侵入作戦:E
西の部屋のリーチャオは未だに問題を解き続けていた。
「ねぇ、いつまでこんな子供騙しの問題をし続けるの?」
『まだまだ続けるよ?』
「いい加減私も飽きてきたところなんだけど、もうこの扉突き破っていいかしら?」
『いいけど、あまりお勧めはしないかな。』
リーチャオは手にグローブをはめ、目の前の扉めがけて右ストレートを放った。
扉に当たった右腕に鈍い電流が流れる。
「いったい!」
『だからお勧めしないんだよ。下手に出ようとするから、言ってなかったけど、あと5分で全ての問題に答えられなかったら、自動で毒ガス流れる仕組みだから。』
「そんなの聞いてないわよ、ゴホッ!なんだが空気が薄く…」
『あー、それも忘れてた。君にガスをいっぱい吸って欲しいから酸素少なくしていってるんだ。』
今まで強気だったリーチャオはその場で膝をつきしゃがみこんでしまった。
『なに?もう終わりなの?あと3問だっていうのに?』
あと3問という言葉を聞き再びリーチャオは立ち上がった。
「へぇ、あと3問ね。」
『どうしたの?やる気でも出した?』
リーチャオは気合で立ち上がるも、すでに満身創痍であった。
「ふふ、あと、3問なんでしょ?なら答えたほうが早いじゃない。」
『いい心がけだよ。せいぜいタイムオーバーにならないように気をつけてね。』
リーチャオの口角が少し上に上がった。
自分自身の顔を勢いよく叩き気合いを入れるリーチャオ。
その頬は赤くての跡が付いていた。
「言ってくれるじゃない、私だってね、昔からいろんな修羅場くぐり抜けてんだ、そう簡単には死なないさ。」
『余計楽しみになったよ、では第27問目!』
「よっしゃ来い!」
『買い物をしてる女の人がある食材を見つけるとたん、機嫌が悪くなりました。さあ、なにを見つけた?』
今までリーチャオに課せられた問題は、このような子供騙しの数々だった。
リーチャオは大半の答えを知っていたため、悩む時間も少なく、割とスムーズに解けていた。
「答えはニラね。」
『それはどうして?』
「睨みつける。ニラ、見つける。からね。」
『大正解!さすがだね!いやー、ここまで答えられると少し困っちゃうなー。』
悔しそうに聞こえないその声、すでにその声はリーチャオの耳には入っておらず、次の質問に備えていた。
『聞いてないのかな?まあいいや。次の問題だよ。白い犬と黒い犬、静かなのはどっち?』
「馬鹿にしてるの?そんなの黒い犬に決まってるじゃない。」
『では理由は?』
「黙るからでしょ?ねえ、本当にこのまま最後までやるの?」
『そうとも、ちなみに正解ね。まあ、次が最後だから我慢してね。』
最後という言葉を聞き少し安心することができたリーチャオ。
しかしこうしている間にも部屋の中の酸素は抜けていき、死へと近づいていっていることを忘れていた。
『じゃあ、最後の問題だよ。僕の名前と、職業はなーんだ?』
ここに来て、名前と職業を聞かれるとは思っておらず、リーチャオはその場でうろたえてしまった。
『答えられないのかい?答えられないよな。なんてったって君は僕の目論見に気づかずまんまと問題を解いていったからね、名前なんて覚えてるはずないよな。』
「今までの問題はこのためだったとはね。」
リーチャオは今までの問題の意を汲み取り、再び名前を思い出そうとした。
「そうだ、君は一体どこから指令を出してるのか教えてくれないかな?」
『そうだね。ここは戦略会議室だよ。』
リーチャオの脳は今までにないほど回転していた。
ー北部軍事戦略班までは確定でわかったが、その後と、名前が思い出せない。他に何かないのかしら。
考え更けているリーチャオに男は口を出す。
『なに、答えられないの?仕方ないなヒントだよ、僕の名前は鳥に関連する名前だよ。それとね、ここが、無酸素になるまで後1分切ったから、早く答えないと死んじゃうね。』
「うっさい!こっちは考えてるのよ!」
『おー、怖い怖い。』
怖がる様子もなく、やはりおちょくったようにリーチャオに話しかける。
ー鳥の名前?最後が濁音なのは覚えてるけど。なんだ、鷺か?いや違うわね。鵙、そうよ!鵙よ。
リーチャオがようやく口を開いた。
「名前はモズ。職業は、ミスト軍北風軍事戦略班班長。どう?合ってる?」
『正解だ!素晴らしい!残り少ない酸素の中でそこまで考えることができるなんて君なかなかやるね!』
「いいから早く部屋を開けなさいよ!」
『その前に。成績発表!今回の挑戦者リーチャオさんの点数は!満点でした!では、約束通りそこの扉を開けてあげるよ。』
リーチャオの目の前にあるその扉は自動でドアノブが回り、不自然にそれは開いた。
リーチャオのハイに酸素が流れ始めた。
少しふらつきはするものの、リーチャオの体は徐々に酸欠の症状が治っていった。
「やっと息ができる!はぁー、苦しかった。」
『まだまだ安心しては行けないよ。ほら、いいから僕のところまで早くおいで。』
あれから少し歩き、放送がうるさいのもったのかリーチャオのイライラはピークに達していた。
『さあ、まだ着かないのかな?』
「うるさい!ちょっとは黙ってなさいよ!」
モズの挑発を無視しつつ再び奥へ進んだ。
それからしばらくすると、一つの部屋にたどり着いた。
「ちょっとパスワードかかってるんだけど。」
『あー、それね。確かそうそう、2578だよ。』
リーチャオがパスワードを打つも間違っている様子だった。
「違うじゃない。本当は何番なの?」
『わかったからそんな怖い顔しないでくれ、4509だ。』
パスワードがあっていたようで、鍵にはOpenの文字が浮かび上がっていた。
扉を開けるとそこには一台のコンピューターと、機械の犬が置いてあった。
コンピューターには、機械の犬の腹部についているエンブレムと、同じデザインのエンブレムが表示されていた。
「いないじゃない。あなたはどこにいるの?」
『目の前にいるよ。』
その声は目の前のコンピューターから出ていた。
『結果から言うと僕は人工知能と呼ばれるものだったんだ』
「名前はどういうことなの?」
『モズって名前も、正確にはMist Operation System略してMOS。』
「でもそれじゃあ、モス、蛾って意味じゃないの?」
『あー、それね、僕個人が虫嫌いなだけだよ。』
「なによそれ。」
『まあ、細かいことは気にするな、僕の目的は一つ。僕の問題に全て答えられた人に忠誠を誓おうと思っていたんだよ。』
「私は初めての正解者なのかな?」
『その質問に関しては2人目だ、1人目はエイジスだ。まあ、僕はあいつのやり方が気に食わなかったから、こうして次のマスターを探してたってことさ。』
「なるほど。」
リーチャオは予想していたかのような反応を見せた。
モズは、再びリーチャオへ提案する。
『どうだ?僕を連れて行かないか?』
「面白いわね。いいわ、一緒にいきましょう。」
横にあった機械で出来た犬に電源が入り、モズがインストールされた。
機械の犬は立ち上がり、リーチャオの元へ寄っていった。
『これからよろしくお願いします。マスター。』
「よろしくモズ。」
ーこの子どう説明したらいいのかしら。
そんなことを考えつつ1人と1匹は、その部屋を抜けた。




