優しかった。
日々課せられる重労働の後自分の分を削り、できる限りの食べ物を分けていた。
「腹がすいては、出来ることも出来ない。これ食って体力温存しておけ」
「な、なんだこれは?」
「お前、レーションも知らないのか?」
「名前だけは」
「これだから最近の若者は」
「若いのは貴方じゃないですか。俺はこう見えて貴方よりも一回り年上ですよ」
「そんなことよりお前名前なんてんだ?私は美咲だ。宜しくな」
「宜しく美咲。俺はヘンドリクセン。ヘンリーと呼んでくれ」
「ヘンリーか、宜しくな!」
少女は、男らしい口調で話した。
男にはそれすらも嬉しく、涙で溢れた。
「おいおいおいおい、なんで泣いてるんだ?」
「何でもない。ただ自分が悔しくて、虚しくて」
美咲はヘンリーの近くで、ただ座って話を聞いた。
時々自分のことも話した。
弟がいることや、その弟に名前が無いこと、母が病に倒れたことなど全てを彼女は打ち明けた。
ヘンリーも今までの経緯を話した。
自分の友人を助けられなかったことや、クローンがした虐殺のすべてを。
二人は年の差や性別の差があろうとも、そこでは同じ年のようにどんなことも語り合った。
日が経つにつれ、ひどい飢餓感や、めまいなどの症状は無くなってきた。
男はまだ少しもうろうとする意識の中にさえ希望を抱いていた。
そんなある日、同じ牢獄に入っていた1人の少年が倒れた。
「おい!大丈夫か?しっかりしろ!」
「どうかしたのか?」
「どうもこうもない。この子がぶっ倒れたんだ」
「どれ、見せてみろ」
「あんた何者だ?」
同じ牢獄に入っていた男は、手際の良いヘンリーに疑問を持つ。
「ヘンドリクセンだ、ヘンリーでいい。元々生物学の研究者の助手をしていてね」
少年の体の至る所を探り、以上を探す。
「こいつはどうなるんだ?」
「ただの疲労だ、数日寝れば治る」
「そうか、良かった」
「どうしてこの少年に対してそこまで情熱的になれる?」
ヘンリーは、問いた。
「こいつ、俺と仲良くしてくれた唯一の子供なんだ。みんな俺の顔を見るたび逃げていくんだが、こいつだけは違った。こいつだけは俺のとこに来て兄ちゃん兄ちゃんって楽しそうに笑うんだ」
「君はこいつのことが好きか?」
「ああ、好きだ」
「なら良かった」
優しい笑みを向けるヘンリー、背後から1人の少女が近寄ってくる。
「おーい、次郎いるかー?」
「姉さん!」
「どうした次郎。そんな泣いた顔して」
「この男に助けられたんだ」
「俺は何もしてないよ」
自分は何も出来てない。
何も出来なかった。
そう心の奥底にしまい込み、泣きそうな笑顔を次郎に向ける。
「ってなんだよヘンリーかよ!」
「姉さん知り合いなんですかい?」
「まあな」
ほっとし、腰を抜かす次郎。
それを見て笑う美咲とヘンリー。
この時はまだ平和だった。
「自己紹介を忘れてたな。俺は次郎。姉さんの右腕をやらせてもらってる」
「俺はヘンリー。まあ、それだけかな」
「なんだよそれ」と再び3人は笑い夜が開けた。




