小さな集落:E
戦闘が終わるやいなや建物の下のハッチから続々と人が出てくる。
人々は毎度毎度やっているのか手慣れた手つきで消火活動を始める。
「随分と手慣れてるんだな」
「そりゃあ毎度のことだからだよ」
『あなたはあの時の肉屋の主人。無事だったんですね』
「あたぼうよ!それよりもすまなかったね巻き込んで」
「いえいえ、私たちにも非はあった訳ですから」
店主は「そうなのかい」と言い、鎮火活動へと戻った。
鎮火活動の中集まり話す人々の声が空の耳に入る。
「今回も大変だったな」
「そうね、大変だった。でもポプラさんの連れてきてくれた人たちがいなかったら私たち今頃どうなっていたことかね」
「そういえば私たちポプラさんのこと何にも知らないよな」
「そうね、本名も知らないし、どこからきたのかもね」
「そう言えば、どうして名前がポプラさんなの?」
「ああ、それね、あの人昔ここの裏のポプラ並木の付近で遊んでたのよ。それでポプラって名前がついたの」
空はそんな安直な名前なのかと心の中でツッコミを入れると同時にポプラの存在を疑い始めた。
本当はこの人物は誰なのか、なぜ自分たちに近づいたのか。
様々な考察を立てる中当のポプラが、近寄る。
「なにやってんのよ」
「なあ、今聞いたんだがポプラって名前本名じゃないんだってな」
「あら聞いちゃった?そうね私のこの名前は町の人が勝手に呼んでるだけで私の名前は他にあるわ」
そんな話をしていると後ろから海斗とリーチャオがやって来る。
何か面白い話だと思ったのか妙に海斗だけは笑顔だった。
「なんだ?なんの話だ?」
「私の素性の話よ」
「それは私も気になるわね」
「あまり言いたくないのよ本当は。今回だけよ?私の名前は…」
ポプラが自分の本名を言おうとすると目の前からヘンリーがやって来る。
「…無駄話してないで消火活動に参加しろ。それに陸もだ話してないで手伝えこの街の人々の知り合いなんだろ?」
「ヘンリー、ポプラと知り合いなのか?」
「…そうだ。こいつは俺が博士の助手をしていた時にたまに遊んでいた記憶がある…」
「そうだったのか」
「…俺自身も記憶媒体が本物かわからない故本当かどうかはわからないがこいつの名前は陸だ…」
さらっと本名を明かしたヘンリーの方へ全員の視線がいく。
ヘンリーは何かまずいことでもしたのかと思いその場から背を向け再び消火活動に戻っていった。
「ま、そういうことなのよ。男っぽい名前嫌なのよね」
「いいじゃん陸」
「そうだな陸」
「みんな嫌だってことしたらダメでしょ?ほら陸ちゃん泣きそうだよ?」
『これで涙を拭いてください』
恥ずかしさのあまり泣き出してしまった彼女に向け唯一優しいモズを陸が抱きしめる。
「やっぱり、我が子は良いよ」
『涙が沁みます話してください。あ、だんだん故障が、ああああ』
陸の涙が沁みたモズの体からは、黒い煙が出始めしばらくしないうちにその体はショートしてしまった。
電源が落ちるのと同時に街の鎮火技終わった。
街に回っていた火が消えモズの体も新調される頃には夜が明けていた。
「さて、街の様子も落ち着いたところで、聞かせてもらおうか。本物のヘンリー」
「…その言い方は少々消化し難い。なぜなら俺本物であり唯一だからだ…」
「そんなことよりもだ、どうしてお前は街を襲ったんだ?」
空の質問に淡々と答えるヘンリー。
「…それは、隣にいたあの少女の中に盗聴器が入っていたからだ…」
「盗聴器?」
「…ああ、もう残骸すらないだろうが確かに埋め込まれている…」
ヘンリーの視線の先には鉄くずとタンパク質の焦げたものでできた何かがあった。
見るにも悍ましいそれはかろうじて人間の形をしていた名残があった。
空がその死体を漁ると中から焦げ故障した盗聴器が出てきた。
「あんたよく触れるわね」
「こんなのどうってことないさ、それよりもこれだろ?盗聴器って」
「…間違いない…」
「この子にも付いていたってことはあんたにも付いてるんじゃないのか?」
「…大丈夫だ、なぜなら俺は俺自身でそれを取ったからな…」
ヘンリーが自分の服をあげるとそこには痛々しく焼き付けられた傷跡があった。
それはまさに人間の手が入ったような跡だった。
それを見たリーチャオがその場で嘔吐した。
「私そういうのダメなのよ」
「死体は大丈夫なのにか?」
「うっさいわね、死んでるのよりも生きてるのを見る方が私は嫌なのよ」
リーチャオに頭を殴られた海斗がその場で悶絶する。
それに追い打ちをかけるようにモズが後ろ足で蹴った。
けられた海斗は物の見事に飛んで行った。
「あなたそれで下手に人をけらない方がいいわね」
『どうしてですか?』
「そういえば説明してなかったわね。新しいあなたのその体は岩山をかけ登れるほどの脚力が付いているのよ、そんなので蹴られたらそれはこうなるわよ」
陸が指をさした方向にはボロボロになった海斗が横たわっている姿があった。
少しの疑問が残るものの一行は再び旅へ行くための支度を始めていた。
以前とは違う人物ではあるがヘンリーが帰ってきたことにより車が窮屈になるのではないかと予想した海斗が車の方へ歩き出すとそこには半壊した車があった。
「おいおい嘘だろ。なあ空これ見ろよ」
海斗は空を呼び寄せ車の状況を見せる。
「治りそうか?」
「無理だな」
二人が困っていると後ろから声が聞こえて来る。
「お困りのようね」
そこには腕を組み仁王立ちをする陸の姿があった。
「どうしたんだ陸?」
「二人とも私のことはポプラと呼びなさい。それに語り手の人もね」
「語り手?なんのことだ?」
「こっちの話よ。それよりも車がなくて困ってるそうね」
「そうなんだ」
「それなら良いものがあるわ、こっちへいらっしゃい」
二人がポプラに連れられ付いて行った先は、大きなガレージだった。
中には大きな布で被せられた何かがあった。
「車に困ってるならこれに乗って行きなさい」
ポプラがその布を取るとそこには大型の車があった。
「おいおいどうしたんだよこれ」
「作ったのよ」
「本当に乗って行って良いのか?」
「勿論よ、でも一つだけ条件があるわ」
「なんでも言ってくれ」
「私もその旅一緒に行かせてもらいたいのだけど」
空は海斗と目を合わせ一つため息をつく。
「元々そのつもりだったんだが、まさかそっちから言ってくるとは」
ポプラは、空の言葉にキョトンとしてしまいその場で固まってしまった。
空が目線の前で手を振ると、自分に戻った。
「そ、それなら早く言って欲しかったわね」
ポプラが、空を殴ろうとしてもその拳は弱くポカポカと音がなるほどであった。
「すまんすまん」
「おい空もう戻ろうぜ」
「そうだな」
空は新しい車のエンジンをかけ、三人のところへ戻る。
外はすっかり夜になっていた。
新しい車で三人のところへ戻ると、その車を見たリーチャオの目が点になっていた。
「どうしたのよそれ」
「ポプラがくれた」
リーチャオは、軽く答える空に再び目が点になってしまった。
「それで報告があります。なんと、今回ポプラが旅の仲間に加わりました」
唐突にいろいろなことが起きすぎてリーチャオは、今の状況を理解しきれず、ぽかんと口を開けてしまった。
「まあまあ、明日も早いんだから寝るぞ」
「う、うん」
全員が寝る中、ヘンリーだけは起きていた。
その姿を見た空が近寄る。
「寝られないのか?」
「…ああ、なぜなら俺がここにいて良いのかが心配だからだ…」
「なんだそんなことか、それなら大丈夫だ。少なからず俺だけはお前を信用している。多分他の奴らも信用しているとは思う。だから安心しろ」
ドンと胸を叩く空を見てヘンリーは初めて笑みを浮かべた。
「初めて笑ったな」
「…そうだったか?」
たわいもない会話をしている二人の頭上には満点の星空が広がっていた。
次の日仲間が増え、そこそこ大人数になりかけている一行は次の目的地へと向かった。




