小さな集落:A
街を抜け、一行は湖畔にある小さな集落へ訪れていた。
集落には、大人はそう多くなく殆どが成人する前の子供ばかりであった。
集落に着くなり白衣を着た一人の少女が駆けてくる。
「なんだ?あの子」
「こっちにくるようだな」
『敵ですか?迎え撃つ準備をします』
「落ち着いて、きっと違うから」
少女は息切れをしつつも空たちの前に立ち止まった。
「どうしたんだお嬢ちゃん?」
「失礼ね、こう見えても私あなた達より年上なんだけど。それどころじゃないわ、今すぐ来てちょうだい」
少女は空の腕を強引に引っ張り、集落の中へと急いだ。
残された海斗達はその後を追った。
少女に連れられ一行がやって来たのは、一軒の小さな家だった。
その家は小さいものの外観は綺麗で、整った様子だった。
「ここに連れて来てどうだってんだよ、それに名前も聞いてないし」
「申し遅れたわね、私はポプラ。年齢はだいたい30歳くらいかな」
年齢を聞いた途端海斗が驚き飲んでいた水を吹き出す。
「汚いぞ海斗」
「いや、だってよ」
「人の年齢聞いて驚くなんて失礼な人ね。ってそうもしてられないのよ、貴方達料理はできるかしら?」
「え?料理?できるけど」
ポプラは目を煌びやかにさせ家の中に入る。
家の外見はいたってふつうだった。
しかし、家の中はそうではなかった。
あちこちに散らかっている空き缶、椅子の周りには服が散乱し、台所はその用途をなさないような状態だった。
無論一行はその光景を目撃し、絶句した。
「おいおい、なんだよこれ」
「ひどいわね」
『これが普通なんでしょうか』
「そんな訳ないだろ」
空のツッコミを他所に、ポプラは足場のない家の中を軽快に飛び越え、リビングへと行く。
「本当になんなんだあいつ」
「知らないわよ」
『随分と偉そうですが』
一行がポプラの正体を疑っているそんな中、ポプラは横柄な態度で椅子に座り込んだ。
「まあ、こういうことなのよ、私はこう見えてあんた達の知りたい情報を知ってるの」
「それで、教えて欲しかったらこの部屋をどうにかして飯を作れと」
「物分かりがいいわね。3日も何も食べてないから厳しいのよ」
「ふざけんじゃねーよ、俺は嫌だね」
海斗はそんなポプラの態度に呆れその家を出ようとする。
「あら、そんなこと言っていいのかしら?」
「どういうことだ?」
ポプラは不敵な笑みを浮かべる。
「そうねぇ、貴方こないだまでそこの空って子と喧嘩してたわね。それにその腕、その腕もここなら治るかもしれないわね」
ポプラの言うことは的を得ており、海斗はその場で硬直した。
「な、なんでそんなことわかるんだよ」
「あら、言ってなかったかしら。私こう見えても科学者なの。今までの貴方達の行動全て見させてもらってたの」
「なんでその科学者のガキンチョが、俺たちのことつけるんだよ」
「なんなの貴方やっぱり失礼ね、私の発明のおかげで助かってるってのに」
「どう言うことだ?」
「貴方達のいた街にクローンを判別するゲートがあったでしょ」
「それがなんだよ」
「それ作ったの私よ」
見た目年齢10歳ほどの少女の姿をしたポプラはあろうことか、この国を守るゲートを作ったなどと言い、一行を驚かせた。
海斗は出て行くことをやめ、その場にとどまることにした。
「どう?三人とも乗る気になったかしら?」
「私はいいけど」
「俺も構わん」
二人は海斗の方をじっと見る。
「あーもうわかったよ、やりゃあいいんだろ?やりゃあ」
「そこの人工知能君はどうするのかしら」
『なるほど、僕の正体も見抜いてた訳ですか。できることはそこまでないですが力になりましょう』
「聞き分けのいい子は好きよ」
ポプラは小悪魔のような笑みを三人に向け、再び三人と一匹に命じる。
「さあ、まずはこの家を片付けてちょうだい」
ポプラの横柄な態度に海斗はやはり手が出そうになった。
三人が手際よく家の中を掃除している中、モズはポプラの頼みで街の方まで買い出しに行っていた。
『全く人使いが荒いんですから、こうなれば新しいボディの政策も考えに入れるしかないですね』
ポプラから渡されたメモには、さまざまな食材や雑貨の名前が書かれていた。
『いちいち頼むのも面倒ですね、こうなれば犬のふりしてやり過ごしますか』
モズがしばらく歩くと、小さな商店街へとたどり着いた。
商店街の人々はポプラ同様見た目の年齢が低い者ばかり。
モズは少しの疑問が残るものの買い物を始めた。
『ーまずは肉屋ですね。おっとここですか』
肉屋は、ものこそ少ないものの質の良い者ばかり置いてあった。
「あらいらっしゃい、なんだか珍しいお客だね」
『ワンッ』
モズはメモを店主に渡す。
「このメモの文字、なるほど貴方ポプラさんのお使いね。だったらそんな犬のふりなんてしなくていいよ、ある程度のことは聞いたからね」
『では遠慮なく喋らせてもらいます』
店主はモズの背中のバッグに肉を入れ、代金を受け取った。
『店主殿ありがとうございます』
「いいんだ、帰ったら肉屋の店主がよろしく言ってたって伝えてくれ」
『わかりました、伝えておきます』
モズは肉屋を済ませほかの買い物を全て終わらせ、ポプラの家へと戻る。
『ーしかし、ここの集落の人は殆どが子供のような姿だったが、何故だ?それに大人は居ても殆どが老人だった。これは帰ったら聞くしかないな』
考え事をしているうちに家の前へと着いていた。




